28.腕相撲
よろしくお願いします!
多くの冒険者に囲まれた円卓の上では、二人の男が互いに向き合っていた。
がっちりと手を組んでいるところを見るに、力比べでもしようというつもりなのだろう。
俺は机を囲む冒険者の一人に声をかけた。
「これは、何をしているところなんだ? やけに野次馬が多いな」
「腕相撲だよ、見りゃわかるだろ? ここでは互いに賭けをしてるんだ。見物人は順番待ちやら冷やかしやらだな。……まあ、遊びみたいなもんだが」
「へー。賭け腕相撲ね」
よく見ると、どの冒険者もゴリゴリのマッチョメンだ。やはり、力自慢なのだろうな。
周りの冒険者がわっと一気に盛り上がる。
どうやら今やっている試合の決着がついたようだ。
そこまでの大金は賭けていないようだが、まあお小遣いにはなりそうだな。
面白そうだし、俺たちも参加してみるか。
順番通りに次の冒険者二名が円卓に着こうとした時、俺は人を押しのけてこう叫んだ。
「ちょっと待ちな! 呑んだくれマッチョメンども!」
楽しそうにしていた冒険者たちは、きょとんとした顔で俺の方を見る。
俺は構わず続けた。
「俺たちと勝負しないか!? もちろん、それなりのものを賭けさせてもらう!」
「ああん? おめぇ、そんな細っせぇ腕で勝負しようって言ってんのか? ……それで、何を賭けるって?」
「よくぞ聞いてくれた! 俺が賭けるのは、この幼女に何でも一つ言うことを聞かせる権利だ!」
俺が言い放つと同時に、ガウェインが拘束していたエレノラを解放する。
このレベルの美幼女は、美形が多いこの世界でもあり得ない程だ。
おまけに巨乳。
ロリコンではなくとも、釣られる人間は多いと見た!
「なんでそんなに自信満々なんだよ!? 私はそんなの認めないよ!」
「お前が認めるかどうかは問題じゃない。野郎どもを見ろ」
「ウォォォォォォォォォォ!!」
「子ども相手に興奮しすぎだよこいつら!? 頭が終わってるやつしかいないのかよ!」
「ここはダメ人間の巣窟だからな。このくらいは序の口だぞ」
「大丈夫なのこのギルド!?」
既に上がり切っているボルテージを収めることなどできない。
「やっぱり無理です。なんて言ったら最悪殺されるぞ。男心を弄んだ罪で」
「そんなに!? ぐぅ……勝算はあるんでしょ? 絶対勝ってよね!」
よし、本人の了承が出た。
「エレノラ。それを言うのは俺じゃないぞ」
「え?」
エレノラが、間抜けな声を出す。
俺が、力比べで勝てるわけないじゃないか。
最適な人材がいるだろう。
「ガウェイン君! 頑張ってくれ!」
俺の命令に応じ、彼はガシャンガシャンとテーブルに着く。
やる気は十分だな。
「オイ、坊主! あいつ、ゴーレムだろうが! そんなのルール違反だ!」
若い冒険者が、俺に異議を申し立てる。
「はて? ゴーレム? 聞いたこともないな」
「絶対嘘だろ! なんか機械音聞こえるし! 眼に光が点いてるし!」
「ああ、それは気にしないでくれ。彼はちょっと体中が発光するタイプの種族なんだ」
「それこそ聞いたことねぇよそんな種族!? お前、流石にゴーレムは……」
「お兄さん」
若い冒険者の言葉を遮り、エレノラが声を紡いだ。
上目遣いにおめめをうるうるさせ、手を取って懇願する。
あざといなさすが女神あざとい。
「……勝負して、くれないの?」
「勿論勝負させて頂きますとも! なあ兄弟ども?」
一瞬で手のひらを返した若い冒険者は、他の冒険者たちにも確認した。
「ウォォォォォォォォォォ!!」
ちょっと引くぐらいの勢いで賛成する兄弟たち。
こちらも、気合は十分のようだ。
「チョッロ」
中身が漏れてますよ。エレノラさん。
こうして試合は始まった。
ルールは単純な腕相撲。互いに手を組み、先に手の甲がテーブルに着いた方、肘が浮いた方が負けだ。
賭けるものは、俺たちがエレノラ。
最初のお相手は、有り金全部だそうだ。
エレノラには、それでも釣り合わないとかほざいていた。
まあ、どうでもいいか。
「では第一試合。ガウェインVSキンニ。レディ……ファイッ!」
公平に、受付嬢をお呼びして審判を勤めて頂いている。
事情を聞いた彼女は、エレノラとガウェイン以外、この場にいる全員を酷く蔑んだ目で見ているがな。
「いくらゴーレムって言ってもなぁ、俺に勝とうったってそうは……」
爆発のような轟音。
キンニと呼ばれた冒険者は、その場にいた誰もが追いきれないスピードで、ガウェインの左側にいた野次馬もろとも吹き飛ばされていた。
ってか飛びすぎだろ、俺たちが戦った時よりも強くなってねぇか?
「ガウェインは私のゴーレム製造技術の粋を集めた最高傑作だからね! その辺の冒険者には負けないよ!」
ガウェインがここまでの物だなんて想像もしてなかったぞ。
流石にやりすぎの域だ。
「こ、殺されるぞ!?」
「うわぁぁぁ!」
「逃げろ! 絶対に刺激するな!」
挑戦者や野次馬たちは、みな散り散りに逃げていく。
完全に殺人鬼扱いである。
しまった。もう少し分捕れそうだったのにな。
「そもそも、情報収集が目的なら、なんで腕相撲なんかしたのって話なんだけど」
「ガウェインの性能を試したかった、誰でもよかった」
「これは快楽殺人鬼だね。間違いない」
その後、俺たちは遠巻きにこちらを見る冒険者たちを相手に、無駄な説得をしなくてはいけないのだった。




