26.完治
よろしくお願いします!
「エレノラー。飲み物くれー」
俺は部屋の隅で何やら作業をしているエレノラに、飲み物を要求する。
怪我人というのはいいな。人に様々な命令を下せる特権がある。
「嫌だよ」
こちらを一瞥もせずに、バッサリと却下された。
「おいおいどうした? さっきまでの女神のような慈悲深さはどこに行っちまったんだよ? もう一回、『早く目が覚めてね』とか言ってみろよォ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
「おかげでよくわかったよ。お前が普段、口では俺に暴言を吐いていても、実は色々気にかけているってことが」
「忘れろって言ったじゃんか! 忘れろや!」
「いやー、この不肖ラインズ。エレノラ様の聖母のようなお言葉、確と胸に刻みました! 一生忘れません!」
「くっ……」
エレノラが顔を赤くしながら悔しそうな顔をする。
やっぱ人を悔しがらせるのって最高だわ。
あ、俺が眠ってた時のことを聞くか。
元々そのつもりだったのを忘れていた。
「そういえば、俺が意識を失ってからお前らはどうしたんだ? 俺たちを連れて帰るだけでも一苦労だろ」
というか、さっきからエレノラがいじっているそれはなんだよ。
ガチャガチャうるさい人間大の西洋甲冑。
そう、ガウェインだ。
なんでそんなもの持ってんだとか、どうやって持ち帰ったんだとか、聞きたいことは山ほどある。
「君が倒れてからは、まず君とモニカの治療を優先したよ。それで、応急処置が終わった後、ナズナに支援魔法をかけ続けて、全部一人で持って帰ってもらった」
「俺とモニカとガウェインを一人で? ナズナって人間じゃなかったのか?」
「ちゃんと人間だよ。すごいのは、か弱い女の子にそれほどの力を与えることのできる私ってことだね!」
「それはすごいな。天下のエレノラ様は、か弱い女の子に荷物持ちをさせていたということか。徳が高い」
「悪意のある言い方だね。私の見た目は幼女だよ? 多分許されるでしょ」
「女神とは思えないな」
「私も、君にはもっと異世界人らしく大活躍してほしかったよ」
「じゃあ性奴隷買ってくるわ。美少女の」
「君の中の異世界ってどういう扱いなのさ!?」
話が逸れたな。一番聞きたいのはそこじゃない。
「で、お前はガウェインの残骸相手に何してるんだ?」
「修復だよ。この見た目だったら、自分で直せば売却値段が跳ね上がるはずだから」
なるほどね。
女神様も案外がめついもんだ。
「なあ、お前確か、ゴーレムを作れるんだよな?」
「うん。と言うより、かなりの魔法は使えると思うよ。攻撃するための魔法以外はね」
「なら、ガウェインの戦闘プログラムを書き換えるとかできないのかよ。相当な種類、魔法を使えるんだろ?」
「それは……できる、と思うけど」
「じゃあ頼むわ。戦力増強間違いなしだろ」
単純に、近接戦闘で俺とモニカを束にしても勝てる。
ガウェインのその強さは魅力的だ。
味方の魔法も使えなくするというデメリットもあるが、その辺りはエレノラがなんとかするだろう。知らんけど。
「結構面倒な作業を平然と頼むね君は。まあ、やってあげるよ。私は、デキる女神だからね!」
一層自信ありげに言ったエレノラは再度、ガウェインに向かう。
こいつチョロいな。
そんなことを思いながら、俺は眠りにつくのだった。
そしてまた数日後。
異世界式治療術によって、現代では考えられない速度で回復した、俺とモニカを含めたパーティメンバーは、一堂に会していた。
集合場所はガウェインが置いてある俺の部屋。
こいつのせいで数日間、夜遅くにガチャガチャうるさい音が響くから、ロクに眠れもしなかった。
頼んだのは俺だが、案外凝り性なエレノラはよく夜なべしてガウェインをいじっていたな。
流石に、他の宿泊客の迷惑になるかもしれなかったので、途中で止めさせたが。
「おう、久しぶりだな。モニカ」
「まあ、久しぶりですね。くたばっていたのかと思っていましたよ」
「相変わらずだな! 俺、一応ガウェインにとどめを刺した功労者だからな!? 戦闘中、二回くらい気絶したんだぞ! 冗談抜きで!」
「でも、モニカの攻撃がなかったらダメだったよね」
「はいそこ! 設定が完全にエロ漫画の君! 黙りなさい!」
「誰がハイエースだ! いい加減にしろよ!」
「誰もそこまで言ってねぇよ! まあまあ詳しいじゃねぇかお前!? びっくりしたわ!」
「ぁ、いや、別に詳しくはないけど……」
エレノラの声はだんだんと小さくなっていく。墓穴を掘ったな。
「それで、今日は何で集まったの?」
ナズナが軌道修正をする。
「まずは俺の完治祝いだよ。功労者様のお帰りだぞ、ほれ祝え」
「一応、私も怪我人でしたし、功労者はあなただけではないのですが」
確かに、百理ある。
俺とモニカ、エレノラがいなければガウェインは倒せていない。
ナズナも、いなければモニカの応急処置が間に合わなかっただろうし、荷物を持ち帰ることもできなかったろう。
だが! ラストアタックは俺だ!
そこだけはしっかりと主張させてもらおう。
「あ、そうだった。ねえ、ラインズ。最後に、君が魔力を使って何かしてたでしょ。あれは何だったの? 時空が歪んでた。何かのアーツ?」
「ああ、それは俺の仕業だが、まずアーツって何だよ。また新出単語か?」
世の中知らないことだらけだな。
聞いた覚えはあるんだが、どうでもいいと思って聞き逃していたのか。
「あなたは相変わらず、あらゆることに関心が無さすぎますね。アーツとは、卓越した技能をもつ戦士などが、己の魔力や生命力を使う魔法のようなものです。まあ、相当の達人しか使えないはずですが」
要するに、達人だけが使える必殺技か。
カッコいいとは思うが、別に使えなくてもいいかな。
その技量まで到達するのに、どれだけの努力が必要なんだって話だ。
努力とは、俺が嫌いな言葉ランキング第一位の言葉だ。
「長々と説明してもらって悪いが、そんな大層なものじゃねぇよ。第一、俺が達人に見えるか?」
「いえ全く」
「むしろ私でも勝てそう」
「それは私もちょっと思った!」
だそうだ。
流石に、幼女には負けないだろ。
俺は、子ども相手でも本気で殴ることができる、覚悟のある男だぞ。
あ、魔法は無しでお願いします。
「聞いて驚け! 見て咽び泣け! 俺の奥の手、その名も、『運命変転』ッ!」
ネーミングは地球にあったゲームからパクっている。
そもそも、俺の主人公のイメージがこの技を可能にしたかもしれないという仮説があるからな。
「それは私以外に伝わらないよ」
「安心しろエレノラ、今から説明する」
今回は、予め実験を繰り返し、その仕様を把握している。
「この力の仕様、その一! 『俺が望む成功のために時間を巻き戻す』」
「はあ、わかるような、わからないような」
「ガウェイン見ていい?」
モニカは難しい顔をして、首をかしげる。
最初から、ナズナは諦めているようだエレノラがカスタマイズしたガウェインにしか興味が向かっていない。
「つまり、この能力は、時間を巻き戻すんだよ。ただ、それは自分が失敗したときにやり直せる能力であって、過去に行くことが目的になってはいけないということだ。あとガウェインは見ちゃダメ。話を聞いてくれ」
エレノラの着替えで確認したから間違いない。
おかげで、俺は彼女の顔面パンチを避けることができた。
しかし、時間を巻き戻すためだけに使ってはいけないのが悲しいな。
マジでやりたい放題かと思ったのに。
誠に遺憾である。
「仕様その二! 『魔力をドカ食いする』!」
これは単純明快だ。
通常の魔法と比べ、明らかに魔力消費がおかしい。
具体的には、魔石をたくさん持っておいてようやく二回使えるくらい。
数値化できないので明確には言えないが、常に自分の最大魔力の半分とプラスアルファの魔力を持っていかれるようだ。
「話を聞いていると、相当強力な能力ですね。その程度のデメリットは、あって当然でしょう」
「召喚魔法も、話だけ聞けば強力なはずなのにね。価値が低いものを生み出す魔法だもんね」
「人のアイデンティティをうんこ製造機みたいに言うなってお前は。縛りを加えまくったのはどこの誰だよ!」
とはいえ、その怒りも『運命変転』によって解消された。
この女神にしては珍しく、まともに使えるチートだからな。
もっとも、エレノラ自身がそうしようと思っていたわけではないみたいだが。




