1話 屠殺の勇者誕生
2・
―――――――突如、異世界に呼び出され世界を救う。
そういうゲームを山ほどやった記憶がある。
ありきたりで、バカバカしいほどご都合主義なのがほとんどだった気がする。
だが、それが逆に心地よかったのはよく覚えてる。
何もとりえがなく、パッとしないまま青春が過ぎ去り、
大学受験にも失敗し、なし崩しに親戚のお陰で運よく入れた会社でグダグダやってる俺とは大違いだ。
そんな順風満帆な人生を送ってる電脳世界の英雄達に俺は嫉妬し、憧れていた。
誰しも考えたことがあるだろう。
もし、異世界に召喚され 勇者になれたなら 俺の何かが変わるんじゃないかって。
―――――――馬鹿な妄想なのはわかってる。
そんな夢物語、あるはずがない……あるはずがないんだ。
だけど
『貴方はこの世界に選ばれ、召喚された勇者の一人・・・・・・貴方にはその使命があるのです』
透き通るような白い肌に、透き通るような白い布を羽織る女性が懇切丁寧に説明してる。
シャンパンゴールドの奇麗なロングヘアーをどこから吹く風でなびかせ
全身には下品にならない程度の高価そうな装飾品で施され、手にはこれまた豪華な杖を片手に携えてる。
まさしくあれだ。RPGとかでよく見る女神って奴だ。
事実、彼女自身も女神と名乗り、世界を司る神の一人だと言ってる。
最初はコスプレ、若しくは変な奴かと思ったが
正直、そんな事どうでもよくなってきた。
彼女の説明する内容がそれ以上に突飛すぎだからだ。
彼女曰く、なんとかって世界は魔王が人々を恐怖に陥れており
それに対抗するため、勇者を召喚、特殊な力を授け魔王を討伐するための儀式を行い
俺達はそれによって召喚された・・・という事らしい。
話を聞いてるうち横暴すぎるだろ、と文句を言ったがそれを黙殺させ話をつづける女神。
本当、自分勝手すぎないか?
横柄な態度の女神に内心苛立ちを覚えながらも話を聞く俺。
だが、根本的なことを聞く必要がある・・・至極大事な事である。
「なぁ」
『なんです?』
話の腰を折られ、ものすごい形相でにらみつける女神。
まるでゴミを見るような目線で
「何で俺が呼ばれてるんだ?」
『さぁ?』
さぁ?ってアンタ・・・サイコパスじみたこの女神に思わず怒気を抱く
『そもそも何です?何で部外者である貴方がここにいるんです?勇者でもない貴方が何故』
―――――そう、俺は呼ばれたわけじゃない。
巻き込まれたんだ・・・・・・勇者召喚の儀式に。
『まあ、いいです。私は勇者様に説明しなければならないのですから』
邪魔するな、といった態度で勇者と呼ばれたそいつに対峙する女神。
そう、呼ばれたのは俺じゃない
そいつは黒い肌を震わせ、鼻息荒く女神を見つめてる。
俺の倍以上ある体格。
黒い瞳は女神を映し
この状況に関わらず、呑気に欠伸をしながら、尻尾をぶんぶん震わせてる。
俺が屠殺しようとした牛のそいつが勇者として召喚されたのだ。
『・・・・・・黙認は了承という事で
では、改めまして…A3松坂牛族・竜王破亞厳・・・・・・女神の名において貴方を勇者の称号を与えます』
だけど
俺は知らなかったんだ。
もし、異世界に呼び出されても・・・勇者になれるわけじゃないって。
異世界でも現実と何ら変わらないことがあるって。
これは俺の物語なんかじゃない。
勇者に選ばれた松坂牛『竜王破亞厳』の冒険の物語なのだから―――――。