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35.迷子アンド迷子

よろしくお願いします!

 何だあいつは。


 ラインズが、被捕食者のような必死の形相で走り去るのを呆然と眺め続けていたクルトは、ふと我に返る。


 片や、人間としてはあり得ないほどの魔力を保有している上、前代未聞の魔法を使いこなし、あまつさえゴーレムの皮を被った化け物を生み出してしまう魔女。


 片や、本人の実力はまだ半人前なものの、召喚魔法という魔女に負けずとも劣らない、兵站や補給の概念を覆すような異能魔法を使いこなす魔法剣士。


 クルトには、何故、あんなにもお気楽そうに生きていけるのかがわからなかった。それほどまでに、異常な特殊能力だ。

 実際、貴族や軍にその存在を知られてしまったら、面倒なことになるのは容易に想像がついた。何しろ、歴史上類を見ない特殊な魔法を使う人間が、二人も同じパーティにいるのだ。

 鴨が葱を背負っているようなものだ。


「とりあえず、追うか」


「はいよ!」


 とは言え、ラインズたちを野放しにしておく訳にはいかなかった。

 それは、いくら規格外の魔法を扱えても、その実力は鉄級相当であり、銀級冒険者さえも苦戦するようなこのダンジョンでは生きていけるはずもないからだ。


「その点、あの女の子たちはよくやっていたよな」


 モニカとナズナ。

 二人の少女は銅級冒険者であり、まだ子どもでありながら、下位の銀級冒険者にも迫るかという実力を持っている。

 細部に未だ年相応のツメが甘い面も見られるが、それは冒険を積む内に洗練されていくだろう。というのが、クルトの見立てだった。


 奇妙な縁で出会った、平均年齢十三歳程度のパーティ。

 おまけに実力、将来性も抜群だ。

 クルトの興味が湧くのも、無理はなかった。


◇◆◇◆◇◆◇


 何とか撒いたか?


 エレノラの支援魔法により、あらゆる限界を超えて走り続けていた俺は、遂に、あの漆黒の悪魔から逃げ切ることに成功した。


「早く降ろして! くすぐったいんだよ!」


 俺の肩に担がれているエレノラは、じたばたと抗議する。


「ちょっと待て。今から幼女の感触を堪能するから」


「モンスターがいなくなった瞬間にそれなの!?」


 柔らかい、担ぐというポジショニングの関係上、本当に触りたい部分を触ることはできないが、お腹周りとか背中をさすっているだけでも気持ち良いものである。

 こんなにも気分が晴れやかになるとは!


「手つきがキモいんだよ!」


 エレノラの全力パンチ。

 俺の後頭部へ見事にクリーンヒットしたそれは、俺に手を離させた。


 頬を膨らませながら着地し、魔法を唱え始める。

 おそらく、『念話』だろう。


「あ、クルト? 今どこにいるかわかる? 結構遠くにいるみたいなんだけど」


 頭を抱えうずくまる俺にもたれかかりながら通話するとは、いい度胸じゃねぇか。


「お前、俺がその気になったら成功するまでルパンダイブできるってことを忘れるなよ? 触ろうと思えばどこでも触れるんだぞ?」


「煩悩が膨らみすぎだろ。ダンジョンっていう閉鎖空間のおかげで頭がおかしくなっちゃったのかな? ……あ、ごめん。こっちの話」


 エレノラは俺のことなんてお構いなしに話し続ける。


 そうだ。まだあの虫が周囲をうろついているかもしれない。

 警戒態勢は解いてはいけなかった。


 耳を澄ませると、カサカサという音は、全く聞こえてこない。

 よし。と喜ぼうとすると、すぐに、近くの通路から、骨同士が打ち合うような音が洞窟内を反響してきた。


 それに気づいたのは俺だけではないらしく、じゃあそういうことだから。とエレノラも『念話』を終了した。


「スケルトンウォリアーとメイジ。さっきの奴らと同じくらいの強さだけど……」


 エレノラの不安は言葉にせずとも伝わった。

 さっきまではクルトとシンシアがいたからこそ戦えていたのだ。

 俺はほとんど実践練習のような感覚だったし、エレノラも直接攻撃はできない。


「お前、どうにかなると思う?」


「君次第じゃない? 頑張ってね!」


 エレノラは上目遣いで、男に媚びるように応援する。

 こいつ、本当にどこでそんな娼婦みてぇな技を覚えてくるんだよ。


「頑張れじゃねぇよ、お前も頑張るんだよ!」


 文句を口にしながらも、俺は彷徨う骸骨に視線を向ける。

 ウォリアー四体とメイジ二体。数はそんなに多くないのが救いだな。

 いや、これでも結構いるんだがな。

 余裕で探索をしていたせいで感覚がマヒしている。


「じゃあ頑張るよ! 『使徒の盾』!」


 早速、エレノラが支援魔法を唱える。

 盾、という名前から察するに、防御力でも上昇させてくれるんだろう。

 クルトたちがいた時は、攻撃力増加の支援をよく行っていた。


 俺、即ち前衛の安否が勝敗に関わると判断してのことだろう。

 案外、ちゃんと考えているんだな。


「先手必勝だ! 死ねオラ!」


 俺は自身の最高速度で、後列に位置するスケルトンメイジ二体に向けて、突撃する。

 魔術師や僧侶は何をしてくるか分からない上、戦況を大きく変えられる。

 モンスターでも平然と行う、この世界の戦闘のセオリーだ。


 不意を突かれたような骨っこ共は、一切反応できていない。


 全重量を掛けた踏み込み。

 異世界に来てから、それなりに死線をくぐったことで磨かれた俺の剣が、唸る。

 撒き上がる土煙とともに、先手必勝の刺突は、脆い骨の体なんぞ簡単に打ち壊した。


「腕だけか」


 残念ながら、致命傷には至っていないようだ。

 だが、杖を握った腕の関節部ごと、大きくその体を抉り取ることに成功した。


 このままの流れで……!


 依然、数的不利は変わらないが、このまま押し切れば案外楽に終わるかもしれない。


 そう考えたのが悪かったのだろうか。

 俺は昔から、物事が楽に終わることなんてなかった。

 今回も同じだ。


 俺の背後、つまりスケルトンたちと挟み撃ちにするような形で、カサカサと、もう二度と聞きたくなかった足音が聞こえる。


「よし、逃げるぞ。準備しろエレノラ」


「決断早いな!?」


 しかし、どうにも目の前のスケルトンたちはここを通してくれそうにない。


 そして遂に、奴は現れた。

 もしかして……もう見慣れているのでは? ……いやそんなことなかったごめんなさい。


 漆黒の悪魔は、スケルトンにも威嚇の咆哮を上げている。

 三つ巴の戦いか。

 ……勘弁してくれよ。


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