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30.白貴族

よろしくお願いします!

 クルトとの話し合いの後。

 俺たちは冒険者ギルドからお暇し、帰路についていた。


「勝手に決めてよかったの?」


「交渉のことか? それなら大丈夫だろ。割と破格の条件じゃないか? あれ以上は望めないだろ」


「そういうことじゃなくて! モニカたちに相談もせずに決めていいのかってことだよ」


「俺があの場で約束したのは俺とお前が依頼を手伝うってことだけだ。モニカたちは関係ないだろ」


 俺たちが依頼を手伝ってやる。の俺たちにはモニカとナズナは含まれていない。


「うわぁ。詐欺じゃない? それ」


「確認を怠った向こうが悪いだろ。それに、クルトが求めているのは多分ガウェインの戦力だけだ。鉄級の俺たちには大して期待してないだろうよ」


「確かに、一理あるけど」


 何にせよ、モニカたちへの報告は必要だろうがな。

 もしかしたら、付いてくるとか言うかもしれないし。


 そんなやり取りをしながら歩いている時だった。

 突然、辺りの人が皆、口を閉じていく。

 それがルールであるかのように、彼らは俯いたまま、道の端へ寄っていった。


 未だ日は高く、人通りも多いと言うのになんとも異様な光景だ。


「こいつら、急にどうしたんだ? 何の文化だよ?」


 声を出しているのは俺だけだ。

 酷く場違いな感じがして、中学生の頃のトラウマが蘇る。

 大変気分が悪いぞ。


「とりあえず、周りに合わせておいた方がいいよ。得意技でしょ」


 エレノラが訳知り顔で俺に毒を吐く。

 ……どちらかと言うと俺は空気を読まない方だと思うが。


 彼らが口を噤んだ理由はすぐにわかった。


 俺がエレノラを真似て、不愛想な顔で俯いていると、遠くから、パカラパカラと小気味の良い音が聞こえてきたのだ。

 おそらく、馬車かそれに類するものであろうということは、流石の俺にも理解できた。

 そして、周囲の反応と俺の知識から推測するに、あれの正体は……。


「はーっはっはっは! 今日も庶民を見下ろすのは楽しいな! オイそこのお前、毛根が絶滅の危機だぞ。哀れだな!」


 華美で、機能性を度外視したような馬車に乗って現れたのは、丁寧にお手入れされているであろう艶のある髪を、クルックルンに巻いた青年だった。


 白いタキシードみたいな服で着飾り、白馬に引かれた白塗りの高級馬車に揺られている。


 白好きすぎだろこいつ。


 見るからに貴族。これぞ貴族! って感じの風体だ。

 そんな貴族青年は、俯いている庶民に関して逐一コメントを残しながら、嘲笑と共に通り過ぎていく。


 驚くべきことに、そのコメントのほとんどが毛根の生存状態を憂うものだった。嘲笑付きではあるが。

 そう考えると、案外庶民に気を配っている貴族だと言えるかもしれない。


 白々しい貴族が見えなくなると、歩行者たちはわかりやすく安心していた。

 やはり、嫌われているのだろうか。


「……何だったんだ? 今の」


 俺は、神様の癖に人間ごときを気にかけているエレノラに質問した。


「この辺りを治めるエイゼン家の一人息子、ハンス・エイゼンだよ。今日はたまたまこの街に用事があったんだろうね」


「へー」


「何だい。不満そうだね」


 不満そうだね? そりゃあそうだろ。


「絶対俺の方がイケメンだろうが! しかも有能! 何であんなのが貴族やってんだよ!」


「あまりにクソみたいな意見だ! けど結構民意を捉えてるね!」


 他の奴らも大体似たようなことを考えているんだな。

 どこの世界でも貴族は嫌われ役か。


「どうせ貴族なんて毎晩レッツパーリーしてるんだろ!? ふざけんなうらやましいわ馬鹿野郎!」


「すごい偏見だね。本当に君には権力を持たせたくないよ」


「なんとかしてあいつ蹴落としてぇな……」


「やるなら一人でやってね? パーリーも抜けた後で」


 エレノラは俺を切り捨てる気満々のようだ。

 おかげで俺も遠慮なく迷惑がかけられる。


 まあ! 貴族とのトラブルなんてそうそう起こらないだろうからな! 気にする必要はない、物語じゃあるまいし。


 俺はそう考えを切り替えて、大人しく帰ることに決めた。

 逆恨みで一発ぶん殴ってやりたい気持ちはあるが、それもすぐに記憶の奥へと消えていった。


 妖精の止まり木亭に帰った後、俺はモニカやナズナに冒険者ギルドで起こったことを報告した。


 ガウェインの今後の活躍が期待されることや、クルトとの交換条件という、割と明るい話題だったはずだ。

 しかし、それに対してのモニカの反応は冷ややかなものだった。


「あなたは行く先々でトラブルを起こしますね。キンニさんの安否が気になります」


「もっと気にするところがあるだろうがよ。アーツを教えてもらえることなんてなかなかないだろ?」


「確かに、道場などに通わなくてよくなったのはありがたいですね。正攻法では、お金がいくら飛んでいくかわかったものではありませんから」


「今日のラインズはお手柄だね!」


 ナズナは相変わらず俺に寛容である。


「ナズナ、褒めてくれるか! お礼は添い寝でいいぞ!」


「セクハラやめてください! 切除しますよ!」


「ヒエッ……」


 研究所で、例のスライムに遭遇したあたりから、モニカのセクハラへの敵意が一層高まった気がする。


 以前なら「じゃあやってみろよ!」ボロン。とかやってなくもなかったが、今は本気で去勢されそうで怖い。


 研究所でラッキースケベは十分堪能したしな。

 思い出すだけでご飯三杯は余裕だ。



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