13.突風
よろしくお願いします!
俺たちが妖精の止まり木亭に戻ってきたとき、日はすっかり沈んでいた。未だうんうんと唸っているモニカを急かしつつ、俺たちはクラウスさんの元へ向かった。
結局、今回の遠征は無駄骨だったな。俺の召喚の条件が分からないため何とも言えないが、外に出ずとも依頼を達成していた可能性すらある。
「失礼します」
木製の扉をガチャリと開け、スタッフルームに入る。
中には、クラウスが待ってましたといった様子で座っていた。
「みんな。良く帰ってきたね。お帰り」
「あ、はい。ただいま戻りました」
なんか仰々しい言い方になってしまったな。面倒だし、クラウスさんが許すならタメ口で話したいものだが、それは流石に許されないだろう。
自分より一回り二回り年下の人間に「面倒だからタメ口な!」とか言われてみろ。絶対、腹が立つ。俺だったらその時点で一発ぶん殴るね。
例え、相手が敬語を使わなくていいよ。とか言っても駄目だ。それは会社の飲み会で上司が言う、無礼講くらい信用できない。
「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。……それで、花は、採れたかい?」
「はい、これです」
ナズナが、クラウスさんにパフムの花の束を差し出す。ちなみに、俺が召喚した網やらなにやらも、持ち切れる分だけ、彼女が持っている。つまり、荷物持ちだな。
客観的に見ると、俺は女の子に大量の荷物を持たせているクズ男だ。まあ、彼女の方が体力はあるのだから仕方がない。
「おお、こんなにたくさん。よく集めたね」
大量の花を抱えてクラウスさんは感嘆の声を上げる。少し、召喚しすぎたか?
「そういえば、クラウスさんは大丈夫なんですか? その花の香りは」
「うん。この程度の状態異常はレジストできるからね」
なるほど。原理はよくわからないが、毒や幻覚が効かない人もいるのか。それと、回復してからのモニカにも何もなかった。二度目は効きにくいのだろうな。
「皆は、大丈夫だったかい? 一応、ナズナに伝えておいたはずなんだけど」
「いえ。それが、ナズナは伝達ミス。モニカはアホになってしまい、酷いものでしたよ。まともに働いていたのは俺だけでした」
「あ! ちょっと! なに自分だけの手柄みたいに言ってるの!」
ナズナがすかさず噛みついてくる。実際、花を集めるところに関しては、完全に俺だけだったろう。働いていたのは。
「事実だろうが」
「私も活躍したでしょう! モニカはともかく!」
「確かに、活躍はゼロではないか。モニカはともかく」
「二人して私をいじめないでください!」
「まあまあ。皆、無事に帰ってきたからいいじゃないか」
そう言った後、クラウスさんが何かを手渡してきた。
「君たちは冒険者だからね。これ、報酬だよ」
「あ、ありがとうございます」
何気なく受け取って、ギョッとする。金貨だ。これ、明らかに難易度と報酬が釣り合っていないだろう。何者だよ。
「こんなにたくさ……ムグッ!?」
モニカが完全に言い切る前に口を塞ぐ。余計なこと言うんじゃねぇよ! パーティの金は皆の金! いや、俺の金だぞ!
「それでは、俺たちはこれで失礼しますね!」
モニカを黙らせたまま、そそくさと立ち去る。ナズナは、状況がよくわかってないようだ。だが、後ろを付いて来ている。
そのまま、俺たちは俺の部屋へと入った。
俺は、モニカを解放する。
「ちょっと! 何するんですか!」
「お前こそ何しようとしてんだよ! 皆の金はパーティの金! パーティの金は俺の金! だろ!?」
「だろ!? とか言われても知りませんよ! 何ですかその標語! 聞いたことありませんよ!」
「今作ったんだよ! 悪いか!」
「悪いですよ! 何開き直ってるんですか!」
ごり押せなかったか。ナズナ一人だったらいけてたな。多分。
不意に、強風が吹いた。窓なんて開けてなかったはずだが。防犯の都合上。
「ほんと、君はびっくりするくらい馬鹿だね」
近くで、声が聞こえた。
「あ? ナズナ、なんか言ったか?」
「いやいや! 私じゃないよ」
「そりゃそうだ。お前の声じゃなかったもんな」
じゃあ、誰の声だって話だが。モニカは話し方や状況からしてあり得ないし。
俺は部屋を見渡す。俺の荷物、ベッド、クローゼット。空いた窓。目につくのは、それだけだ。誰もいない。明らかに室内の声だったよな……?
ちょ、待て、何だこの怪奇現象!? 俺、なんか恨まれることしたか? ゴブリンか? 洞窟に生き埋めにされたゴブリンの亡霊が、今地獄の果てから俺に会いに来たのか!?
「無理だわ! 残念ながら俺の好みは霊長類ヒト科のホモサピエンスであって! たとえこの世の誰よりも大きいお胸を持っていたとしても! ゴブリンはギリギリストライクゾーンから外れてんだよ!」
「大声で何を叫んでいるんですか、あなたは……」
モニカが呆れた様子でこちらを見ている。でも今はそれどころじゃ……。
「ここだよ! 下!」
へ!? 下……?
俺が目線を下に落とすと、そこには、白いワンピースを着て、麦わら帽子を被った幼女が立っていた。
そう、少女ではない。幼女だ。
「やっと気づいたね。本当に君ってやつは……」
幼女が何か話している。しかし、内容なんて耳に入ってこなかった。俺は彼女を目に焼き付けることだけに集中していた。
何故なら、その幼女が、美しすぎたからだ。
幼女は、この世界でもあまり見ない銀髪をたなびかせ、可愛らしい眼でこちらを睨みつけている。
見た感じ、十歳かそこらだろう。その幼い見た目にも関わらず、どこか艶やかで、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。神々しすぎて後光が見えるぞオイ。
そして、特筆すべきはその巨乳! その他にも、幼女とは思えない完璧なプロポーションを誇っている。むしろ、幼女であることすら活かしていると言っていいだろう。
ってか、ロリ巨乳って実在したんだな。知らなかったよ。
「ちょっと! 聞いているのかい!?」
すみません。聞いてませんでした。
「ごめんね。お兄さん、少しばかり大変なことになっててね。外に出て頭を冷やしてくるよ」
幼女に気を使った優しいトーンで、俺は言った。
このままじゃ、まともに話すことすらできそうにない。落ち着かなくては。
まあ、小五とロリで悟りを開きかけた俺は、落ち着いていると言えなくもないかもしれないが。
……いや、やっぱり言えないな。一旦、立ち去ろう
「はぁ……ロリコンではないはずだったんだがな……」
そう溜息をつきながら、部屋から出ていく。
「なんか妙に哀愁がありますね」
「一人で盛り上がって、何をしているんだろうねぇ」
去り際に浴びせられた、モニカとナズナの言葉が、部屋の中に残っていた。




