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24.ガウェイン

よろしくお願いします!

 俺の渾身の斬撃は、いとも容易く受け止められた。

 甲高い金属音が部屋中に響き渡る。


 反撃を警戒し、俺はそのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。


「ビ、クともしねぇなお前!」


 言葉が通じるとは思っていないが、つい文句が出た。それほど、ガウェインの膂力が比類なきものだったのだ。


 まるで巨岩を相手取っているようだ。

 まあ、ゴーレムだから当たり前と言えば当たり前だが。


 しかし、奴の注意が俺に向くのならば何でもいい。

 本命は俺ではないからな。


「――――ッ!」


 ガウェインの背後に、凶刃が忍び寄る。


 声を殺し、息を殺し、殺気さえ押し殺して走り寄っていたモニカを捉えるのは、いくら騎士然としているこのゴーレムでさえ、難しかったのだろう。


 振り向こうとしたガウェインの首筋に、モニカのダガ―が突き入れられる。


 ゴーレムは、胴体の中心にある魔核から魔力を末端まで流すことによって駆動している。

 つまり、その魔力回路を断ち切ることで、その部位の動作を停止させることができるのだ。


 大抵、魔力回路は人体における骨のように、ボディのど真ん中を通っている。

 だから、かなり深く斬り込まないといけないんだけどな。


 西洋甲冑を思わせる見た目をしたガウェインは、体の関節に相当する部位に隙間がある。

 当然、そこは装甲が薄いから、狙い目というわけだ。


「『連鎖(チェイン)』!」


 後方で、エレノラの魔力が膨れ上がるのが感じられる。


 神格ともなると力をセーブしていてもこの出力かよ、俺の生き埋め攻撃くらいあるじゃねーか。

 お前も大概チートだな。


 エレノラの魔力は収束し、モニカのダガ―がその分、輝きを帯びる。


 もともと致命の一撃だったそれは、エレノラの付与術も相まって、必殺の一撃と化す。

 死神さながらの一閃は、鋼鉄の装甲を容易に削り取った。


 飛び散らばる鋼鉄の残骸が、その威力を証明している。


「やったかな!?」


 またエレノラが調子に乗ってるよ。

 それは戦闘で最も言ってはいけないランキング第二位くらいの言葉だろ。


 モニカの会心の一撃が決まり、ガウェインは大きくバランスを崩す。


 当初の予定では、二人掛かりで少しずつ装甲を削っていくはずだったんだが。


 もしや、そのまま倒れてくれるのか?


 それを思ったのは俺だけではないだろう。

 当の本人も、緊張を切らさないよう努めているのはわかるが、ほんの少し、口角が上がっている。


 だが、その油断が命取りだった。


「なっ!?」


 ガウェインは、人間では到底実現できない体勢で踏みとどまった。

 そして、そのまま先ほどまでとは比べ物にならない速度で、モニカを蹴り飛ばす。


 完全にもろに食らってたぞ!?

 下手したら………………。


「モニカ!」


 エレノラとナズナが彼女の名前を呼ぶ。

 特にナズナは、喉が裂けるような、悲痛な声だった。


「…………」


 吹き飛ばされたモニカを追うように、ガウェインは駆動する。

 ただ、何の感慨も無く、淡々とモニカを狙っていた。


「させるか!」


 ここを食い止めるのは俺の仕事だ。


 逃げることができない現状、こいつを倒さなければモニカをまともに治療することもできない。


 俺はガウェインの傷口を狙い、剣を振るう。

 だが、力量の差は歴然だ。


 あっさりと剣を払われ、顔面をぶん殴られる。


 奴の、文字通りの鉄拳が、鮮血に染まった。


 口の中に血が溜まっているのがわかる。

 クソ痛ぇ。どっか切ったな。


「『キュア』!」


 ナズナの声が聞こえた。

 聖術の、仲間を癒す技なのだろう。


 俺はガウェインから目を逸らすことはできないが、多分、ナズナがモニカに駆け寄ったんだな。


「『反撃(カウンター)』!」


 エレノラが、また付与術を行使したようだ。


 俺の剣が、先ほどと同様に光を帯びた。

 どんな効果かは、想像もつかない。


 ガウェインは、モニカから標的を俺へと変えてくれたようで、こつこつと距離を詰めてくる。


 こんな時まで騎士の物真似かよ。舐められてんなオイ。


 口に溜まった血をガウェインに向かって吐き出し、俺も剣を構えた。

 当然ながら躱される。そりゃそうだ。


「来いよ、オラァ!」


 威勢だけはよく、俺はガウェインを挑発した。


 騎士剣が、目で追えるギリギリの速度まで加速する。

 俺はそれに合わせ、ただ防御姿勢を変えることしかできなかった。


 剣と剣がぶつかり、火花が散った。

 先ほどまでなら、ここで剣を打ち払われて終わりだ。


 だが、今は違った。


 本来、その圧倒的な膂力で振られる剣と、俺の剣がぶつかっても敵うはずがない。

 何故か、この時だけ、剣の打ち合いで互角に渡り合うことができたのだ。


 俺は咄嗟に理解する。

 エレノラのかけた付与術。

 その特性は、『剣に、攻撃に対する反発力を付与する』だ。


「危ねぇ! 今、終わってたぞ!」


 エレノラの付与術のおかげだ。

 あれがなかったら、俺は死んでいただろう。


 しかし、状況は好転しない。


 今の俺は、時間稼ぎがしやすくなっただけ。

 俺一人では、長期戦なんてとてもできやしないだろう。

 相手がゴーレムである以上、ただの体力勝負では分が悪い。


 クソが! こうなったら攻めるしかねぇ!


「あァァァ!!」


 自分自身へ気合を入れながら、俺は奴へ突撃する。


 超然と立つガウェインは、俺の攻撃なんて一切気にしてはいないような態度で、冷静に、機械的に剣を振るった。


 俺がどんなに工夫を凝らし、フェイントを織り交ぜても、奴はロクに足も動かさずに斬撃を止めた。


 わかってはいたが、あまりにも差がありすぎる。

 このまま突撃の勢いを殺され続ければ、いつか返り討ちに合って、いよいよ終わりだろう。


 ……やるしかないな。


 俺は歯を食いしばり、ガウェインが振るう剣に、自分から突っ込んだ。


 十分な切れ味を持つその騎士剣は、少しズラされるだけで致命傷になりえる。


 肉が切り裂かれる。


 血飛沫が舞う。


 だが、足を止めるわけにはいかなかった。


 背水の覚悟でガウェインに接近した俺は、この騎士だって無視できない、大きな傷跡を睨みつける。

 そして、全身全霊の力を込め、剣を振るった。


「『破壊(ディストラクション)』!」


 エレノラの声が聞こえる。

 おそらく、物を破壊しやすくする付与術だろう。


 だが、騎士だって黙って見てはいない。

 その体は、全てが堅固な鋼鉄でできている。


 ガウェインは、咄嗟に腕を犠牲にし、自らの傷口を守った。


 付与術によって強化された剣と、鋼鉄の騎士の右腕がぶつかり合う。


 しかし、エレノラの付与術は、絶大な威力を発揮した。

 バキバキと、まるで圧し潰すようにガウェインの右腕が砕かれていく。


 代わりに、俺の剣からも輝きは失われてしまったが、構わない。


 俺は、その勢いのまま剣を振り下ろした。

 後は単純な実力勝負だ。


 俺の剣で、奴の魔力回路を断ち切れば勝ち、出来なければ負けだ。


「ッ!!」


 今一度、声にもならいような叫びを上げた。


 剣と鎧が激突する。


 行ってくれ!













 しかし、ガウェインの動きが止まることはなかった。


 一瞬光が消えたようにも見えた。

 それでも、すぐに奴は眼に光を灯した。


 エレノラの叫び声が聞こえる。


 俺の意識は、そこで途絶えた。



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