まどろみの週末
日常で、キュンとする人はキュンとするお話です。十代の人は絶対つまらないと思います笑
「ん・・・んー」
8月特有の強い熱量をもった朝陽が、私の顔を照らし私を起こした。扇風機が音を立てて回っているが、私たち夫婦の寝室は蒸し風呂状態だ。日当たりが良すぎるというのも考え物である。
私の記憶が正しければ、今日は土曜日で旦那は休みである。結婚して約二年、旦那は平日朝六時過ぎに家を出てしまい、帰りは夜九時前になるので、私もフルタイムで働いている事もあり、毎日顔を合わせてはいるものの、若干の寂しさを毎日感じてしまい、それが元でケンカになってしまうこともあった。
「起きるか・・・」
誰に言うわけでもなく私はつぶやき体を起こす。感覚的に朝8時くらいだろうか?隣にはいつも寝ているはずの旦那はおらず、リビングからは何やら音が聞こえてくる。
「おはよ」
まだ寝ぼけてボーッとした頭でクーラーの効いたリビングへ行くと、旦那が珍しくキッチンに立っていた。
「あ、おはよう。朝飯もうできるからちょっと待っててね。」
私の声に気づいた彼は、フライパン片手にそう言った。オーブントースターが動いてる所を見ると、食パンとベーコンエッグというところだろう。旦那は料理ができない分けではないが、朝食のレパートリーは多くはない。いや、ちゃんと作ってくれるだけでもありがたいので文句はないのだ。
「何時に起きたの?」
洗面所から持ってきた歯ブラシをくわえながら私は訪ねる。
「んーと、7時ちょっと前かな?」
旦那はフライパンの中身を白い皿に盛りつけながらそう答えた。予想通りのベーコンエッグだ。テーブルの上には食パンとイチゴジャムの瓶も置かれている。
私は歯を磨き終えて再びリビングへ戻った。旦那は使い終わったフライパンやらを水につけ、既に席についていた。
「いただきまーす。」
「いただきます。」
なんの変哲もない朝食だ。食パンはカリカリに焼け、牛乳は低脂肪乳、ジャムも普通にスーパーで売っているものだ。
「今日のベーコンエッグは自信作だぜよ。」
謎の土佐弁で旦那は胸を張る。
「どれどれ・・・」
私はフォークに卵とベーコンを乗せ、口に運ぶ。いつも美味しいのだが、今日のものはとろとろに焼けた卵の中に香ばしさが感じられる。ベーコンの油だけではないのだろう。
「あっ、おいしい。」
私がそう言うと勝ち誇った笑顔を旦那は浮かべている。
「よっし!」
嬉しそうだ。無邪気な子供みたいな喜び方をする旦那がかわいい。
「これ、バターとオリーブオイルで焼いた?」
もう一口、卵を食べた私は答に気がついた。
「正解、流石だね。」
食パンにジャムを塗りながら旦那は答える。
「料理の場数が違うよ、場数が。」
私もふざけて胸を張ってみせる。もちろんドヤ顔で、だ。
「お見逸れしました。あと、無い胸張ってもねぇ・・・」
こいつは本当に・・・
「コラ!」
「ギャー、こわいー」
一通りふざけ倒し、朝食を済ませる。ジャンケンに負けた旦那が皿も洗うというので、私はコーヒーをいれる。テレビをつけるワイドショーでは芸能人の不倫ばかりが取り上げられている。世のおばさま方は、こういうのに興味があるのだろう。
「お、コーヒーサンキュー」
皿洗いから帰還した旦那が、私の向かいに座る。
「なんだ、また誰か不倫したの?」
テレビに気付いた旦那が、私に聞く。
「あれだよ、昔アイドルだったあの人・・・」
テレビには、ちょうどその女性のアイドル時代の映像が流れる。
「ふーん、不倫なんてバカだなぁ。」
旦那は気の抜けた声でそう言って、コーヒーカップをもった。一口飲むと、続けて口を開く。
「今日どこか出かけない?」
「どうしたの急に?」
思わず私は聞き返した。旦那は休日は出掛けるよりも家で大人しくしていたいタイプで、結婚してから出掛けるのに誘われた事は数える位しかなかった。
「たまには、デートでもね。そんなにおかしいかな?」
恥ずかしそうにコーヒーを飲む旦那。
「ううん、嬉しい。」
私もそう言うと、少し恥ずかしくなった。毎日一緒に生活している筈なのに、付き合い始めたばかりの頃を思い出すような高揚感がある。
「どこか行きたい所、ある?」
旦那は私に聞く。
「うーん・・・一緒ならどこでもいいよ。」
私はきっととびきりの笑顔だろう。きっと化粧をするのにも気合いが入るはずだ。
なんの変哲もない土曜日だけど、私は言葉に出来ない幸せを噛みしめている。