33.羽搏き
よろしくお願いします!
そして現在。
エレノラが魔法によって展開した光に包まれながら、俺たちは探索を続けていた。
「エレノラ。この状況って、どんなに甘く見積もってもお前のせいだよな」
ボス部屋で起きたことを思い出し、俺は文句を吐き出す。
ボス部屋が崩落して、おそらく死者が出ていないことが唯一の幸運だ。
「いや、そもそもダンジョンは絶対に壊れないはずなんだから、壊れた方がおかしいでしょ。このダンジョンを造った奴が悪いよ。あと、ガウェインの戦力増加はやらなきゃいけないことだったし。おまけに、パーティが逸れたのは落ちた瓦礫のせいなんだから完全に偶然だよ。私は悪くない!」
「お前、よくそんな見苦しい責任転嫁ができるな!? 今時、子どもでももう少し素直だわ!」
エレノラは開き直り、尊大な態度での物言いだ。
こんなのが神様をやってるとか世も末だな。
「『念話』でみんなの安否確認もしたし、逆に君の方が役に立っていないんじゃないのかな!?」
「俺は補給面で役立ってんだろうがよ! 『召喚魔法』舐めんな!」
俺がいるから余計な荷物を持たなくて済むんだぞ。
「クルトたちも言ってやれ。文句の一つや二つあるだろ」
俺は戦闘を歩くクルトに声をかける。
彼とシンシアは、俺たちとは別に話していたようだ。
「まあ、心配でないと言えば嘘になるが、そこまで気にしてはいないぞ」
「あんなにすごいゴーレムを見せられちゃったら、心配なんて吹き飛んじゃうよねぇ」
二人は呆れたように言った。
嘘ではない、心からの言葉のようだ。
確かに、ガウェインはあちら側にいるらしいし、戦闘での事故はそうそうないかもしれない。
だが、その寛容さは本当にありがたいな。
「いやいや、もっと言っていいぞ。こいつが調子に乗る」
「そんなことないよラインズ! 今回の反省を次回にいかせるよう頑張りたいと思います。だよ!」
「小学生の感想みたいなことを言うな」
こいつは体が子ども、頭脳は大人みたいなロリババアだったはずなんだが。
最近、知力が肉体に引っ張られている気がする。
「それで、クルト。次のボス部屋までどのくらいになりそうだ?」
俺たちは、『念話』によって次の集合場所を決めていた。
それが、地下三階のボス部屋の前である。
「地図だって詳細なものではないからな。微妙なところだが……二時間もかからないだろう。近いと思うぞ」
「それならいいんだが」
「クルト! ラインズ! モンスターだよ!」
シンシアからの警告。
同時に、目の前から巨大な蝙蝠たちの群れが迫りくる。
「カーテンバット! 集団での目くらましに注意!」
エレノラが、モンスターの生態を看破する。
こういうところは流石なんだけどな、本当に。
「ボス戦分が浮いたからな! 『羽搏』!」
クルトが細剣を、眼にも止まらぬ速度で振るう。
放たれた銀閃と共に、聞こえてくるのは鳥の羽搏きだ。
超音速の斬撃により発生した衝撃波は、触れてもいない蝙蝠たちを次々と撃ち落としていく。
「エレノラ! 付与術!」
クルトにばかり活躍させてやるのも癪だ。
俺はエレノラを呼ぶ。
「はいよ! 『ファイアエンチャント』!」
エレノラの付与術により、俺の剣に炎が灯る。
先のガウェインの一撃ほどではないが、赤熱し、炎を纏った剣はなかなかの迫力だ。
「『羽搏』!」
見よう見まねで、クルトのアーツを模倣する。
自分にセンスがあるとは思っていない。
この技は失敗するだろう。
予想通り、俺の剣は衝撃波を出すことなく、近くの蝙蝠を切り裂いた。
モニカは前、アーツを使う人間は魔力や自らの生命力を利用していると言っていた。
その辺りがまだよくわかっていないんだよな。
これだから感覚的な特訓って嫌いなんだよ。
「ラインズ、斬撃に魔力を込めて飛ばすイメージでやってみろ」
クルトがアドバイスをくれる。
だからイメージってなんだよ!?
文句を言いたくなる気持ちを抑え、俺は再度、未だ燃ゆる剣を横薙ぎに振るう。
魔力を込めて、飛ばすイメージ!
一瞬、剣から斬撃が、確かに飛び出たような気がした。
だが、それは蝙蝠に掠り傷一つ付けることなく消え去った。
「『選別の炎』!」
シンシアが、青い炎を解き放つ。
自らの敵以外を焼き尽くす魔術は、例外無く、蝙蝠の全てを撃ち落とした。
シンシアがいるとモンスター討伐が捗るな。
早く終わりすぎて、アーツの特訓が基本的にできないが。
戦闘が早く終わるのは良いことだ。贅沢も言っていられない。
クルトとシンシアが魔石などを回収するのを見守り、探索に戻る。
八人で行動していた時はなんとも思わなかったが、このダンジョン、やはりモンスターの数が多い。
クルトたちがガウェインを望んだのも納得だ。
最高戦力ガウェインがいる間は、基本的に戦闘で負けることは少ないと思う。
なら、一番危険度が高いのは俺たちのパーティかもしれないな。
強力なモンスターが現れたら、危ういかもしれない。
「ラインズ、エレノラ。待たせたな」
クルトの声が聞こえる。
蝙蝠たちの死体漁りが終わったようだ。
「ああ」
俺は短く答える。
そして、また隊列を組みなおす。
俺たちはまた、歩き始めた。




