37.デュラハン
よろしくお願いします!
ジャイアントコックローチ戦の後は、もう苦戦するような戦いは無かった。
俺はいつまでも吐き気が治まらなかったので、戦闘に積極的に参加はしなかったが、クルトは淡々とモンスターを殺し続けていた。
銀級冒険者も苦戦するダンジョンであるが、クルトたちも短時間ならばそこまで厳しくはないようだ。
少し状況が悪ければ俺も加勢したし、エレノラのおそらく世界最高峰の支援魔法があったのも楽だった理由の一つだろうな。
俺はともかく、エレノラは魔法の腕と知識だけは超一流だから。
「ラインズ! 加勢を頼む!」
新たに立ちふさがったモンスターを見て、クルトが叫ぶ。
エレノラによると、こいつはデュラハン。
ガウェインのパチモンみたいな見た目をしているが、その鎧にガウェインほどの高貴さはない。
ついでに首から上もないため、攻撃できる部位が鎧を纏っている部分しかない。
「『ファイアエンチャント』!」
エレノラが炎属性付与の術名を叫ぶ。
同時に、俺の剣に炎が灯った。
「『破魔の剣』!」
クルトがアーツを発動する。
これは、対アンデット特化の剣術だ。
自身の生命力を引き上げ、剣に宿す。その強大な生者の気が、死や憎悪を糧とするアンデット系のモンスターは極めて苦手なのだ。
まあ、スケルトンなんかの元々弱い敵にはオーバーキルすぎて、ジャイアントキリング専用技と化しているわけだが。
薄黄色のオーラを纏ったクルトの剣が、デュラハンの腕に向かって振り下ろされる。
銀級冒険者、トータスの街では間違いなく最強の一角であるはずの実力者だ。
その会心の一撃を、デュラハンは難なく大剣で受け止める。
見たところ、どこかの貴族かなにかの家紋が彫られた剣だ。
デュラハンに成るほどだ、よほどの実力者だったのだろう。
「『羽搏』!」
ゴキ戦で発動することが出来たアーツは、これまでの戦いで完全に自分のものにしている。
クルトは他にも多彩なアーツを見せてくれたが、それらはすぐには習得できそうにないな。
以前から魔法を使っていたためか、ある程度魔力の扱いは感覚的に理解していた。
ただ、生命力とか言う謎エネルギーに関しては、見当もつかない。
俺が放った飛翔する斬撃は、エレノラの『ファイアエンチャント』も相まって、充分に可視化されて飛び立った。
不可視、という点もこのアーツの長所ではあったのだろうが、デュラハンには目なんて器官は無く、周囲の魔力を感知することによって状況を知覚しているようだった。
そのため、不可視であることは別に必要ではないのだ。
飛ぶ鳥を象るこの斬撃は、炎を纏うことによって、伝説上の不死鳥のようにも見えた。
不死鳥は、鎧全体を包み込むように炎の渦を造り、宙を駆けた。
いくらアンデットといっても、聖術や『破魔の剣』だけでしか滅ぼせないわけではない。
物理攻撃は効かない場合が多いが、魔力が練り込んであれば話は別だ。
しかし、決定打には成り得ない。
不死鳥はデュラハンの表面を焼き焦がしたが、大きなダメージには至っていないようだ。
だが、それでも構わない。
「さあ、いくよ!」
魔力を練り上げ続けていたシンシアが吠える。
魔法の技量の内、特に高速詠唱が得意な彼女が、ここまでずっと準備していた魔術。
トータス最強の攻撃魔術師である彼女が放つ、大魔法だ。
「『天理久鎖』」
ポツリ、と赤毛の彼女が呟く。
周囲の膨大な魔力が渦巻き、見えている範囲、通路全域を支配した。
あらゆる生物も、魔力も、大気でさえ、今この瞬間は彼女の従僕だ。
シンシアが思い描いた通り、デュラハンは何の反応も示さない。いや、反応を示すことが出来ない。
風魔法、魔力操作、それらを極めた者だけが扱えるこの魔法は、その場の大気を完全に掌握する効果を持つ。
たとえ大人数人を同時に吹き飛ばせるような膂力を擁すデュラハンでさえ、その権能の前には無力であり、尋常でない大気の作用により、体を一切動かすことが出来ないでいた。
こうなれば、操り人形も同然だ。
「さあ! ラストアタックは俺だぁ!」
別段、何か景品があるわけでもないが、俺は好機とばかりに突撃する。
「お前ではまだトドメも刺せないだろう」
そう言いながら俺を追い抜かしたクルトは、先ず腕、そこから胴体を切り裂き、ダンジョンを彷徨っていた騎士の亡霊にトドメを刺した。
ほとんど同時に、周囲を支配していた大魔法が効力を失う。
「これ、数秒しか保たないんだよなー」
お気楽な様子でそう言い、シンシアは魔力回復のポーションを飲む。
あれだけ強力な効果だ、消費も激しいのだろう。
その分、デュラハンとの戦いは楽に終わったが、これは決してデュラハンが弱いというわけではないだろう。
常に慎重を期して、仲間が欠けないよう絶対の作戦を立ててから戦闘を行うのが上級の冒険者だ。
その危機感と冒険心のバランスこそが、冒険者としての階級にも表れているんだろうな。
「まあ、そんなつまんねぇこと知りにきたわけじゃねぇんだけど」
感情論とか精神力とかどうでもいいので、すぐに実力が伸びる方法を教えて欲しい。
誰にも気づかれないような声で、俺はそう呟いた。




