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11.作戦T

よろしくお願いします!

 花畑で追いかけ合う男女。これだけ聞くと、さぞ素敵なラブロマンスが始まりそうだな。


 しかし、実態はそんなに綺麗なものじゃない。

 逃げる少女は容赦なく、こちらに石ころやら土やら花やら小動物やら、とにかく近くにあるものをこちらに投げつけてくる。そして、こちらを見て、馬鹿にしたように笑うのだ。完全にクソガキの行動である。


 追う人間、つまり俺だが、俺もまあひどい有様だ。必死の形相でモニカを追いかけるも、すんでのところでひらりと躱されてしまう。憎たらしいことに、身体能力で負けてる気がする。


「おいゴラァ! さっさと捕まれクソガキがァ!」


 一瞬、今までになく近づいた。そのチャンスを無駄にはできない。

 俺はモニカに飛び掛かる。渾身のルパンダイブだ。

 だが、それすらもゆうゆうと彼女は回避する。


「お兄さん顔必死すぎー! 絶対捕まってやんないよ!」


「ぶっ飛ばすぞお前!」


 プークスクスとモニカが笑う。同時に、聞こえてくる笑い声がもう一つ。


 いつの間に近くに来ていたのか。ナズナは俺の必死の顔を見て、目一杯の笑顔を浮かべている。いつもなら明るく気分のいいその笑顔も、この状況では殺意しか湧かない。


「ほんとだ! ラインズ顔おもしろいね!」


「てめぇもぶっ飛ばされてぇのかナズナァ!」


 先ほどからこのように、モニカとナズナに煽られつづけている。ってかナズナは味方だろうが! 捕まえるの手伝えや!


 だが、俺もなんの策もなくモニカを追い続けていたわけではない。ナズナと協力して、モニカを捕まえるための準備をしていたのだ。


「ナズナ! 準備はできたか!?」


「うん。ばっちりだよ!」


「よくやった! それじゃあ、作戦Tを実行する!」


「おーっ!」


 モニカに純粋な脚力で追いつくのは難しい。そのことを察した俺はすぐさま作戦Tを立案した。

 作戦T。その内容は単純明快。


「つまり、モニカを好物で釣って罠に引っ掛けようって魂胆だ!」


「あの、私も乗っかった手前言いにくいんだけど、そんな子ども騙しの作戦で大丈夫?」


「子供騙し? 何を言っているんだナズナ。今のモニカはなんだ!?」


「! ありえないくらい頭が悪い!」


「そういうことだ。もはやあいつはモニカではないナニカだ! あのIQ一桁女なら、多分! きっと! 易々と罠に引っかかるだろうさ!」


「なるほど! さすがラインズ!」


 俺は力強く説明するが、内心はそこまで盛り上がっていない。

 この程度の話に真面目に感心してるのか、こいつ。馬鹿じゃないか? 一体どこにさすがと言える要素があったのか教えてほしいものだが。まあいいや。


 ナズナから聞いたモニカの大好物、オレンジをちらつかせ、目標のポイントまでおびき寄せる。そして、ナズナにセッティングしてもらった網や拘束具を投下しまくる。これが作戦の全容だ。必要なものは全て召喚魔法によって用意した。


「作戦TはトラップのT! いくぞナズナ!」


「おーっ!」


 俺はモニカに向かって、ナズナは逆の方向へ走り出した。そして、あいつが逃げ出さない程度の距離で止まる。


「ほらよモニカ! 餌だぞ!」


 オレンジを投擲。こうやって投擲を何度か繰り返すうちに目標地点までおびき寄せるのだ。


「何ぃ? これぇ」


 受け取ったモニカは怪訝な目でオレンジを見つめている。

 クソ、さすがに釣られないか?


「オレンジだぁ! うまー!」


 食べた! やっぱアホだなあいつ! これ、もしかして作戦成功なるか?

 睡眠薬でも仕込めればよかったんだがな。具体的な情報が足りないのか、そもそも召喚できなかった。


「まだまだあるぞ! ほらよ!」


「やったぁ!」


 俺がオレンジをばらまきつつ走ると、モニカは驚くほど簡単についてきた。本当に、普段とのギャップがすごいな。


 走り続けていると、次第に森の入り口と、木の上に立つナズナが見えてきた。


「ナズナ! 連れてきたぞ!」


「そのまままっすぐ走って!」


 ナズナは、森の奥を指さした。


「了解だ!」


「もっとぉ……。よこせェ……」


 やっべぇ。なんか封印から目覚めた邪神みたいになってるぞあいつ。目がギラギラしている。完全に狩人の眼だ。そんなにオレンジ好きなのかよ。


 マズい。段々追いつかれそうになってきた。


「贄をォ……よこせェ!」


 邪神が、俺目掛けて勢いよく飛びつく。

 クソ。躱せな……。


「ここだぁ!」


 頭上から、ナズナの叫び声が聞こえた。見ると、体一杯に抱えた大きな網や重しを、真下のモニカに向かって放っているところだった。


「!?」


 ナズナの声に気を取られたのか、モニカは一瞬、反応が遅れた。慌ててその場を離れようとしたものの、バカデカい網を避けきることはできなかった。


 絡まった網はもう、簡単にとれることはない。転倒したモニカを見下すように、俺は歩み寄る。ナズナも、木の上から降りてきたようだ。


「へい! どんなもんだい!」


「かかったなアホがァ! 手間かけさせやがってチキショーめ!」


 俺とナズナが、息を合わせて決め台詞を吐く。客観的にみたらバカの集まりだなこれ。


「なんだこれ! 出れない! 何で!」


 モニカは網の中でゴロゴロともがいていた。ダガ―を持っているはずなんだが、覚えていないのだろうか。


「念のため、没収な」


 上手く身動きがとれないモニカの、腰あたりに携帯されたダガ―を抜き取る。これで、ちょっとやそっとじゃ出られないはずだ。


「で、ナズナ。これどうやって元に戻すんだ?」


 捕まえたはいいものの、こいつを元に戻さないからには帰れないぞ。輸送するのも難しいだろう。


「知らない」


「まあ、そうだよな。期待してなかったよ」


 アホになる花のことを知っていただけでも奇跡だろう。


「とりあえず。少し待ってみるか」


「そだね」


 花の効力にもよるだろうが、まあそこまで時間はかからないだろう。なるべく早く帰れるといいが。それまで、ゆっくり待つとしよう。


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