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9.花精の森

よろしくお願いします!

 鬱蒼と茂る緑は、地図がなければすぐに迷ってしまいそうなほどだった。花精の森とかいうファンタジーな名前こそついているものの、その辺りは普通の森林と何も変わらない。


「ほら、もっとキビキビ動いてください」


 冷たく、突き放すようにモニカが言う。やはり、昨日の件が尾を引いているのだろう。

 俺は慣れない道に足を取られながら、モニカに悪態をつく。


「何をそんなに急いでるんだ? こちとらケガ人だぞ。顔面がパンッパンに膨れ上がってんだぞ? 誰かのせいでな!」


「誰のせいかと言えば自分のせいでしょう! その顔は!」


 クソ。正論すぎて何も言えない。


「それでも少しやりすぎだよ。ラインズから顔を奪ったら何が残るの?」


 ナズナが優しく助け船を出してくれる。……いや、優しくはないか。


「ナズナの言う通りだぞ!」


「あなたそれを肯定していいんですか!? 人間として!」


「事実だからな」


「よくわきまえていらっしゃいますね……」


 呆れたようにモニカが言う。瞬間、林が急激に揺れる音が聞こえた。

 俺は武器に手をかけ、音のした方へ意識を向ける。


 この辺りにゴブリンは出ない。つまり、これがモンスターであれば、そいつは俺が出会ったことのないものだということだ。より一層、警戒する。


 音が止み、静寂が訪れる。ただの風だった。なんて訳はないだろう。


「キシャァァァ!」


 林から飛び出たのは、一匹の赤い蛇だった。背に、黒色の虎のような模様が入ったその蛇は、一番近くにいた俺に飛び掛かってくる。


「トラヘビです! 牙に微量ですが毒が含まれています!」


 モニカが注意を叫ぶと同時に俺は剣を、蛇目掛けて突き出した。

 当然ながら、飛び掛かってくる蛇に突きなんて当たらない。

 咄嗟に首や顔を手で庇った。トラヘビと言うらしいその蛇は、俺の腕に食いついた。


「っ!」


 直後に訪れた鋭い痛み。すぐにでも引き離そうと、手にナイフを召喚する。


「死ねや!」


 噛みついている蛇の胴体をそのままナイフで切り裂く。

 胴体を切り離された蛇の半分は、それぞれブルブルと震え、動かなくなった。

 短い戦闘を終えると、手に痺れを感じる。痛みは無いが、これが毒というやつだろう。


「大丈夫? ちょっと見せて」


 ナズナは俺の手を引き、長袖を捲る。露わになった腕には、二本の牙による噛み傷ができていた。


「邪気を払え。『アンチドート』」


 傷に向かい、ナズナが何かを唱える。すると、傷の周囲が淡く発光し、毒による腕の腫れが治まっていた。


「これは?」


 思わず聞いてしまう。そういえば、モニカが前、ナズナは魔法が得意みたいなことを言っていた。


「水魔法の『アンチドート』。簡単な毒なら、これがあれば大丈夫なのです」


「ナズナがいて助かりましたね。私だったら放っておいてました」


 なるほど。やはり魔法は便利だな。解毒剤やらが、ある程度節約できるんだもんな。モニカがなんか言ってるが、それは無視しよう。


「他にも、魔法は使えるのか?」


「うん。四大元素系は簡単なやつは押さえてるよ」


「弱点なしか。それはすごいな」


「いやいや。そんなことないよ。光魔法と闇魔法は苦手だし」


「でも、助かったわ。さんきゅー」


「いえいえ。これくらいどうってことないよ」


 どうにも謙遜したがりのようだが、ナズナの実力は本物だな。


「どっかの堅物と違って」


「なんですか? 私に何か?」


「なんも言ってねぇよ。……胸が堅物なんて言ってない」


「思いっきり喧嘩売ってますよね? 高値で買いますよ?」


 聞こえないように言ったのに。地獄耳か。


 その後は、大きなトラブルはなく、目的のポイントの近くまで来ることができた。

 まだ景色に変化は無いが、次第に甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 さらに道を進むと、段々と木々が減っていき、より奥の様子が見えるようになってきた。

 木々が完全になくなり、開けた場所に出たとき、俺たちはそれを見つけた。


 花畑。そのイメージ通りの、色とりどりの花が咲く広場だった。常に騒がしかった森の中に比べ、そこだけは何故か静かで、落ち着く雰囲気だ。


「綺麗ですね」


 モニカが俺にそんなことを言う。なぜだ。逆に恐ろしいぞ。


「お前の方が」


「気持ち悪いです気分を害します折角人が楽しんでたのに邪魔しないでください」


 めっちゃ食い気味に罵倒された。しかも早口だ。だが、それでこそモニカだな。安心したわ。


「でも、この中から目的の花を見つけるって……」


 ナズナが不安そうに言う。確かに。面倒そうだ。


「まあ、やるしかないわよ。頑張りましょう」


「モニカ。花の特徴ってなんだったっけ?」


「確か、綺麗な紫色をしてるって。あと、部屋に飾られているから、香りはわかりやすいはず」


「それだけか?」


「一応」


 難しいな。帰る時間を考えたら、あまりモタモタしてはいられなさそうだ。


「急いで取り掛かろう」


 ナズナのその言葉で、俺たちは動き出した。

 無事、今日中に終わるといいんだが。

 まさか、二日間の期限って、そういうことじゃないよな。


 少しの不安と共に、花探しを始めた。


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