12.安いハニートラップ。引っかかる訳がない。
よろしくお願いします!
捕獲したモニカは、どうやら暴れ疲れたらしく、すぐに大人しくなった。こちらとしてはありがたい限りだが、まだ何か企んでいそうで恐ろしいな。
「ねぇ、おにーさん」
「あ? なんだよ。ぶっ飛ばすぞ」
「なんか風当たり強すぎない!?」
そうは言ってもな。今までのモニカと性格が違いすぎて、別人にしか思えない。
捕獲に手こずらされた分、好感度はマイナスだ。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、網を外してくれない? この網苦しくってさ」
網にやらロープやらで雁字搦めにされたモニカはモゾモゾと動いて俺にアピールする。本当に、全く動けそうにない上、苦しそうだ。
「だが! 断る!」
「なんでさ!」
「もし逃げられたら面倒だからだよ」
きっと、次は同じ手が通じない。流石にコイツもそこまでアホじゃあないだろう。
「そうだそうだ! 私とラインズがどれだけ苦労したと思ってるの!」
「そういうことだ」
「ぐ……じゃ、じゃあ、お兄さん」
一瞬、モニカの眼がギラリと怪しげに光った。あ、なんかこいつ良からぬことを考えてるな。
モニカは、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながら、言った。
「この、私の体をどうにでもしていい。って言ったら、どうする?」
「何だと!?」
「何を言ってるの!?」
な、何を考えているんだ。この阿呆は。思考がフリーズする。
お、おち、おちおちおちつけ。落ち着くんだ。素数を数えろ。
こんな安っぽいハニートラップに引っかかってはいけない。どうしたって罠であることは確実だ。
しかも、モニカの体だぞ? あんな貧相な肉体、生粋の巨乳派である俺には、俺のエクスカリバーにはピクリとも響かない!
「ふっ、残念だったなモニカ。貴様は俺の性癖を全く理解していないようだ」
「そんなことを言う割には、網を解いてくれるんだね?」
……何……だと……? 俺は確かに理解しているはずだ! この網を解いた瞬間、必ずモニカは逃げ出すだろう。それはわかっているはずなんだ。
だが、俺の中に眠る童貞が! あまりに女体を求めすぎて無意識レベルに刷り込まれた俺の動物的本能が! この網を解けと言っている!
クソ! 制御できない! 沈まれ俺の右腕! ……が、駄目っ!
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「頑張れ! 頑張れ! あともう少し!」
もう、仕方がない。これで逃しても避けようがなかったんだと諦めよう。もう無理だ。俺にはこの煩悩に対抗する手段が存在しない。
「なぁにやってんの!」
「グエッ!」
いきなり、後頭部に尋常でない衝撃を受けた。危ない、今気絶するところだったぞ。少し意識が飛びかけた。
当然、犯人は一人しかいない。
「ナズナ……!」
「何を苦しみだしたと思ったら、びっくりしたよ! 何逃がそうとしてるの!」
「す、すまん」
割とガチでキレていらっしゃる。なにせ、思い切り急所をぶん殴るくらいだ。正直すまんかった。
「あーっ! もうちょっとだったのに!」
モニカが残念そうに叫ぶ。俺も残念だよ。
だが、やはり諦め切れないものがある。恐るべし童貞の執念だ。
「わかった。ナズナ、俺が悪かった。頑張って網を解かないまま色々試してみるよ。頑張れば触れそうな気がする」
「てぃりゃあ!」
「グヘッ!」
ナズナに再度殴られた。もう少し言い方を変えた方がよかっただろうか。
「ラインズ! そこに正座!」
渋々、モニカと離れた位置に座る。そして、モニカが正気に戻るまで、ナズナに説教を聞かされたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「あ……れ……? なんで、こんな場所に……」
俺の足の痺れが限界を迎えた辺りで、段々と、モニカが正気を取り戻し始めた。
「おお、モニカ! よく目覚めてくれた!」
これでナズナの説教も終わりだろう。本当に助かった。
「うわ! なんですかその喜びようは! 何が起こったんですか!」
「モニカ! よかった! 頭良くなった!」
「何そのセリフ!? どんな悪口!?」
「いや、この場合ナズナが正しいぞ。アホだったのはお前だ」
「何を訳の分からないことを言ってるんですか! 説明してください! 流石に、あなたにアホ呼ばわりされるのは納得いきませんよ!」
おお、この失礼な物言い。間違いなくアホではないモニカだ。懐かしくすらあるぞ。
目覚めたモニカに、俺とナズナは順を追って説明した。ナズナは主に本当のことをわかりやすく。俺は主にハニートラップの部分を全力で捏造しながら、あることないことを吹き込みまくった。
モニカは、最初は半信半疑。という様子だった。まあ、アホになる花なんて馬鹿らしいと思うだろう。しかし、自分が何も覚えていないこともあり、次第に信じ込んでいった。
となると、火を噴くのは俺の捏造だ。できる限りモニカが恥ずかしくなるよう、あわよくば弱みとして握れるよう、脚色した話に、彼女は徐々に顔を強張らせ、赤面していった。
結局、ナズナセキュリティが固すぎて、モニカに指一本触れることができなかった。これはそれの仕返し、もとい八つ当たりだ。ここで少しでも弱みを握っておこう。
「……だと」
俺の話を聞き終えたモニカがボソリと呟く。なんだよ。聞こえないぞ。
「あん?」
「嘘だと! 言ってください!」
顔を真っ赤に染めながらモニカは、魂の叫びをした。森中に響くような声だ。よほど恥ずかしかったのか。
まあ、半分くらい脚色しているから、嘘だと言えないこともないわけだが。
「ざぁーんねんだったなァ! 全部ホントだよ!」
そんなこと、言うわけがないのだった。




