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2.ボーイミーツガール

よろしくお願いします。

「召喚。松明」


 俺がそう呟くと、青の魔法陣が宙に浮かんだ。そして、そこから火のついた松明が出現する。

 同時に、自分の体から何かが失われていくのがわかった。これが、魔力というものなのだろう。体感的には剣と同じくらいか。


「あっち」


 手にした松明は普通に熱かった。そりゃそうだ。


[ねえ。さっきから適当に歩いているみたいだけど、道わかってないでしょ]


「当然。ってかそういうのは基本的にお前の仕事じゃね?」


[そうかい]


「いや、そうかい。じゃなくてだな……」


[あ、ゴブリンだ。ほら戦って!]


「コイツ……」


 仕方がなく振り向くと、さっき戦ったのと同じくらいのゴブリンが、二匹、俺のことを窺っていた

 目が合ったのを合図に、こちらへ突撃してくる。


「二体はずるくねぇ!?」


 文句を吐き出しながら、片手だけで横薙ぎに剣を振るう。

 ゴブリンの片割れは突撃の勢いを殺しきれなかったのか、俺の力ずくの剣に呆気なく吹っ飛ばされた。見ると、ピクピクと痙攣していて、もう動くことはなさそうだ。


「案外いけるか?」


[だから言ったでしょ。弱いって]


 今までエレノラの言葉なんて微塵も信じてはいなかったが、どうやら本当に大したことないらしい。なら、やることは一つだ。


「オラオラどうしたァ!? 雑魚が俺に歯向かってんじゃねぇぞォ!」


 そう。煽りである。


[ゴブリン相手に何してんの!?]


「は? ゴブリンだろうが何だろうがみんな平等に接してるだけだ」


[言ってることはそれっぽいけど、やってることただの小物だからね!?]


 何やら外野がうるさいが、戦闘の続きといこうじゃないか。

 ゴブリンの目には少し怯えが見られるが、まだ戦意喪失とまではいかないようだ。

 なかなか良い心構えじゃないか。


「ぶち殺す!」


 俺はそう叫び、剣を突き出した。

 ゴブリンも必死に躱そうとしたようだが、そもそもの身体性能が違う。

 剣はゴブリンの脇腹を抉った。続けて、俺はその傷口を思い切り蹴り飛ばす。


「グギャ!」


 悲痛な声が洞窟内に木霊する。


「これで終わりだ」


 倒れて蹲る小鬼に剣を突き立てる。断末魔の後、辺りに静寂が訪れた。

 これが弱肉強食の世界だ。弱いのが悪い。

 ゴブリンの絶命を確認し、剣を降ろす。

 それを見計らってか、女神が念話を飛ばしてくる。


[いやー、見事なまでの悪役ムーブでしたね]


「だろ? 俺の特技は人の恨みを買うことだからな。もっと褒めろ」


[皮肉が通じないな!]


「俺をその程度の悪意で傷つけられると思うなよ? 大抵の悪口とイジメは小学校の時に乗り越えたからな」


[なんかカッコいいけどカッコ悪いよそれ!]


「何言ってんだ。どこもカッコよくなんかないだろ」


[悲しいなぁ……]


「全くだ」


 そうやって、思い出話に花を咲かせていると、俺は、視界に蠢く影を捉えた。体長は俺と同じくらいで、こちらに気づいているようだ。

 また、ゴブリンか。いや、ゴブリンにしては大きいな。そんなことを考えて、剣を向ける。

 もし、魔物ならば、顔が見えた瞬間にその両の眼を抉り取る気概だ。

 やがて、その影は両手を挙げながら前に出てきた。


「こ、こんにちは~」


 まず、緊張したような声が聞こえた。松明の明かりに照らされ、その顔が見える。

 現れたのは、結んだ金髪に、蒼色の眼の少女。歳は今の俺と同じくらいだろうか。前世では見たことがないような美少女が、そこにいた。


「お、おおお、おう。こんちは」


 やっべ、女子と物の受け渡し以外で話すのなんて久しぶりすぎて、何言えばいいかわかんねぇ!


[はい、キモい! アウト!]


(やかましいわ!)


 エレノラのヤジが非常に不快だ。マジでコイツいつかぶっ飛ばす。


「マジで殺してやるからな」


「はい!?」


 マズい。女神への抑えきれない殺意が、どうやら声になってしまったようだ。早く誤解をとかなければ。

 俺が口を開くよりも早く、少女は何かを決意した表情で


「殺さないでください!」


 そう懇願しながらジャンピング土下座、いやジャンピング五体投地で地面にその綺麗な顔を擦り付けた。けっこうな勢いだったぞ今! 大丈夫か!?

 ってか、誤解を解かねぇと。


「いや、誤解だ! 別に殺そうとはしてねぇ!」


「じゃあさっきの発言と、その抜き身の剣は何ですか!? 完全に臨戦態勢じゃないですか!」


「これは(ゴブリンの)眼を抉り取るためだ! 安全だろ!」


「何が安全なんですか! 頭おかしいんですか!?」


「おかしくねぇよ! どっからどう見ても普通だろ!?」


「その剣! 血がべったりついてますよ! それが動かぬ証拠です!」


「さっき1人殺したんだよ! お前が気にすることじゃないだろ!」


「完全にやばいやつじゃないですか! 善悪の判断ができてないじゃないですか!」


「何言ってんだよ! 証拠として向こうに(ゴブリンの)死体もあるぞ!」


「自己承認欲求が高いタイプの狂人だ! もうダメだ!」


(何だコイツ、話が通じねぇ)


 地面をゴロゴロと転がりまわるその残念な美少女を横目に、女神に助けを求めた。

 既にこの少女とのコミュニケーションは諦めている。


(どうするんだこれ?)


[私に言われても……]


(このままだと、女の子に地面を這いずり回らせる男みたいになるんだけど)


[そうすると、どうなるの?]


(俺がクズ男になる)


[今と変わらないじゃん]


(確かに)


[……とりあえず、自己紹介でもしたら?]


(まあ、やってみるか)


 エレノラの助言をもとに、俺は少女に話しかける。これで、何が変わるとも思えないが。


「なんか勘違いしているようだが、俺は君に危害を加えるつもりはない」


「今更そんなの信じられませんよ!」


「まあ待て。もっと俺の顔をよく見ろ」


 諭すようなトーンで、少女に語り掛ける。


「何を……!? ありえない!」


「フッ、現実を受け止めたまえ少女よ」


 その驚愕の表情が心地いい。少し驚きすぎな気もするが。ありえないってなんだ。

 しかし、そんな無礼も今なら許すことができる。

 何故なら俺は


「イケ……メン!?」


 そう、俺はイケメンだ。イケメンなのだ! 神様の力を使った顔面偏差値はこの世界の頂点に達する。

 美男美女とは、世界の王たるを生まれながらに義務付けられた真の勝者だ。

 その勝者の中のトップに君臨する俺の美貌の前では、あらゆる人間が平伏す……


「で、それがどうしたんですか?」


「!?」


 俺のイケメンパワーが効かない?そんなことがあるのか? いや、ありえない。何故だ。


[ちょっとラインズの思考が読み切れなくてなんとも言えないんだけど、君がすごい馬鹿なのはわかるよ]


(おい、女神。俺は人類誰しもが服従するレベルのイケメンを願ったぞ。話が違う)


[イケメンパワーを過信しすぎじゃないですかね……]


 なんてこった。完全に計算外だ。

 というか俺の転生特典酷すぎないか? まともに扱えるものが無いじゃねぇか。

 人、物、運の全てを支配する完璧な作戦だったのだが。

 俺が絶望の淵に立たされていると、今度は少女の方から話しかけてきた。既にその目から恐怖は無くなっている。


「もしかして……ゴブリンを倒してただけですか?」


「ようやくわかったか。最初からそう言ってたんだけどな」


「すみません。言動が完全に不審者だったので間違えました」


「何のフォローにもなってねぇな!?」


「何のフォローもしてませんから」


 おや? この女、実は女神と同じでなかなかいい性格してやがるな?

 まあ別にいいけど。その方がやりやすいくらいだ。


「とりあえず、自己紹介といこうぜ。俺の名前はラインズだ。気づいたらここにいた」


「気づいたらここにいたって何ですか。……不穏な事情があるようですが、くれぐれも私を巻き込まないでくださいね? あ、名前はモニカです。覚えなくていいですよ」


「……最初は、巻き込まないようにするつもりだったけどな、腹立ったんで全力で巻き込む方向でいくわ」


 何やら勝手に勘違いしているが、別にそんな大層な背景なんてない。けど面白そうなので説明はしない。どうせ出口もわからないんだ。一緒に行動できたらラッキーだろう。


「いやです! どんな事情か知りませんが死ぬなら1人で死んで下さい!」


「いやだね! 俺は何かする時はいつも誰かを口車に乗せて先陣切らせるんだよ! だからお前も一緒に来てください! 悪いようにはしませんから!」


「こんなに白々しい『悪いようにはしない』初めて聞きましたよ! やっぱり狂人じゃないですか!」


「なんだとぉぉぉぉぉ!? アアァァァァァァァァァ!?」


「情緒不安定すぎでしょ!? 裏声でブチ切れないでくださいよ気持ち悪い!」


 互いに全力で怒鳴り合い、息が切れる。っていうか、こんなに騒いだらゴブリンどもがくるかもしれないな。さっさと話をつけよう。


「と、いうことで、改めましてこれから行動を共にする事になるラインズだ。よろしく」


「どういうことですか。今までの会話のどこをとったらその結論に至ったんですか」


「まあ待て、お前の目的のためにも悪い話じゃないだろう?」


「私の目的を話した覚えがないんですが」


「……多分悪い話じゃないんだよ」


「交渉ドヘタクソか」


 まあ、何やら目的があってここにきたことは確実のようだが、何だろうな。簡単なことなら手伝ってやるのもやぶさかではない。


「ちなみにお前はなんでここにいるんだ?」


「……ゴブリンに攫われた人を助けるためです」


「ふーん。なるほどね」


 どうやらこの世界のゴブリンは現世で言うところの薄い本系の生態を持っているようだ。

 念のため、女神にも確認しておく。


(女神、ゴブリンの生態ってどんな感じだ?ゆるふわ草食系だったりしない?)


[一匹一匹の能力は低いが、小狡い知性と残虐性を持つ。群れを作り、階級のある社会を形成する。多種族の雌を攫って繁殖する。当然人間も含まれる]


(ワオ! 人類悪!)


[一匹なら人間の子供程度の実力なんだけどね。群れるからねしょうがないね]


(この女が言う連れ去られた奴は無事か?)


[連れ去られて間もないなら無事なんじゃない? 1週間経ってたらまずアウトだね]


(なるほど)


 状況は把握した。なら俺がやるべきことは一つだ。


「そっか、大変だったな。じゃあ頑張ってくれや。俺に手伝えることは残念ながら何もないわ」


 こんな面倒ごとに付き合っちゃいられねぇ。早々に見捨てて俺は見て見ぬ振りをさせてもらおう。


「あの……やっぱり、友人を探すのを手伝っていただけないでしょうか?」


 どうやらモニカは二人で行動したほうが良いと思い直したようだ。

 だが、俺の事情が変わった。何とかして断ろう。


「いや、俺の実力じゃあ足を引っ張るだけだ。力にはなれないだろう」


「そんなことはありません! 仲間が増えるだけで心強いです!」


「いやいやいや、俺は出口もわからないし」


「なら出口を探す間だけでも!」


 だいぶ食い下がるな!? さっきまでの不遜な態度はどうした!


「……仕方ない。出口までだぞ」


 適当なところで逃げ出せばいいのだ。それまでは肉盾として活躍してもらおう。


「本当ですか!?」


「ああ。本当だ。俺は人との約束は必ず守る男だからな」


「一気に信じられなくなりましたがありがとうございます!」


「はっはっは。礼には及ばないよ」


 こいつ、相変わらず言いたい放題だが、ここは我慢して善人アピールに徹しよう。

 油断してくれたほうが出し抜きやすいだろうからな。


「何か企んでません?」


「い、いいや? ソンナコトナイヨ」


「ふーん。まあいいか」


 なかなか勘が鋭いやつだな。慎重にいこう。

 出口を見つけるまでの辛抱だ。


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