14.突風…エレノラ視点
よろしくお願いします!
え、嘘? 気づいてないの?
ラインズが部屋の外に出た後、私が最初に思ったことはそれだった。
そりゃあ、見た感じからは分かりにくかったかもしれないさ。最初に転生の間で会った時は、私は光の集合体のような見た目だったわけだし。
だけど、念話をしていた時と声は変わっていない。話し方もそうだ。私は一応、彼にとっては重要人物みたいな立場であるはずなのに、一ミリも気づいている様子はなかった。
そもそも、この肉体だって、ラインズに難癖をつけられないように色々とこだわって、用意した。簡単に、彼の好みに寄せていると言っていい。その表現はなんか腹が立つけど、事実だ。
まあ、リクエストにあった、エロい服は着なかったんだけどね。女神にも羞恥心はあるのだ。
でも、それを加味しても、神であるこの私に気づいていないとはなんたる不敬だ。ふざけんな!
「あの、もしかして……エレノラ様ですか?」
モニカがおずおずと、私に質問する。どうやら、彼女は私の正体に気づいたみたいだ。ありがたい。それに比べてラインズは……。
「え? モニカ、何言ってるの? エレノラ様?」
黒髪の少女。確か、ナズナって言ったっけ。
この子は、私と話したこともなかったか。なら、ちゃんと説明しておかないといけないね。
「こんにちは。今説明があった通り、私の名前はエレノラ。この世界で女神をやっているんだよ」
ちょっと自己紹介が簡単過ぎたかな?
黒髪の少女は、何故か、相当神妙な顔をしている。
「……モニカ。私は、ラインズが部屋に幼女を連れ込んでいることについて話し合わなくちゃいけないと思ってたんだけど……」
「思ってたんだけど?」
「この子の行く末が心配になってきたよ……」
全く信じられてないな!? むしろ、神を名乗ってることを注意されそうな勢いだ!
「本当だよ! 何なら証拠見せようか!? この街ぶっ壊す!?」
「エレノラ様! やめてください! 洒落になってませんよ!」
「何を言ってるのモニカ!? 本気!?」
まだ信じていないのか。これは、ラインズになんとかしてもらった方が良さそうだね。
そう思った私は、部屋の扉を開けた。ギギィと古い木が軋む音が耳につく。
辺りを見渡すと、ラインズが、廊下の隅で座禅を組んで座っているのが見えた。なにやら般若心経的なのを唱えているようだ。
ラインズが、目をカッと見開いた。多分、扉が開いた音を聞きつけたのだろうね。
「あれ!? 君、どうしたの? 何か用? 俺で良かったら何でもするよ?」
こいつ、全然煩悩が消えてないじゃないか! 何、出会い厨みたいなこと言ってんだ!
……マジか、マジでわからないのか。それとも、忘れてるのかな?
「ラインズ、気づいてないの?」
「? 君が可愛いということにか?」
「……っ! そういうことじゃなくて! エレノラ!」
「え? エレノラ? 何で君がそんな奴の名前を? ……まさか」
あ、ようやく気付いたかな。そんな奴って言葉は気になるけど。
「おまっ! エレノラぁ!?」
「そうだよ! 君のことを異世界に連れてきて、転生の特典まであげたエレノラだよ!」
ラインズは驚愕の表情を浮かべる。ちょっと驚きすぎなくらいに。
「お前、一体、なんでそんな体になっちゃったんだ? コスプレか?」
「違うわ!? 君が『なんだその見た目w女神とは思えねぇなw』とか言わないように、君の好みに合わせたんだよ!」
「その心遣いはありがたいが、お前、変な性癖を意識したな……」
「うるさいよ! ……ちょっと来て! ナズナって子が、私が女神だって信じてないから」
「まあそうだろうな」
「ラインズからも信じさせて!」
返事は聞いていない。ラインズの手を引き、半ば無理やり部屋の中に引きずり込む。彼も特に抵抗なく、ただただ引っ張られていた。
「あ! さっきの子! それとラインズ!」
黒髪の少女が、私たちを元気な声で迎える。感情の起伏が激しい子だなぁ。
それに対して、ラインズが面倒くさそうに淡々と言葉を告げた。
「おい、ナズナ。この幼女が言ってることは実は本当だ。信じられないかもしれないが本当に神様なんだよ。こいつは」
「もう! ラインズまで何言ってるの! いくら小さな子でも、駄目なことはダメって言わないと!」
「お前、この状況でまだ言うか? 否定してるのお前だけだぞ? さすがに信じろよ」
ラインズが冷静に言い終えると、少女は少し間をおいて、答えた。
「……え? 本気?」
私とラインズ、そしてモニカは次々と肯定する。これで、流石に納得してくれたかな。
私は改めて、自己紹介をする。
「改めまして、女神のエレノラです。どうぞよろしくお願いします」
「なるほど……そういうことか」
なんか一人で納得している。多分だけど、変なことを考えてそうだ。
「こちらこそよろしく! 私の名前はナズナ。タメ口でいいよ! これから仲良くしていこうね!」
あー。これ、絶対なにかを勘違いしてるな。
「おい。エレノラ。もう良くね? 諦めようぜ」
「……まあ、そうだね。もう何でもいいな」
私たちは諦めたように、ベッドに座った。まあ、問題があったらその都度対処しよう。明日の自分に丸投げ作戦だ。
「エレノラ様。それでは、色々とご説明していただきたいのですが」
モニカが硬い言い方で、話を切り出した。
ラインズが不敬の頂点みたいな話し方だから、この硬さは少し気になるな。
「説明は別にいいけど、その話し方を変えたりできないかな? もっとフレンドリーにさ」
「……いえ、私はこれが普通なので」
「そっかー。なら、様付けだけは変えられる? 小さな女の子に様付けなんて、目立っちゃうよ」
「……まあ、できる限り頑張ります」
よかった。流石に、緊張しっぱなしで話されても、疲れちゃうからね。
その後、モニカたちによる、私への質問会が始まった。




