40.モニカの笑顔
よろしくお願いします!
俺たちが喧しく言葉を投げかけ合っている間、クルトたちはクルトたちで、パーティの中で雰囲気良く談笑していた。
あいつら、マジで仲良さそうだよな。うちとは大違いだ。
例えるなら、あいつらは親友同士、俺たちは腐れ縁って感じだ。
信頼の比が違う。
「それに比べてお前らは……、もっと俺に優しくできないのかよ」
「他人と何を比べても無駄ですよ。隣の芝は青く見えるものでしょう」
「客観的に見て、罵詈雑言が飛び交ってはいないな」
「私たちのパーティにおける悪口って、大抵君が原因だと思うんだけど」
「だから、お前らがもっと寛容になる必要があるんじゃないのか!?」
「そんな情熱的にクズ発言されましても……」
「何だよモニカ。さっきの笑顔はどこに行ったんだ。珍しく俺にデレたと思ったのに」
モニカが笑うところなんてなかなか見れるものじゃない。
それゆえ、俺への好感度が上がったのではないかと期待したんだが。
俺がそう言うと、モニカは顔を少し赤らめながら、目を逸らした。
自分でも、慣れないことをしたとか思ってそうだな。
「別に、笑うくらい良いじゃないですか。何をそんなに気にしているんです、気持ち悪いですよ」
「そっかー。そうだよな。うん」
「ニヤニヤしながら納得しないで下さい!」
プイと背中を向けたモニカは、ボス戦の準備を始めてしまったようだ。
代わるように、ナズナが座る位置を調整し、近づいてくる。
「モニカ、そんなに笑ってたの?」
「大笑いってわけではないけどな。元々あんまり笑わないから、珍しく見えただけだ」
モニカと長い付き合いであるナズナなら、彼女の笑顔なんて見慣れているだろうが。
しかし、ナズナの答えは俺の予想とは裏腹なものだった。
「そっか。私も見たかったな。モニカってホントに笑わないから」
なんだと? 彼女ですら、モニカの笑顔はあまり見たことないと言うのか。
これは思わぬレアシーンを拝むことが出来たかもしれない。
「流石に、何度かは見たことあるんだろ?」
「そりゃあ、長い付き合いだもん。でも、楽しいって感じの笑顔は見たことないよ」
「ほーん。やっても微笑みってところなのか」
何を気取ってるんだモニカは。
中二病に目覚めたての思春期男子みたいなことしやがって。
「そんな話を聞いて、試さない訳にはいかないね」
そう身を乗り出すのは我らが邪神様、エレノラだ。
一体何をする気だよ。
流石に、周りに被害が出るようなことはやらないと信じたいが。
「試すって何をだよ。狂錬金術師」
「別に物騒なことはするつもりないけどね。くすぐりくらいだよ」
「本当かよ……」
全く信用ならない。
と、ここで俺たちの会話から不穏な空気を感じ取ったのか、モニカが立ち上がり、逃走を図る。
だが、それを見逃す人間はこの場に一人もいない。話がどう転ぶにせよ、ここでモニカを逃がす愚は犯さない。
熟練を思わせるチームワークを見せつけた俺、エレノラ、ナズナ、ガウェインにより、彼女は完全に包囲された。
「私に何をするつもりなんですか! 特にエレノラ! あなた最近、ラインズに汚染されてません!?」
「いやいや、私たちはともかく、ナズナも一緒なんだよ? つまりこれはパーティの総意さ!」
「そのパーティに私は含まれていないんですね!」
モニカが絶望する。
だが、それで手を緩めるような俺とエレノラじゃない。
「手始めに、体をくすぐってみようか」
「よし任せとけ」
「嫌です! それは本気で嫌です! やるならラインズ以外でお願いします!」
まるで強姦魔にでも遭遇したかのようにモニカは全力で否定する。
「大丈夫だ! エロゲは極めたから!」
「言葉の意味はよくわかりませんが何一つ大丈夫じゃないのは伝わってきますよ!」
「モニカ! 落ち着いて! 天井のシミを眺めている間に終わるから!」
「ナズナ! その言い回しはそういう時には使わないの!」
泣こうが喚こうが関係ない。
じりじりと距離を詰め、俺たちはモニカに襲い掛かる。
――十分後。
そこにはあらゆる手段で腹筋を鍛えられ続け、疲労困憊といった体のモニカ。
そしてモニカを押さえつけるのに体力を大きく消耗させられたエレノラたちの姿があった。
ちなみに俺は、モニカの感触をこれでもかと味わい、その残滓を感じ取っていると同時に、火照って上気した様子の女性陣を眺めるという崇高な作業の真っ最中だ。
息遣い荒く、乱れた衣服を直しもしないその姿は、非常にえっちだ。
「よかったな。笑顔がちゃんと見れて」
俺は顔を紅潮させたナズナに話しかける。
「なんだか、誰よりも幸せそうな顔だね?」
「当たり前だ。お前たちの友情を深めるささやかな手伝いが出来たんだからな」
「そっか! ありがとう!」
荒れた呼吸を整え、ナズナは純真無垢な笑顔で礼を言う。
……なんだか罪悪感を感じなくもない。
「モニカも、案外楽しかっただろ?」
「そうですね。最後にあなたの顔面に拳をねじ込んでやりたい気持ちでいっぱいです」
「ごめんて」
未だ熱を帯びた表情で、モニカは俺を睨みつける。
あまりの鋭さに、反射的に謝ってしまった。
「……お前ら、あんまりはしゃぎすぎるなよ」
クルトの遅すぎるアドバイス。
それに返答できる者は、誰もいなかった。




