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19.拳骨と鉄槌

よろしくお願いします!

 俺とモニカは、クレイゴーレムを左右から挟み込むような形になるよう、走り出した。


 見たところ、あいつは力は強いが動きは遅い、そんな特徴を持っているだろうと推測できる。

 なら、こちらは勝っている機動力を活かして立ち回るべきだろう。


 クレイゴーレムはどうやら俺のほうに狙いをつけたようだった。

 多分、持っている武器か何かで、俺のほうが脅威だと考えたのだろう。


 実態は逆なんですけどね!


「ラインズ! あなたを狙っています! 慎重に、回避に専念してください!」


 モニカから指示が飛ぶ。

 現在、敵は一人だ。確かに、俺が防御を捨ててまで攻撃する必要はないだろう。


「任せた!」


 俺はそう返事をして、クレイゴーレムと相対する。……やっぱデカい。ゴブリンなんて比べ物にならないくらい怖い。チビるぞ、マジで。


 クレイゴーレムはモニカの方など見向きもせず、俺に向かってその巨大な右腕を振り下ろす。


 離れていても伝わってくる風圧。間違いなく人間が食らってはいけない威力だ。

 だが、分析通り動きは遅い。これなら、俺でも避けられそうだ。


 俺は、横っ飛びに右腕を回避する。直後、それだけでも人が殺せそうな暴風が俺を襲った。


 怖ッ! あんなん一発も食らえねぇぞ。


「いくよ! 『使徒の翼』!」


 エレノラが後方で、何かを叫んだ。


 瞬間、体が嘘のように軽くなったのを感じる。

 それこそ、翼でもついているかのようだ。


 変化を感じたのは俺だけではないようで、モニカも驚きを隠しきれていない。


「これぞ、神様式支援魔法! その心に焼き付けといて!」


 エレノラが調子に乗っているが、この魔法は馬鹿にはできない。


 元々、鈍重だったクレイゴーレムの動きが、今ではさらに遅く見えるぞ。


「正直褒めたくねぇけど、ナイスだエレノラ! 初めて人の役に立ったんじゃないか!?」


「君が人の役に立ったことはないけどね!」


 この野郎、言いたい放題言いやがって。

 あとであいつの衣食住は誰が握っているのか教えこまねばなるまい。


 そんな会話をしているうちにも、土くれは俺の命を狙っている。


 わかりやすい大振りな鉄拳を余裕で躱し、すかさず剣で斬りつける。


 しかし、俺の剣は金属質な音と共に弾かれてしまった。


 原材料が土でも、一応金属を弾くくらいの硬度はあるんだな。

 俺の剣がナマクラって理由もあるだろうが。


「しゃあねぇ、召喚! ハンマー!」


 俺は刃こぼれした剣を放り投げ、魔法を唱える。


 もう何度と見た青い魔法陣から現れたのは、俺が休暇中の数日間で武器屋に行った時に見た、大きな鉄槌だった。


 本当に、召喚できるものを増やしておいて良かった。

 だが、問題発生だ。


「重ってぇぇ!」


 そう、この武器尋常じゃなく重たい。通常時なら戦闘になんてとても使えないくらいには

重たい。


「そんな大きな武器なら当たり前ですよ! 何考えてるんですか!」


「うるせぇ! 何も考えてないに決まってんだろうが!」


「正直者ですね!?」


 この重量武器を抱えたまま、クレイゴーレムの攻撃を受けたくはないな。


 そんなことを考えていたからなのか、当然のようにゴーレムは俺を狙う。


 ちょっと!? ゴーレムさん!? さっきからチクチクあなたを攻撃している輩が反対側にいますけど! そっち狙って下さいよ!


 俺の熱い思いは残念ながらゴーレム君には届かず、彼は無慈悲に腕を振り上げる。


 クソ! 一旦、武器を手放して……!


巨人の拳骨(タイタンズフィスト)!」


 ナズナが魔法を唱える声が聞こえた。


 発生したのは、土を押し固められてできた、巨人の剛腕。

 研究所の床から出でるように生まれたそれは、俺の命を奪わんとするクレイゴーレムに、一直線に飛んでいった。


 自分の背丈と同じほどのムキムキな腕にぶん殴られたクレイゴーレムは、周りの俺たちにも被害が出そうな衝撃波と共に床に打ち付けられる。


「よっし! 命中っ!」


 ナズナさんがかなりはしゃいでいらっしゃる。

 クレイゴーレムの攻撃よりビビったんだが。


 それでも、クレイゴーレムはまだ動いていた。

 体のいたるところに破損が見られ、どう考えてもここから挽回はできそうにないにも関わらず、彼はまだ立ち上がろうとしていた。


 彼を突き動かすものは何なのか。未だ帰らぬ主人を待つためか。それとも、他の動かぬ仲間たちを守るためか。


 何にせよ、その不屈の闘志には、こちらも賛辞を贈らざるを得ない。


「ま! ぶっ壊すんですけどね!」


 冗談はここでおしまいだ。

 俺は大きな槌を、遠心力にまかせて振り下ろす。


 ひび割れて、限界だったボディにトドメの一撃。


 質量こそ力、力こそパワーだ。

 それを体現したような俺の一撃は、一切の情け容赦なくクレイゴーレムのボディをカチ割った。


 決して消えぬと思われた、ゴーレムの活動状態を表す光が消える。


 俺は、横たわりもう動かなくなったゴーレムの胸元から、ビー玉のような見た目をしたコアを取り出す。


 これは、魔法によって生み出される魔道生物のほぼすべてが持っている、魔核と言う動力のようなものだ。魔道生物版の魔石ってことだな。


 違うのは、魔法によって人工的に生み出せる点か。優秀な錬金術師じゃないとできないらしいが。


 スライムなんかの魔核は価値が低いため、積極的に拾うことはまずないが、こうしたゴーレム系統のものは話が違う。

 加えて、アイアンゴーレムなど、原材料が金属のゴーレムなんかは胴体がそのまま売れる。


 そのため、腕の良い冒険者はよくゴーレム狩りをするらしい。

 今回はただの土だから持って帰る意味はないな。


「お前ら! 魔核も取ったし、次に進もうぜ!」


 俺は他の三人に聞こえるような声で言う。

 なんか今回はまともにバトルした! って感じがあるな。エレノラの支援魔法ありきだけど。

 自然と笑みがもれてしまう。


「ニヤニヤしすぎでしょ。次はどんな悪事を考えたの」


「おい、エレノラ。俺の笑顔大嫌いかお前」


「私は嫌いですよ。おぞましいので」


「おめーには聞いてねぇんだよモニカ! ってかおぞましい笑顔ってどんなだよ! 人間としてありえないだろそれ!」


「あ、ラインズ! 私はラインズの笑顔、二人ほどは嫌いじゃないよ!」


「少しは嫌いなのかよ! そこは嘘でも否定しろよ!」


 相変わらず、このパーティは俺に対して厳しすぎる。

 その内追放でもされるんじゃないだろうか。今、冒険者界隈でトレンドらしいし。


 そんなことを考えながら、俺たちは探索を続けた。


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