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片道切符

作者: みず

これは女子高生が上京する話。


田舎暮らしの伊砂は東京の高校に通うことを決めた。

両親はそこまで反対しなかったが、友達とか学校の先生とかには結構、反対された。

それもそのはず、伊砂は常識知らずで、おっちょこちょいな性格だったからだ。

それでも最後は自分で決め、上京を決意した。


常識をあまり知らないだけで、頭は普通に良かった。

そのおかげであっさりと合格。

その時も受験するために東京に行ったのだが、有名人を迎えるかのような大人数で伊砂を見送った。

帰ってくる時も同様、セレモニーでも開かれているのかと、伊砂は思った。


上京するのは二週間後。

それでも時間はあっという間に過ぎてしまうだろう。

荷物をまとめ、お世話になった人に一応あいさつをしに行き、高校の提出用紙やら、引越し先のことやら、色々と忙しいからだ。

気づくと上京まで三日に迫っていた。

部屋で制服を試着してウキウキしていた伊砂に一本の電話がかかってきた。

「もしもし?樹?どったの〜?」

「…ほんとに、行っちゃうんだよな…?」

「うん!めっちゃ楽しみ!!友達できるかなぁ…。それにね!制服かわいくて!今着てるんだけど!それから…」

独りで話を淡々と続けてたからか、不意に電話が切れた。

(どうしたんだろう…?)

伊砂には不安を感じないくらいのワクワク感があった。

樹が何を思って電話をかけてきたかも知らないで…。


上京する前日、バタバタしていて気づかなかったが、留守電が入っていた。

準備をひと段落させ、留守電を聞いてみると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あ、あー、伊砂?今日の九時にあの見晴らし台に来て欲しい。渡したいものがある。」

最低限のことだけ伝えた感じの留守番電話。

渡したいものと聞き、プレゼントをもらえると思い、ウキウキな伊砂はスキップで、とある見晴らし台に向かった。


「いーつーきー!!!」

先に見晴らし台にいた樹に手を振りながら走って近づいた。

樹は変な顔をしていた。

いろんな感情が混ざって、何も感情がよめなかった。

それは伊砂を不安にさせた。

「…これ、万が一辛くなったらこれ見て帰って来て。俺はずっとここにいるから。…伊砂は常識は知らないし、おっちょこちょいだけど、その明るさで東京でも頑張れよ!」

樹は珍しく満面の笑みを浮かべ右手の拳を突き出した。

伊砂は困惑しながらも、樹の持っていた紙切れを受け取り、拳を合わせた。


樹は帰った。

が、伊砂は立ち尽くしたまま、涙が頬を伝っていた。

二人がいた見晴らし台は、二人が出会った場所であり、二人の思い出の場所。

伊砂は声を出して泣いた。泣きじゃくった。


上京当日、樹は見送りに来た。

それでも、伊砂とは喋らず、ただ立っていただけだった。

伊砂は樹だけを見ていた。

改札を通り、電車に乗る。

電車が動き出しても樹は動かなかった。

顔を合わせるどころか、俯いていた。

伊砂は樹に全力で手を振った。

それでも、樹は俯いたままだった。


一年が経った。

東京での生活は苦ではなかったが、楽でもなかった。

夜遅くに帰宅し、朝早くに登校。

伊砂の体は疲労困ぱいだった。

持ち前の明るさが空回りし、その上常識知らずなところが人間関係を悪くしてしまった。

勉強もレベルがすごい速さで上がっていき、追いつけないくらいだった。

伊砂は日々、孤独な生活をしていた。

(もう無理、生きてけない、、、うん、死のう)

伊砂は限界にまできていた。

家に帰り、紐を探していると、紙切れが落ちてきた。

気になって見てみると、

「行き先 高村 樹

※この切符は片道専用」

伊砂は泣き崩れた。

甘かった。情けなかった。周りを全く見れてなかった。

自分の弱さに気づいた伊砂はその切符を迷わずに使った。


帰ると、一年しか経ってないのにすごい成長した樹が笑顔で迎えてくれた。

「おかえり!」

「ただいま!」

涙で崩れた顔を樹の胸に埋もらせ、伊砂は無事に行き先に辿り着けた。


それから、二人は同じ道を歩んでいった。

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