25.運命変転
よろしくお願いします!
「『破壊』!」
覚醒と同時に、エレノラの声が聞こえた。
俺はと言えば、何故かガウェインの懐に潜り込み、奴の抉り取られたような傷口に向け、全力で剣を振るっているところだった。
ガウェインが、右腕を犠牲にし、自らの傷口を守る。
付与術によって強化された剣と、鋼鉄の騎士の右腕がぶつかり合った。
……ちょっと待て。こいつの右腕は破壊しきったはずだろ?
それがなんで復活して……いや、そもそも、なんで俺はまた突っ込んでいるんだよ。
まるで、時間が巻き戻っているみたいだ。
エレノラの付与術は、絶大な威力を発揮した。
バキバキと、圧し潰すかのようにガウェインの右腕は砕かれていく。
そして、腕を破壊しきった代わりに、俺の剣から付与術の輝きも消えるのだ。
全部、見覚えのある光景だった。
何故こんなことになったのか、理由はわからない。
そういえば、かなり大きく魔力が減っている。
その辺りが原因か。
後は、単純な実力勝負だ。
俺は勢いよく剣を振るう。
しかし、突然のことで体がついてこなかったのか、いまいち勢いがつけられない一振りだった。
案の定、俺の剣は奴の魔力回路を断ち切ることなく止まった。
最悪だ! 理解は追いつかないが、これ以上ないチャンスだったはずだ。
エレノラの叫び声も、ガウェインの眼に光が灯る絶望感も、全て同じだ。
俺の意識は、再度、そこで途絶えた。
◇◆◇◆◇◆◇
「『破壊』!」
先ほどまでと全く同じ声が、聞こえた。
もうこの光景も三回目だ。
体中の魔力が空になっているのがわかる。
ポーチの魔石も、多分砕けているのだろう。
……これがラストチャンスか。
直感的にそう理解する。
ガウェインが、まだ完全に機能する右腕を掲げ、傷口を庇う。
これも、三度目だ。
この、俺を襲っている不可解な状況。
まるで神様が、俺がガウェインを壊すのを心待ちにしているかのようだ。
そんな状態を作り出す要素に、一つ心当たりがある。
俺が受け取った三つのチートの中の一つ。
『主人公補正』、だ。
当初は、どんなことでも最後には好転してくれるのかな。
とかそういう軽いノリで要求したものだったが、それにしてはあまりにも恩恵が薄すぎると思っていたのだ。
加えて、一度失敗したことをやり直すようなこの状況。
主人公というキーワードもあり、俺の中では一つの結論が出ていた。
『主人公補正』その一番の権能は、
『合否判定のやり直し』だ。
正義は必ず勝つ。最後に笑う。
それを無理やりにでももぎ取らんとするこの能力は、確かに主人公向けだ。
「あァァァ!!」
裂帛の気合と共に、全身全霊の剣を振るう。
魔力も尽き、正真正銘ラストチャンスだ。
これを逃せば、そのまま最悪の未来が待っている。
それは、それだけは変えなければならない。
エレノラの付与術により、ガウェインの右腕は圧し潰されるように『破壊』されていく。
代償として輝きを失う剣を、できる限りの力で振り下ろした。
実力勝負だ、何が起こるかわからない。
「終われェェ!!」
これは、渾身の、今までとこれからの全てを費やした一撃だ。
自らの命を燃やすような一撃だ。
これだけお膳立てしてもらって、決めない訳にはいかないだろ!
剣と鎧が、火花を散らして激突する。
終わらせる!!
剣は、ガウェインの首の、芯まで到達した。
まだ、油断できない。
奴が動きを止めるまで。
ガウェインの眼の明かりが明滅する。
そして、俺は成し遂げた。
剣は欠け、体中から血を流し、足元はふらついている。
だが、その剣はガウェインの首の大部分を完全に切り裂いていた。
全身に魔力が行き渡らなくなったガウェインは、それでも膝はつかず、立ったまま停止した。
最後までカッコつけてんじゃねぇよ。ゴーレムの分際で。
ゴーレムに悪態をつくなんて馬鹿らしいが、何故かそうしてしまった。
あ、ヤベ、暗くなってきた。
視界がだんだんとブラックアウトしていく。
これでまた、やり直しなんてことになったらとんでもないが、魔力も尽きているし心配しなくても良いだろう。
「ラインズ!」
エレノラたちの声を聴きながら俺はその場に倒れた。
ああ、クソ。今回は柄にもなく頑張ったな。
◇◆◇◆◇◆◇
「……い……あ……?」
もう聞き慣れた女の声で、俺は眼を覚ました。
どこだよ、ここ。……あ、俺の部屋か。
同じく見慣れた天井。少し歴史を感じさせる木製の天井だ。
俺のことを見下ろすのは……ナズナか。
相変わらずアホみたいな面構えだ。
「ラインズ! 起きたんだね!」
「そりゃあ、起きない訳にはいかないだろ」
「だってラインズ、もう何十時間も寝てたんだよ!?」
そんなにか。
まあ、腹を麻酔無しで捌かれかかったからな。
回復魔法ありにしても、そんなもんか。
「そっか。まあ何にせよ、美少女の看病イベントを見逃さなくてよかったわ」
「さっきまで、エレノラもいたんだよ! モニカは一足早く眼を覚ましていたけど、まだ安静にしているはず」
「なるほど。じゃあ、エレノラを呼んできてくれないか? あいつが甲斐甲斐しく俺のことを看病する様が見たいから」
「まっかせといて!」
あ、いいんだ。
これでネタがもう一つできるな。
落ち着いたら、事の顛末を聞くことにしよう。
作者は正直、S.Wよりはアリアンロッド派です。
運命変転と書いて、フェイトとお読みください。




