31.墳墓迷宮
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洞窟内に、金属と金属がぶつかり合う音が反響する。
一寸先も見えないような闇の中。ただその音だけが、生物が存在している証明だった。
その若々しい外見に似合わず、勇猛果敢に細剣を振るうのは、銀級冒険者であり、今回俺たちが手伝いに来ているパーティのリーダー、クルトだ。
対するは、ここ『墳墓迷宮』の代表モンスター、スケルトンウォリアーだ。
骨、として形容できない魔物たちは、生前付けていたのであろう革製の装備を纏い、俺たちに襲い掛かっている。
「大丈夫か!?」
余裕を見せるクルトは、同時に襲われている他のメンバーの様子を確認する。
クルトの仲間はもちろん、俺たちも負傷者はいないようだ。
「『選別の炎』!」
後方に位置する、赤毛の女。クルトのパーティの魔法使いである彼女、シンシアは、詠唱を一部省略し、高速で魔術を行使する。
現れたのは、青き炎。それは、敵味方一切の区別なく、全てを平等に包み込んだ。
だが、何故か熱くはない。この魔法は名前の通り、敵だけを燃やす技なのだろう。
体の大部分をスケルトンウォリアーたちは、たちまちの内に崩れ落ちていく。
残るは、最奥に構えている骨の魔術師、スケルトンメイジのみだ。
「――――」
音も無く、クルトが何かを投擲した。おそらく、ナイフか何かだろう。
ナイフは、一直線にスケルトンメイジの持つ杖を捉えた。
杖と共に、骨の破砕音が聞こえる。
一瞬で距離を詰めたクルトは、スケルトンメイジを頭蓋から股間まで、一直線に叩き斬る。
驚くべきは、その骨の体がバラバラに砕けていないことだ。
洗練された、鍛え抜かれた剣の腕が成せる業だった。
スケルトンを全て破壊し尽くし、クルトたちは戦利品を回収する。
少し残念だ。戦利品を入手できないとは。
まあ、俺たちはほとんど何もしていないから当然なんだが。
「やっぱり明かりをつけないか? その方が戦いやすいだろ」
俺はクルトにそう提案する。
さっきまではエレノラが魔法によって光源を確保していたが、モンスターを引き寄せてしまうという理由で明かりを消していたのだ。
ただ、この戦闘で俺が全く動けなかった。
それだけでなく、クルトもシンシアも、明かりを付けていた時の方が動きが良かったように思える。
「確かに。わざわざ消す必要もないかもな。逸れた奴らにも場所を知らせないといけないし」
そう。俺たちは今、俺とエレノラ、クルトとシンシアという四人組で探索をしている。
だが、『墳墓迷宮』に入った際は、パーティごとに四人ずつの八人組だったのだ。
きっかけは、地下二階のボスモンスター。
そいつと戦った時だった。
◇◆◇◆◇◆◇
今日、俺たちがこのダンジョンに潜っているのは、両者の条件を同時に満たすためだ。
『墳墓迷宮』。銀級冒険者をして、難関ダンジョンだと言わせる魔境だ。
トータスから馬車で半日行ったところに位置する平原。
かつて大規模な戦争があったそこは、いつしか大量のアンデットが湧き出すようになっていた。
『墳墓迷宮』とは、大部分をその平原の地下に埋める洞窟の名前である。
クルトたちは、俺たちを利用し、この難関ダンジョンを攻略することを目的としている。
このダンジョンの最下層は地下五階。
最奥に君臨するダンジョンボスのドロップアイテムは、それはそれは価値がある物だと言う。
対する俺たちは、この危険な冒険に随行することで、モンスターの経験値を得ること、クルトたちからアーツなどの戦闘技能を伝授してもらうことを目的としている。
八人なんて大所帯で冒険をするなんて、俺たちには経験がない。
ただ、道中、数々のモンスターを瞬殺していくのを見て、数の暴力の恐ろしさを感じていた。
だって、俺、モニカ、クルト、グレイという聖戦士の女性、ケインという剣士の男性、そしてガウェイン。
ぶっちゃけ、これだけで過剰戦力だ。何ならガウェインだけでもいいかもしれない。
それほどの蹂躙だった。
後衛には、エレノラ、ナズナ、シンシアが控えており、状況に合わせた各種魔法を唱えてくれる。
特にエレノラの支援魔法は、銀級冒険者のパーティでも重宝されるものであり、クルトたちも驚いていた。
地下二階で大量のモンスターの群れに襲われた際も、前衛の過剰戦力と後衛による面制圧で、大した苦戦をせずに進んでいた。
今、俺たちの目の前には、地下二階のボス部屋への門がある。
俺たちは少し離れたあたりで、休息をとっていた。
まあ、一階、地下一階のボスモンスターはガウェイン君がボコボコにしていた。
だから、今回のボスも多分楽勝だろう。
「いやーここまで、かなり楽勝でしたね!」
陽気に話すのは、ガチガチの重装備で体を覆った剣士、ケインだ。
兜で普段は見えないが、黒の短髪で誰に対しても朗らかな丁寧口調。
運動部の後輩って感じの青年だった。
「そうだねぇ。ガウェイン、だっけ? そいつが暴れ回ってくれるおかげで、私たちは楽ができるってもんだ」
シンシアは快活に笑う。
男勝りな印象を受ける彼女は、それでいて冷静に魔法を行使する判断力を持ち合わせている。
何故、研究や勉強が必要不可欠な魔法使いという役割を選んだのか、疑問ではある。
「そうでしょうそうでしょう! 何てったって、この私の自信作だからね!」
エレノラが大きな胸を張る。
相変わらずの自信家だな。
クルトたちのパーティは、全員が親戚の姪を見るような表情をしていることを伝えたら、どんな顔をするだろうか。
生者のいないこの迷宮に、和やかな笑い声が響いていた。




