MEZAME 17&18
MEZAME17
ミッション
敵は、目の前にいた。
しかも、咲夜はその敵を知っている。
敵の服装は学校の制服を思わせるブレザー…いや、これはただの学校の制服だった。なぜなら、咲夜も今、全く同じ服を身につけているからだ。つまり敵は―
「穂盛江夢学園の生徒、ね」
莉鈴が敵を見ながら呟く。それに咲夜も首肯する。
「…ああ。桐崎ヒロシ。穂盛江夢2年C組の生徒だ、間違いねえ」
「そんな…!まさか穂盛江夢が襲撃されたんじゃ…」
如神根も恐る恐る口を開く。
「わからねえ。だが今は学校の様子を見る暇もない。目の前の敵優先だ」
言うと咲夜は仲間の方を振り向き、如神根と莉鈴に告げる。
「お前らも自分の学校の様子を見ていってくれ。もしかすると敵の部隊の中に湯ゆ利り江え巣すやモホズエラの奴がいるかもしれないからな。特にサド女。お前はあいつを斬り殺しかねないからな。ここの戦闘は俺に任せて、モホズエラの様子見てこい」
「あなたに命令されるのは癪だけれど、まあいいでしょう。あとその呼び方はやめなさい、次言ったら斬るわよ」
「任せて!湯利江巣は私が確認してくるから!」
莉鈴も如神根も、賛同してくれたようだ。次にマクガルドの方を向き、
「あんたは穂盛江夢を見てくれないか。第2の被害者が出るかもしれない」
「ああ、わかった。だがお前さんだけで戦闘できるか?」
「この中では敵を一番知っているのは俺だ。同じ穂盛江夢の生徒として、俺がケリをつけるよ」
「そうか…ま、頑張れよ」
最後に、カーナーを見る。
「あんたはそのテレパシー能力で仲間との情報共有だ。だから他のみんなも、情報はカーナーのじーさんに入れてくれ。そしてじーさん。あんたの最優先事項は…アニューシャを死んでも守れ」
「…ケッ、当たり前のことを言うんじゃねーよ」
その言葉に咲夜は微笑む。
「はは、だよな。アニューシャ、お前もできるだけじーさんと安全なところへ逃げるんだ。いいな?」
「うん!おにーちゃん、がんばってね!」
「ああ」
全員に指示を出した後、咲夜は呼吸を整えて叫んだ。
「作戦、開始ッ‼︎」
桐崎紘
今、この場には咲夜、そして敵のヒロシだけだ。ヒロシは顔を下に向けているため、表情はうかがい知れない。咲夜はこの距離を保ったまま、話しかける。
「…桐崎紘。2年C組、だろ?俺は2年A組だから、知らねーかもな」
ヒロシは答えない。
「だからお前とこうやって話すのは初めてだ。そうだろ?」
ヒロシは答えない。
「さて、お前に聞きたいことは山ほどあるが…まあ1つだけ忠告してやるよ」
ヒロシの頭が僅かに動いた。
「死にたくなければそのくだらねー部隊から抜けるこった、吸血鬼風情が」
咲夜が言い放った瞬間、ヒロシが手を合わせて印を結び始めた。
―こいつ、呪術が…?いや、違う。これは…
するとヒロシの足元から3つほど、魔法陣のようなものが現れる。そこから出てきたのは、異なる3種の”バケモノ”だった。
―じーさんの予想通りだ。コイツの能力は『異世界召喚』…そしてコイツ自身はあまり戦闘能力もないただの人間、というか召喚士—―サモナーだ。いや、それより問題はコイツが吸血鬼の部隊にいることが本人の意志であるか否か…
だが、恐らく答えは後者だろうと咲夜は思った。ヒロシの目の色はまるで吸血鬼の如く鮮やかな赤だ。つまりヒロシは、吸血鬼によって操られている善良な同級生なのだ。やはり、傷つける訳にはいかない。
「一体、どうすれば…!」
だが、それは思ったより簡単ではないかとも思った。
異世界召喚ならば、召喚を続ければいつかは力尽きる。そのタイミングを狙うのだ。だが、
「くそ、そんなに倒せるか…」
恐らく召喚されるバケモノはかなり数が多くなるだろう。
咲夜とヒロシ、どちらが力尽きるのが早いか。
敵の数こそ違えど実質的には1対1だ。
「…得体の知れない吸血鬼に操られて辛いだろ?俺が楽にしてやるよ。だから、大人しく力尽きやがれ」
咲夜は日本刀を出さず、拳を構えた。
MEZAME18
ヒロシが召喚したバケモノが咲夜に向かって突進してくる。
それを交わしつつ何か作戦を考えなければ。
まず、ヒロシがどうなってるかだ。洗脳されているのか吸血鬼にされたのかはっきりさせる必要があった。そうしなければ今後の対処が大きく変わる。
「くそっ何か見分ける方法でもあれば」
機敏にバケモノの攻撃を交わす咲夜にヒロシは一定の距離を取りつつ近づいてくる。
その様子を見て咲夜はあることにひらめいた。
「もしかしてお前…」
ヒロシがゆっくりと咲夜を見つめる。
「ものは試しだ!」
そう言い放つと咲夜はタイミングを見計らい、ヒロシとは真逆の方向へ走りだした。複雑に入り組んだ商店街を縦横無尽に駆け巡る。露店に並んでいた商品を投げ飛ばし障害物を設置しながら逃げたがバケモノの姿は無い。ヒロシも追ってきていいないようだった。
「く…読みが外れたか?」
息を整えるために少し走るのをやめた。
その時後ろにただならぬ気配を感じた。そう、ヒロシだった。
「お前どうやって追ってきた?」
ヒロシは答えない。
「まぁ障害物たどってくれば当然だよな」
咲夜の言葉には何も反応せずヒロシはまた手を合わせた。バケモノを召喚する動作だ。
「ふっこのタイミングを待ってたぜ!」
召喚儀式を行なっているヒロシに咲夜は可能な限り近づき、顔めがけてニンニクを投げつけた。続いて十字架。他にも吸血鬼に効きそうな物を沢山投げた。まるで、最初に奴と戦った時の様に。
「効いたか!?」
しかし、ヒロシは吸血鬼の様に反応を見せない。もう一度手をあわせて儀式を始めた。
「効いてねぇ。でもお前が吸血鬼じゃないってことは分かった!次はどう洗脳をとくかだな。あともう一つ分かったことがあるぜ。お前は召喚したバケモノから一定距離離れられないってことだ。莉鈴が倒した時も今もそうだった。」
相手の調子を伺いながら咲夜は淡々と告げる。
「だから、これから俺は本気で逃げる。穂盛江夢学園に取りにいかなきゃいけないものがあるからな。」
明らかに誘っている咲夜の姿をヒロシはじっと見つめていた。いつのまにか手も止まって召喚は中断されたらしい。
「それじゃ、はりきっていきますか!」咲夜はそう言い残すと走ってその場を立ち去った。ここから穂盛江夢までは距離がある。しかしなんとかならない距離では無かった。向こうに行ったらマクガルドのおっさんと合流できるだろうか。そんなことを考えながら現状報告をするためにカーナーを呼び出した。
「そっちはどうだ?」
『俺らは無事だ。如神根と莉鈴からはまだ連絡が入っておらん。マクガルドはどうやら穂盛江夢につく前に敵に遭遇したらしい。』
「まじかよ。それでどうなったんだ?」
『それから連絡は入っておらん。そっちは何かあったか?』
「あぁ、あのヒロシって奴は吸血鬼化しているわけじゃない。洗脳されてるみたいだ。敵の部隊はもしかしたら全員洗脳されている可能性があるな。あと、あの召喚能力には射程距離がある」
『そうか、良くやった。すぐにみんなにも伝える。ところでお前今何をしている?走ってるのか?息が荒いぞ』
「あぁ、ちょっとな。洗脳を解くために穂盛江夢学園に向ってる。何かありしだい連絡する」
『無理だけはするなよ。』
「あぁ、分かってる。」
咲夜の言葉でテレパシーは終わった。
穂盛江夢学園の校舎内。
咲夜は2年C組の教室に向かって廊下を歩いていた。ヒロシは能力の体力の消費が激しいから歩いてついて来ているはずだ。追ってくるという確証は無かったが何かドス黒いモノが追ってきているのを感じていた。
「しかし、マクガルドのおっさんも心配だな。ここに来る前に見なかったし」そんなことを思いながら窓の外に目をやる。するとそこにはヒロシの姿が。
「やべぇもう来たのか。はやいと例の物をとってこないと。あれ触るのか…」
咲夜は嫌々ながらも洗脳を解くための例の物を取りに急いだ。
階段をゆっくりとヒロシが上がってきた。廊下の先で咲夜は待ち構えている。
ヒロシはすぐに召喚儀式を行いはじめた。彼は操り人形の様に動いている。咲夜はそう感じた。
先ほどと同じようなバケモノが1匹現れこちらに迷わず突進してきた。
咲夜もそいつに向かって走りだす。日本刀片手に。
バケモノが咲夜に飛びかかる瞬間、咲夜はバケモノの下に潜り込み日本刀で真っ二つに切り裂いた。血しぶきが周りに飛び散ったがそんなものを気にしている暇はない。バケモノがやられたことにひるんでいるヒロシの目の前まで走っていきポケットに忍ばせていた物を目の前に突きつけた。それは――マキオのパンツだった。その瞬間ヒロシの目の色が変わった。パンツに釘ずけだ。咲夜はそのパンツを勢いよく窓の外に投げた。ヒロシは釣られるように3階から飛び降りていくのであった。
「いくらなんでもアホ過ぎるだろ…」
作戦がうまくいったとはいえ流石に呆れてしまう。窓の下で気絶しているヒロシを見て思うのだった。
数分後椅子に縛り付けたヒロシが目覚めた。
「え?何これ!?」
「やっと正気に戻ったか?」
「そっか、僕負けたのか。」
「は!?お前自分の意思で動いていたのか?」
「まぁほぼね。」
「どういうことだよ?」
「あの吸血鬼に君たちと戦うことを条件に能力を貰った後、弱っていた精神を補助するためにすこし催眠にかけてもらってたんだ」
「まじかよ…どうしてお前そんなことしたんだよ」
「かっこいいと思ったから
。ただそれだけだよ。別にマキオに惚れてもらいたいとか考えてたわけじゃないし」
「お前欲望が口から出てるぞ…」
本当になんなんだこいつは。
「で、ということらしいがじーさん聞いてたか?」
『あぁ。バッチリ聞こえた。ほかの連中に伝えておこう』
「頼むわ」
カーナーとの連絡も済んだ。この縛られたアホはしばらくほっといても大丈夫そうだろ。なんか興奮してるし。すぐにマクガルドのところに行かなければ。
教室から立ち去ろうとした咲夜をマキオは呼び止めた。
「僕達のチームは強いよ。全員の能力は知らないけれどかなりの凄みがある。今頃君の仲間達と会っているんじゃないかな?マクガルドだっけ?たぶんその人はリーダーと戦ってるよ。後の4人も危ういね」
「いい情報をありがとよ。じゃあちょっくら助けてくるわ」
咲夜はそう言い残して教室を後にした。
『おい、咲夜!今すぐホモズエラにむかえるか!?莉鈴の援助に行ってくれ』
突然入った連絡に咲夜は一言
「なんでよりによってあの女なんだよ…」
そうこぼしてモホズエラに向かった。