16.噂話
よろしくお願いします!
エレノラが、俺たちのもとへやってきてから数日経った。
その間、俺たちは冒険者稼業を中断し、それぞれが自分に必要なことをやっていた。
モニカやナズナは妖精の止まり木亭の手伝い。俺はトータスの街を探検したり、エレノラに召喚魔法の仕様について聞いたりしていた。
エレノラは俺の代わりに宿の従業員として働かせた。なぜかあいつだけ暇を満喫しようとしていたので、ムカついてしまったのだ。俺は悪くない。
幼女だというのに労働基準法を無視した時間働かせたが、あいつはマスコットキャラクターとして客を呼び込んでいただけだ。
その上、この世界には労基法なんて存在しないので多分大丈夫だろう。
仮にも神格だしな。
「それで、ラインズ。話って?」
エレノラが若干イラついている。全く、怒られる理由が見当たらないな。仕事終わりだし、疲れているのだろうか。俺に八つ当たりするなよ。
現在、俺はパーティメンバー全員を部屋に集めていた。
議題は、全く活動していなかった冒険者としての仕事のことだ。
「次に受ける依頼だよ! 俺、まともに冒険した記憶がねぇぞ! もっと冒険者として、名を轟かせる必要があるだろ!」
「そ、そう?」
「別に、急ぐ必要はないと思いますが」
モニカとナズナは、ピンと来ていない様子で聞き返す。
そう言えば、こいつらが冒険者をしている理由はよく知らないんだよな。
俺のように、富、名声、力、女、この世のすべてを手に入れるためではないようだが。
「確かに、もっと刺激が欲しいね」
二人とは逆に、エレノラは冒険に賛成派のようだ。よかった。さすがに賛同者がいなかったらあきらめざるを得なかった。
「そうだろ! ってことで、調べてきたぞ! 依頼を!」
俺は三人に見せつけるように依頼書を高々と持ち上げる。
依頼内容は旧魔道生物研究所の調査。
十数年前に放棄された研究所に、モンスターが潜んでいる可能性があるので、調査してきてほしい。というものだ。
恐らく、スライム系のモンスター。強くてもゴーレム系のモンスターが数体生息しているだけで、初心者パーティでも十分戦えるだろうと、受付嬢のお墨付きだ。
そもそも、討伐ではなく調査が目的のため、ヤバかったら尻尾巻いて逃げても良いのだ。
報酬も低いがリスクも低い。そんな依頼である。
「……まあ、この依頼なら危ないこともなさそうですね。行っても構いませんよ」
「そうだね! 出発は明日かな?」
よし、二人も乗ってきた。
これで明日は、久しぶりにモンスターとの戦闘だ。
もしかすると、何もいないかもしれないが。その時はドンマイだ。
「そういうことだ! ナズナも言った通り、出発は明日! 俺の最速霊金剛級昇格に向けて、頑張れ!」
「何だい、頑張れって。ちゃんと君も頑張ってよ?」
もちろんだ。俺も明日は頑張って、存分に楽しむ所存である。
む、変に顔がにやけてしまうな。これでは怪しまれるかもしれない。
その後、当日の段取りなどを決め、俺たちは解散した。
と思ったら、一度出ていったエレノラが、また戻ってきた。
彼女は戻ってくるや否や、ジト目で俺に問いかける。
「で? 何を企んでいるの?」
解散したんじゃなかったのかよ。そういや、部屋同じだったなお前。
緊張が伝わらないよう、勘が鋭いエレノラに向かい、俺はなるべく自然に笑顔を作った。
「べ、別に? なんでもないよ? エレノラちゃん?」
「その喋り方が不自然そのものだよ! ってか、ちゃん付けすな!」
「マジで! 何にも企んでない隠してないこれだけはバレるわけにはいかない!」
「思いっきり言ってるじゃないか! ……別に、そこまで言いたくないならいいけどさ」
良かった。九死に一生だ。
なんだか彼女の良心に付け込んだようで心が痛まない。
本当に、これだけはエレノラに話すわけにはいかなかった。
実は、俺は、この依頼を受ける前に冒険者ギルドの広場で、ある噂話を聞いていたのだ。
旧魔道生物研究所の錬金術師は、特殊なスライムを研究していた。
その名も、アブノーマルスライム。キンキースライムとも言うらしい。
前者はまだわかるが、後者は完全にアウトだろう。何しろ変態だ。
その噂話を聞いた時はそんなことを思っただけだった。しかし、その後に閃いてしまったのだ。
スライムといえば、オーク、触手生物と並ぶファンタジー世界の三大お色気担当の一角!
ともすれば、不可抗力を装ってとLOVEることもできるのではないか。
つまり、俺のことを童貞、見習い魔法使い、決して攻めたことのない兵士、何で生きてんの? などと馬鹿にしやがった奴らに、目にものを見せてやることができるのだ!
なお、悪口は一部脚色が入っている。
あ、一応、冒険がしたいという、俺の少年のように純粋な気持ちも存在はしていると言っておこう。一割くらいだけど。
「とりあえず、お前はそんなことを忘れようか。ほれ、明日の準備をしようぜ」
「……わかったよ。……これで隠し事がロクなことじゃなかったら怒るからね」
「すまん。怒らないで」
「ロクなことじゃないのかよ! 先制謝罪するなよ!」
「逆に、俺が世のため人のためを考えて生きていると思うのか?」
「何でそんなに澄んだ目をしているんだ……」
それは、俺が心の底からピンク色なイベントを渇望しているからだろう。
そう考えると、これも少年のように純粋な心と言えるな。
「話は終わりだな。風呂入ってくるわ」
俺は返答を待たず、部屋を出る。これ以上話したらボロが出そうだ。
「あ! 私も行く!」
エレノラは、とてとてと足音を立てながらついてくる。その仕草だけを見れば、可愛い幼女だと思うことができる。……まあ、俺はロリコンじゃないが。
隣の部屋から当然のように聞こえてくる、交代制の見張りの話に舌打ちをしながら、俺は風呂場を目指した。




