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34.漆黒の悪魔

よろしくお願いします!

 それは、俺たちが逸れてからもう十数回目にもなる戦闘の直後だった。


 周囲から、カサカサという何かのこすれる音がする。

 その音自体に意味は無いはずだが、何故か不安になるような音だ。

 この感覚を味わうのは初めてではなかった。


「エレノラ、クルト、シンシア。なんか変な音が聞こえるぞ」


 俺のその言葉を、三人は首肯する。


「そうだな、ラット系のモンスターか何かだろう。警戒しておけ」


 クルトが言葉を紡いでいる間にも、そのモンスターが発する異音は続いている。

 というか、だんだんと大きくなり、近づいていることがわかる。


「間抜けな奴らだね! 私の魔法で焼き尽くしてやろう!」


 シンシアが威勢よく魔力を手のひらに収束し始める。

 こうやって先に相手モンスターの存在が分かった場合、先手を打って大きな魔法を放てる。

 索敵がどれ程重要なのかという話だ。


 クルトたちのパーティでは、グレイが斥候のような役割も果たしているらしい。

 聖戦士であるグレイは、前衛戦闘、聖術、索敵という多くの役割があるのだ。

 少しオーバーワークではないかと思ってしまう。


「確かに、ラット系のモンスターもこんな足音を立てたはずなんだけど……これはむしろ……」


 エレノラが何かを言いかける。

 しかし、それを言い切る前に、そいつは高速で俺たちの目の前に現れた。


「むしろ何だよ、エレノ……ああああああああああああ!!」


 絶叫。俺はそれ以外の行動が出来なかった。

 そいつのあまりの外見に、身も心も震え上がってしまったのだ。


 無理ですもう勘弁してくださいおうち帰らせてください!


 そいつは、子どもの時からよく見かける生物だった。

 地球にいる奴とほとんど見た目は一緒だが、唯一違うのはその大きさ。

 人を丸ごと食らうことが出来るようなその巨大化は、全人類にとって撲滅すべき敵であることの証左だ。

 漆黒の悪魔、黒塗りの死神、頭文字G。呼び名はいろいろあるが、最もわかりやすいものは、これであろう。


「ゴキブリぃぃぃぃぃ!!」


 俺はあまりの恐ろしさにその場から逃走。

 全力で距離を取った。


「ちょ! ラインズ!? どんだけ逃げてんの!?」


 エレノラが俺を追いかける。

 逆になんでお前は大丈夫なんだよ!?


「お前、虫とか大丈夫系の女子か!? マジありえねぇ軽蔑するわ!!」


「なんでそこまで言われなきゃならないんだよ! 君が怯えすぎなんでしょ!」


 俺が怯えすぎ? そんなわけないだろう。

 戦闘を続行するクルトとシンシアを見ると、ちょうど、轟音と共にシンシアが魔法を発動しているところだった。

 青い炎が巨大な悪魔の体表を舐る。


 しかし、そいつは臆することなく炎の渦を抜け出した。


「な!?」


 シンシアが驚愕の表情を浮かべる。

 虫系のモンスターは、炎属性が苦手なものが大半だからだ。


 悪魔はそのままトップスピードで走る。

 本来、モンスターの感情的に考えたら、攻撃してきたシンシアを狙うのが道理だろう。


「なんでこっちに来るんだよぉぉぉぉぉ!?」


 何故か、悪魔はシンシアたちには目もくれず、俺のところまで一直線に向かってくる。

 俺は未だ逃走を続けている。

 ああ、クルトたちがどんどん見えなくなっていく。


 だがこのままでは追いつかれそうだ。

 悪魔の移動速度を甘く見てはいけない。


 丁度良いところに、囮が走っているではないか。


「エレノラぁ! 盾になれ! 俺が逃げる時間を稼げ!」


「自分より小さな女の子によく言えるな!?」


「うるせぇ! お前実年齢数千歳とかのババアだろうが! 幼女ぶってんじゃねぇよお花畑が!」


「ババアって! 心外だよ! 精神年齢はまだ若者だよ私は!」


「その発言がもう若者じゃねぇんだよ!」


 そうこうしている内にもう悪魔は俺たちのすぐ近くまで迫っていた。

 本当にヤバい! あんなのに体を触れられたら、もう精神が保てない気がする!


「エレノラ! 攻撃魔法! 爆散してでも自分ごと殺せぇ!!」


 ガウェイン戦を遥かに上回る絶望感の中、俺はエレノラに最後の手段の行使を要求する。

 だってこれ以上は精神が耐えきれない。

 今でもギリギリ気絶しないで走っているくらいなのだ。


「どんだけ恐ろしいんだよ!? 親でも殺されたの!?」


「俺がダメなのはキモイ虫全般だ! こいつは特に無理!」


「女子か!」


「やかましいわ!」


 エレノラは悪魔に向き直り、魔力を収束させる。


「ああもう、しょうがないなぁ! 『防護壁(ウォール)』!」


 見えない障壁が悪魔と俺たちの間に出現。

 悪魔は自身のトップスピードのまま、その不可視の障壁に激突した。

 巨体の衝突に、空気が揺れる。


「長くは持たないよ! 今のうちに倒そう!」


 は? 倒す?


「無理に決まってんだろ! 剣で斬るってことは近づくってことだぞ!? 返り血とかも飛んでくるんだぞ!? 最悪触っちゃうんだぞ!?」


「それも駄目なのかよ! なんで冒険者やってんだよ!」


「うるせぇ! 無理なもんは無理だ! こんなところにはいられねぇ、俺は逃げるぞ!」


「それ死亡フラグだよ!」


 俺は、脱兎のごとく駆け出した。

 数瞬の後、エレノラの支援魔法が発動し、体が翼でも生えたかのように軽くなる。


「サンキューエレノラ! そしてバイバイ!」


「あ! 私を置いて逃げるな!」


 なんでだよ。本当は、悪魔の姿なんて一秒たりとも見たくないんだぞ。

 ……仕方ない。


 俺はエレノラを肩に担ぎ、そのまま走り出す。

 軽いなこいつ。まあ、当たり前か。


 不可視の障壁に何度か体当たりをしていた悪魔は、ついにその障壁を打ち破る。

 そんなに頑張ってまでなんで俺を追っかけてくるんだよ! 執念深すぎだろ!


「ラインズ! どこ触ってんの!?」


 エレノラがなにやら喚いている。

 何を照れているんだこいつは。


「恐怖心でお前の感触なんて伝わってこねぇよ! 黙ってろ!」


「な! 女の子にそれは失礼じゃないかな!?」


 知るか。

 お前実年齢数千歳越えのババアだろ。女の子自称してんじゃねぇ。


 俺はその言葉を飲み込み、担がれているエレノラの罵声を浴びながら、俺は逃走を再開した。


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