17.潜入
よろしくお願いします!
「さぁ、着いたぞ」
俺は、後方を歩くパーティの連中に声をかける。
「おお、ここが」
エレノラは、目の前にそびえる建築物をまじまじと見つめている。
他の二人も似たような反応だ。
旧魔道生物研究所は事前情報通り、廃墟のようであった。
放棄されたのは十数年前という話だったが、それよりも長い年月放置されているように思える。
外壁のほとんどは草花に侵食されており、ヒビがよく目立つ。正直、中には入りたくないくらいの老朽化ぶりだ。
「この周囲だけ魔力が異様に満ちていますね。研究の失敗で、魔力が漏れ出しでもしたのでしょうか」
「かもしれないね」
「え? 何? 二人ともどうしたの?」
モニカとエレノラが、研究所が廃墟と化した原因を推測している。
ナズナは平常運転だな。
「うっし! 早速、中に入るぞ! 先頭はモニカ、殿は俺だ! 二人は真ん中な!」
「殿って……君は何から逃げてるんだよ。一番後ろにいたいだけでしょ」
やっぱり追及されるか。スライムの攻撃は全て、仲間に被弾させたいからな。俺は前に出たくないのだが。
これくらいは仕方ないか。
「わかったよ。俺とモニカが先頭な」
「それでいいよ。君には私を守って死ぬという任務があるからね」
「だから死ぬことまで勘定に入れるんじゃねぇっつの。本当に女神かよ。お前」
未だに信じきれないな。
俺は文句を吐きながら、エレノラとナズナを庇えるような位置取りをする。
つまり、俺が躱したらその二人に当たるような位置だ。
隊列も整え、俺たちはおそらく扉があったと思われる、長方形の穴から建物の中に入った。
研究所の中はゴブリンの洞穴のように明かりがないわけではなく、電球のような見た目をした、魔力で光っているらしい物に照らされていた。
一応、松明も準備しておいたが、不要そうだな。
見える範囲にモンスターはいない。ただ、長く続いた通路と階段があるだけだった。
「なーんにもないね」
「お、ナズナ。よく気づけたな。正解だよ」
「誰でもわかるよ! さすがに馬鹿にしすぎだよ!」
「そうか? すまんすまん」
「二人とも、気を抜きすぎですよ」
モニカに叱られた。
いかんいかん。好奇心に負けて、ついナズナをからかってしまった。
ナズナもとばっちりを受けて不服そうだ。
俺たちが呑気にそんな会話をしていると、エレノラが何かを見つけたようで、叫び声をあげた。
「いた! スライムだよ! 数は三体!」
エレノラが指さした方を、全員で確認する。
すると、階段の上から青色の、不定形の粘体が、ズルズルとこちらに向かってくるところだった。
「スライムか。初めて見るな」
出発前、エレノラに聞いた話によると、奴らは通常の物理攻撃が効きにくく、基本的に魔法で対応するのがセオリーらしい。
また、物理攻撃でも、体内にある核を攻撃すれば致命傷を与えられるとか。スライムに命があるかはわからないが。
しっかし、あのフォルム。やっぱエr
「ラインズ! 来るよ!」
ナズナの警告。
どうやら、無駄なことを考えている暇はないようだ。
このスライムは通常種だろうし、さっさとぶち殺そう。
俺は、まっすぐ跳躍してきたスライムの核に狙いを定め、袈裟懸けに斬りつける。……が、当たらない。
うん。知ってた。
こちとらど素人だ。そんな細かい部位に狙いをつけて攻撃なんかできるかって話だよ。
結果は、スライムの端っこの部分を少しかすめただけだった。
ビチャ。という音とともに、スライムの体がそぎ落とされる。
勢いは多少落ちたものの、それによりスライムの突撃が止まることはなかった。
「うぶっ!」
スライムは、俺の顔面にクリーンヒットした。
その上、俺の頭にまとわりついて、決して離れようとしない。
クソが。息ができねぇ。
俺がまとわりついたスライムに四苦八苦しているうちに、他でも戦闘が始まった。
「ラインズ! 大丈夫ですか!?」
相変わらずモニカはひらりひらりと、華麗にスライム二体の攻撃を避けきっていた。
後方では、ナズナがなにやら魔法を使うようだ。
浮かびあがる赤の魔法陣から、放たれたのは炎の塊。
「ファイアボール!」
子どもの頭ほどの大きさはある火球は、モニカが引き付けているスライムの一体に近づき、爆ぜた。
一切の抵抗なく、スライムは蒸発した。
跡形もないな。怖すぎるだろ、あの魔法。
スライムを一体倒し終えた辺りで、エレノラがこちらに走り寄ってきた。
どうやら、助けてくれるらしい。
「何をやっているんだい君は!?」
スライム一体に負けそうな俺が信じられませんって顔だ。悪かったな。
「あうええうえ!」
助けてくれ! と叫んだつもりだが、ずいぶん間抜けな声になってしまった。
あ、おい。何ニヤついてんだよお前。
「ほらっ! この、美少女女神が助けてあげるよ!」
なんだコイツ。腹立つな。
そう思ったのは俺だけでなかったのか、突如、俺にまとわりついていたスライムは、エレノラの顔面に飛び移った。
予想外のことで反応できなかったのか、エレノラは無様にスライムに取りつかれる。
なんかよくわからんが、ナイスだ。スライム君。
「あるぇ!? エレノラさん!? 大丈夫ですかぁ!?」
すかさず全力の顔芸。この瞬間が一番楽しい。
「あいんう! ああうあうええ!」
なんて言ってるんだ? 『……ラインズ! 早く助けて!』か? さっぱりわからん。
エレノラも、俺と同様にガッツリ顔面をホールドされているようだ。
幼女の身体能力ではあれを取り払うのは難しそうだ。
「ごめん全然聞こえねぇ! 聞き取れねぇな!」
[早く助けろ!]
おっと、念話って手があったか。
これは聞き取れないなんて言えないな。
「助けてください。だr……」
[助けてくださいお願いします!]
早ッ! こいつにはプライドってものがないのかよ。
「しょうがねぇなぁ」
俺はそう言いながら、エレノラの顔に張り付いたスライムを、力づくで引っぺがす。
そのまま、核に剣を突き刺すと、スライムはドロッと溶け落ちた。
「ほらよ。大丈夫か?」
「大丈夫でしたか? ラインズ、エレノラ」
丁度、モニカとナズナも、二体目を倒し終えたらしく、こちらに駆け寄ってくる。
こいつら、意外と強いんだな。手際良すぎだろ。
「二人とも、大丈夫? もう帰る?」
ナズナがガチで心配している。そりゃそうだ。最弱のスライムごときにこの結果じゃあな。
「ああ。大丈夫だ。余裕余裕」
「次からは、もっと慎重に行動するよ」
正直、かなりビックリした。
だが、俺は諦めるわけにはいかないのだ。
この先の、楽園のために。




