表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

まどろみの週末

作者: 匿名希望のS

日常で、キュンとする人はキュンとするお話です。十代の人は絶対つまらないと思います笑

「ん・・・んー」

 8月特有の強い熱量をもった朝陽が、私の顔を照らし私を起こした。扇風機が音を立てて回っているが、私たち夫婦の寝室は蒸し風呂状態だ。日当たりが良すぎるというのも考え物である。

 私の記憶が正しければ、今日は土曜日で旦那は休みである。結婚して約二年、旦那は平日朝六時過ぎに家を出てしまい、帰りは夜九時前になるので、私もフルタイムで働いている事もあり、毎日顔を合わせてはいるものの、若干の寂しさを毎日感じてしまい、それが元でケンカになってしまうこともあった。

「起きるか・・・」

 誰に言うわけでもなく私はつぶやき体を起こす。感覚的に朝8時くらいだろうか?隣にはいつも寝ているはずの旦那はおらず、リビングからは何やら音が聞こえてくる。 


「おはよ」

 まだ寝ぼけてボーッとした頭でクーラーの効いたリビングへ行くと、旦那が珍しくキッチンに立っていた。

「あ、おはよう。朝飯もうできるからちょっと待っててね。」

私の声に気づいた彼は、フライパン片手にそう言った。オーブントースターが動いてる所を見ると、食パンとベーコンエッグというところだろう。旦那は料理ができない分けではないが、朝食のレパートリーは多くはない。いや、ちゃんと作ってくれるだけでもありがたいので文句はないのだ。


「何時に起きたの?」

 洗面所から持ってきた歯ブラシをくわえながら私は訪ねる。

「んーと、7時ちょっと前かな?」

 旦那はフライパンの中身を白い皿に盛りつけながらそう答えた。予想通りのベーコンエッグだ。テーブルの上には食パンとイチゴジャムの瓶も置かれている。

 私は歯を磨き終えて再びリビングへ戻った。旦那は使い終わったフライパンやらを水につけ、既に席についていた。

「いただきまーす。」

「いただきます。」

なんの変哲もない朝食だ。食パンはカリカリに焼け、牛乳は低脂肪乳、ジャムも普通にスーパーで売っているものだ。

「今日のベーコンエッグは自信作だぜよ。」

 謎の土佐弁で旦那は胸を張る。

「どれどれ・・・」

私はフォークに卵とベーコンを乗せ、口に運ぶ。いつも美味しいのだが、今日のものはとろとろに焼けた卵の中に香ばしさが感じられる。ベーコンの油だけではないのだろう。

「あっ、おいしい。」

私がそう言うと勝ち誇った笑顔を旦那は浮かべている。

「よっし!」

嬉しそうだ。無邪気な子供みたいな喜び方をする旦那がかわいい。

「これ、バターとオリーブオイルで焼いた?」

もう一口、卵を食べた私は答に気がついた。

「正解、流石だね。」

食パンにジャムを塗りながら旦那は答える。

「料理の場数が違うよ、場数が。」

私もふざけて胸を張ってみせる。もちろんドヤ顔で、だ。

「お見逸れしました。あと、無い胸張ってもねぇ・・・」

こいつは本当に・・・

「コラ!」

「ギャー、こわいー」


一通りふざけ倒し、朝食を済ませる。ジャンケンに負けた旦那が皿も洗うというので、私はコーヒーをいれる。テレビをつけるワイドショーでは芸能人の不倫ばかりが取り上げられている。世のおばさま方は、こういうのに興味があるのだろう。

「お、コーヒーサンキュー」

皿洗いから帰還した旦那が、私の向かいに座る。

「なんだ、また誰か不倫したの?」

テレビに気付いた旦那が、私に聞く。

「あれだよ、昔アイドルだったあの人・・・」

テレビには、ちょうどその女性のアイドル時代の映像が流れる。

「ふーん、不倫なんてバカだなぁ。」

旦那は気の抜けた声でそう言って、コーヒーカップをもった。一口飲むと、続けて口を開く。

「今日どこか出かけない?」

「どうしたの急に?」

 思わず私は聞き返した。旦那は休日は出掛けるよりも家で大人しくしていたいタイプで、結婚してから出掛けるのに誘われた事は数える位しかなかった。

「たまには、デートでもね。そんなにおかしいかな?」

 恥ずかしそうにコーヒーを飲む旦那。

「ううん、嬉しい。」

私もそう言うと、少し恥ずかしくなった。毎日一緒に生活している筈なのに、付き合い始めたばかりの頃を思い出すような高揚感がある。

「どこか行きたい所、ある?」

旦那は私に聞く。

「うーん・・・一緒ならどこでもいいよ。」

 私はきっととびきりの笑顔だろう。きっと化粧をするのにも気合いが入るはずだ。

 なんの変哲もない土曜日だけど、私は言葉に出来ない幸せを噛みしめている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  よどみない文章と何気ない幸せ。 [一言]  この夫婦の週末を、御作の『ブランクという文字列』みたいな人類の終末に放り込んだら面白いのではないかと思いました。
[一言] 素敵なお話ですね。仕事して、ご飯食べて、寝て、の繰り返し。変わらない毎日に刺激なんて滅多にないでしょう。そんな生活の中で、このお話のような出来事があったらとても嬉しいですね。共感というか、羨…
2017/09/27 05:20 退会済み
管理
[一言] はじめまして、Dと申します。 とてもいいです。イチャイチャしていて、キュンキュンしました(笑)。こういう作品大好きです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ