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22.三人の悪魔

よろしくお願いします!

「ぐ……う……」


 階段の下で、俺は目を覚ました。


 何が起こったんだっけ?

 確か、人生初のお色気イベントに遭遇して……。

 そうだ、ナズナに突き飛ばされたんだったか。


 まあ、その件に関しては俺がナズナを許さなければいけないな。

 こちらは不可抗力とはいえ、ナズナたちに申し訳ないことをしてしまったし。


 ……最高だった。


「さてと、二階に行きますか」


 まだ体の節々が痛むが、ずっと寝てもいられない。

 何やらさっきから焦げ臭いし。十中八九、犯人はナズナだろうが。


 俺は次第に強くなる何かが焦げた臭いに顔をしかめつつ、階段を登る。


「おいお前ら。何してん……」


 思わず、体が硬直する。

 そこにあったのは、地獄だった。


 積み上げられたスライムの死骸。その全てが逆巻く炎の渦中にあり、ドロドロと溶けだしているのがわかる。


 地獄の火葬場と化したこのフロアの中心に、三体の鬼がいた。


 幽鬼のように佇み、目を血走らせ次なる得物を探す、三匹の悪魔だ。


 声が出なかった。何か言ったら殺される気さえした。

 もはや、あれは俺が知っている人間ではない。


「あ。ラインズ」


 ポツリ、と悪魔が言った。あれは、エレノラの成れの果てだろうか。


「お、おう。エレノラ。大変そうだな」


 滅多なことは言えない。次、俺が標的になるかもしれないのだから。


 この状況、「実は、このスライムたち目当てで来たんだよ! テヘペロ!」とか絶対言えない。

 死体が一つ増えるだけだ。


「ラインズ、頼みがあるんだけどいいかな?」


 さっきからなんて優しいトーンで喋るんだエレノラ! 怖えーよ!


「な、なな何でもお申し付けくださいエレノラ様! ですから、何卒、命だけはっ!」


 俺は全力で土下座した。できる限りの力で額を地面に擦り付けた。

 額からはたらたらと血が流れている。


「なんでそんなにかしこまっているんだい。……まあいいや。頼みって言うのは、君の召喚魔法で私たちの服を作り直してほしい。ってことなんだけど」


「はっ! 今すぐにでもやらせていただきますエレノラ様!」


 服を作り直してほしい。か。

 確かに、今の彼女や、後ろでスライムの解体作業に勤しむモニカ、絶え間なく魔法を唱え続けるナズナは、服とは呼べないボロ切れで辛うじて身を隠していた。


 これで、気を取り直して欲しい。


 そんなことを考えながら、俺は黙々と召喚魔法を使った。


 幸いなことに、彼女たちのいつもの装備はマジックアイテムなどではなく、金属製の物も少なかったため、ほとんど全ての装備を召喚することができた。


 魔力はものっそい減ったけどな。


 これでいつもなら、「服が欲しけりゃ全裸で土下座でもしてみろよ!」とか言うところであったが、今回ばかりは無理だ。身の危険を感じる。


 何事も、命あっての物種だ。


「出来ました! エレノラ様!」


「うん。ご苦労」


 俺が召喚した服を見て、エレノラは満足気に頷く。

 良かった。お気に召したようだ。


 エレノラはいそいそと着替え始める。

 特に何も言われなかったので、俺はそれを凝視した。


 命令して全裸にすることは出来なくても、生着替えが見られるのなら御の字だな。


「ラインズ。大丈夫だった?」


 声がした方を見ると、スライムの殺戮を楽しんでいたはずのナズナとモニカが近くに来ていた。


「お、おう。大丈夫だったぞ。問題無しだ」


「そっかー。なら良かった」


 ナズナから気づかいの言葉をかけられるが、あまり安心できないな。


 何となく、不穏な雰囲気を身にまとっている。


「よく覚えていないのですが、あなたは平気そうですね」


 モニカも同じく不穏なオーラを纏っている。


「そ、うだな。一応、皆を助けようと精一杯頑張ったんだが、力及ばなかった。すまん」


 とりあえず、こう言っておけばいきなり怒りはしないだろう。しないよな?


「服、ありがとうございます。助かりました」


「……それは、なによりだ」


 お礼を言われた。驚いたことにその時のモニカは、不穏な雰囲気を一旦隠し、純粋な気持ちで礼を言っているように見えた。


 三人がいそいそと着替える中、俺は周辺の惨状を再度見渡す。


 もしこの怒りが俺に向かっていたらと思うと、肝が冷えるな。

 ついでに、股間のあたりからも血の気が引いていく。


 数分後、エレノラたちは着替え終わり、俺も含めもう一度パーティの準備を整えた。


 彼女たちは、焼き尽くしたスライムのことを忘れ去ってしまったかのように、すぐに先へと進んで行ってしまった。


 俺もこの件については、あまり触れないようにしよう。


 はぁ……おっぱい最高だったな。


「先に行くよ。ラインズ」


「待ってくれ、俺も行くから」


 この慎重に話さないといけない感じ、懐かしいな。

 高校二年生の時、クラスにいたメンヘラ女と会話する時に感じたものと一緒だ。


 常に地雷を踏まないようにしなくてはいけない恐ろしさ。

 あれは面倒だった。


「集中してくださいね。どんな敵が待ち構えているかわかったものではありません」


 モニカの警告を聞き、俺は思い出から戻ってくる。

 確かに、こういうダンジョンは最奥に最も強いモンスターがいるのがセオリーだ。


 見たところ、上に続く階段はないし、残っている部屋は二つ。

 この研究所調査も終わりが近いということだろう。


「で、どっちに行く?」


 ナズナは、最奥の部屋と右手前の小部屋を指さす。

 特に悩む必要はないだろう。


「近くて、狭そうな手前の部屋からでいいんじゃないか?」


「うん。それでいいと思うよ」


 反対意見もなく、俺たちは右の部屋に入る。


 鉄槌は重くてとても持ち運べなかったため、今の武器は新たに召喚し直した剣だ。

 武器屋で見つけた品のため、前まで使っていた物よりは品質が良いものだろう。多分。


 その剣を構えたまま、部屋に押し入る。隣にはモニカ、後ろにはエレノラとナズナのいつもの隊列だ。


「何も……いないか」


 中に入り、俺たちは周辺を警戒する。

 しかし、スライム一匹見当たることはなかった。


 そこにあるのは、バラ撒かれたような書類や、用途がよくわからない魔法道具のみだ。


「隣の部屋に行ってみようか」


 この部屋も、もっと調べられることはあるだろうが、まだ見ていない部屋を優先するようだ。

 エレノラに言う通りに、俺たちは移動する。


 戦闘があるなら早めにやっておきたい。後ろから奇襲されたりしても面倒だしな。


「じゃあ、入るぞ」


 今度は最奥の大部屋の扉の前に立ち、俺はエレノラたちに声をかける。


 二階は、スライムが大量にいた広場、先ほどの小部屋、この大部屋の三つしか部屋がないと思われる。


 つまり、ボスモンスターが待ち構えているとしたらこの扉の奥ということだろう。

 実はそんなものはいません。というオチかもしれないが。


 古びた金属の扉。そういえば、クレイゴーレムがいた部屋もこんな扉だったな。

 ギギギ、という音を鳴らしながら扉を開く。


 部屋の中から、見慣れた魔法による照明の光が差し込む。

 どうやら、明かりはついているようだ。


 勢いよく部屋に飛び込み、部屋中を見渡す。


 酷く、殺風景な部屋だった。

 家具なんてものは当然無い。しかし、今までどんな部屋にも散らばっていた書類や、魔法道具すらない部屋は初めてだ。


 変わっていることはただ一つ。

 大部屋の奥、扉から最も離れた位置に、人間大ほどの西洋風甲冑が鎮座していることだけだ。

 甲冑。と言ってもアレンジが強い見た目をしているが。


「ゴーレム、なのかな?」


 エレノラが不思議そうに呟く。

 エレノラですらわからないのか。なら、種族として存在するモンスターではなさそうだな。


 俺たち全員が部屋に入ったと同時に、甲冑の空の眼に光が灯る。

 そいつは手に持った騎士剣を掲げるような仕草をしながら、威風堂々と立ち上がった。


「なんか、強そうだぞ。アイツ」


 俺は顔を強張らせながら言った。


「多分、ユニークモンスターです。胴体に、名前が」


 モニカも俺と同様、緊張の眼差しで奴を見る。


 確かに、胴体に名前が刻まれているな。


「銘『ガウェイン』?」


 ナズナがとぼけた様子で読み上げる。


 それに呼応したように、ガウェインは駆動する。

 クレイゴーレムとは比べ物にならない速度だ。さすがにモニカほどではないが、俺より速い。


 鋼鉄の騎士は、部屋の中央に仁王立ちする。

 まるで、俺たちと決闘でもしたがっているようだった。


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