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MEZAME  作者: 夜風
6/9

MEZAME 11&12

MEZAME11


カーナーとアニューシャの過去を知ったその後、如神根とマクガルドは先に帰り、残ったのは咲夜と莉鈴の2人。


「…カーナーさんは?」


莉鈴が問う。先ほどまで激昂していたカーナーだ。このままでは小屋を壊しかねない。


「向こうの部屋にこもってるよ。アニューシャも自分の部屋で寝てる。…俺はアイツらの過去なんて知らねえ。けれど、苦しかったんだと思う。苦しい現実の中で、それでも生きてんだ。だったら俺たちも見習うだけだ」


暗い空を見つめ呟く咲夜に莉鈴はキョトンとして、


「…驚いたわ。アナタがそんなに真面目なこと言うなんて。しかもかなりカッコつけて」


「やべえ俺マジでこの女嫌いだわ」


咲夜が睨む。そして、2人は同時に笑い声を上げる。暗い宵の中にそれは一筋の光を当てた。


「それで、これからどうするの?」


「決まってんだろ。吸血鬼を倒す。俺たちで…!」


「アナタにそんな実力があるのかしらね」


「いや、ないだろ」


きっぱりと咲夜は否定する。


「だからこそ、全員で戦うんだ」


その言葉を聴き、莉鈴は咲夜に対し何か言いたいような表情で見つめる。そして、一度目を閉じて、


「やっぱり私、アナタと手合わせしてみたいわ」


「バカ言え。こんな小屋で戦えばぶっ壊れるって言ったろ。それにお前だって日が昇っている時間じゃないとダメだって―」


途中、咲夜は言葉を止める。莉鈴の発言の意図が、読めた。すると咲夜は前言撤回をするが如く、


「…仕方ない。やってやるよ」


咲夜は懐から呪符を取り出す。完全に戦闘モードだ。


それに対し莉鈴は何も出してこない。手ぶらの状態だ。当然、咲夜の呪術に手ぶらで挑めばケガでは済まないはずだ。それでも莉鈴は、動かない。


―まだ能力を使ってこない…?あくまで手の内を晒さないつもりか。


吸血鬼には能力を使わないと勝てない。いや、使っても勝てないほどの実力だろう。咲夜にはまだ見せない。だとすると、いざ吸血鬼との戦いで初めて見せるということだろうか。


だが、それでも―


「死んでも文句言うんじゃねえぞっっ‼︎」


咲夜は呪印が刻まれた日本刀を、莉鈴に向けて振りかぶる。手加減はしない。もともと向こうから仕掛けた勝負なのだ。ならば、本気で応えねばなるまい。


死に際の言葉なのか、莉鈴はわずかに微笑み告げる。


「…本当に、何も気付いていないのね」


対して咲夜も笑う。


「ああ。だから、もう消えろ」


そのまま刀は莉鈴の身体を両断―することはなかった。なぜなら、


「…ぐっ、かはっ…!」


刀は莉鈴ではない、あるモノを貫いていた。凶暴な目、強靱な身体、鋭い牙をもっているそれはまさに―


「消えろ、吸血鬼」


咲夜の言葉とともに、その吸血鬼は消し飛んだ。だが咲夜は、まだ安心していなかった


今駆逐した吸血鬼は、以前の吸血鬼ではないからだ。


「奴はまだ生きている…!そして奴は必ずここに来る」


その時、聞き覚えのある声がした。妙に優しく、そして恐ろしい声が。


「まさか姿を消していた吸血鬼の存在を気配だけで察知していたとはね。それで味方を攻撃するフリをして、吸血鬼を狙った…君たちに気付かれていないと思い油断していた吸血鬼は、そのまま駆逐された。見事な連携プレーだよ、君たちは相当手強そうだ」


ゆっくりと語るその声の主に安心感を覚える。だがそいつは安心感とは正反対の位置にいた。


「でもね、咲夜くん。ここに来るじゃあ不正解。だって僕はもうここにいるでしょ」


「…おまえ」


つい最近、咲夜と如神根が苦戦した吸血鬼。いわば、最も倒すべきラスボスだ。そいつにとうとう小屋の場所まで知られてしまった。


「いやあ〜、やっぱりさすがの能力だね。囮を向かわせてよかったよ」


平然という吸血鬼に咲夜の表情が強ばる。


「ああ、安心して。今日は殺る気ないから。だって何の準備もしていないんじゃ、1秒で終わるよ?それに君たち2人しかいないし」


ならば何故奴はこの小屋に来たのだろうか。


「どうせ君たちと僕が戦ってもすぐに終わる。でもそれじゃつまらない。だから君たちに忠告をしに来たんだ」


「忠告だと」


「そう。僕の弱点についてだ。僕たち吸血鬼はいくら傷をつけられようがすぐに修復できる。けれどただ1ヶ所、修復できない部分があるんだ。それが”心臓”。もちろん物理的な攻撃じゃ修復できるし、殺れるとすれば咲夜くんの呪術くらいかな」


事細かに説明する吸血鬼。これが本当の情報なのか、はたまた吸血鬼が仕掛けた罠なのか。


「なぜそこまで晒すんだ」


「ははっ。だから言ったでしょ。僕は君たちとの戦いを楽しみたいんだよ。まあせいぜい対策でもしておきなよ」


一方的に話した上、一瞬にして去ってしまう吸血鬼。その光景に咲夜は言葉も出なかった。代わりに莉鈴が口を開く。


「ひとまずこの件は全員に知らせた方がいいわね」


「ああ。明日の朝、メンバーを招集する」


雲から顔を出した月が、災いを予言しているように見えた。とにかく今日は色々とあった。身体も疲れを訴えている。


「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。お前はどうすんだ?」


「私も帰るわ。小屋にとどまる訳にはいかないから」


「そうか…って、もうこんな時間だぞ?外も真っ暗じゃねえか」


見れば、時計の短針は10を指していた。さすがに女子である莉鈴がこんな時間に1人で出歩くのは色々と危険な気がする。すると、莉鈴は咲夜を『じとーっ』と睨み、


「家まで送ると言って私と2人きりになるつもり?煩悩まみれね」


「そんなんじゃねえよ。1人で出歩くのは危険だって言ってんの」


「その心配はないわ。私はアナタより強い」


「まだ勝負してないのに決めつけないでくれ…」


「事実よ、ただの」


そんな口論がいくらか続き、気付けば2人は小屋の外に来ていた。


「はあ。何が起こっても俺は知らないからな」


「人の心配より自分の心配でもしたら?」


「…やっぱ腹立つ」


結局、それぞれで帰ることになった。家が反対側にあるのか、互いに背中を向ける。


「……じゃあな」


その言葉で、この日の会話は終了した。




MEZAME12



咲夜と莉鈴が小屋で吸血鬼と出会った同時刻。



如神根とマクガルドは公園のベンチで座り込んでいた。


「なぁあんたどうしてあんなこと言っちまったんだ?」


如神根はうつむいたままである。


「言いたくねぇってわけか…」


マクガルドはやれやれと頭を垂れる。


「じゃあ一つ話をしてやろう」


「え…?」


如神根が少し興味を持ち始める。


「自論なんだがな、物事を断片的にじゃなく全体像を見れる奴が大人だと俺は思う」


「それってどういうことですか?」


「えっとだな…ちょっと嫌なことがあっただけで今まで幸せだと思ってた日常が不幸の連なりみたいに感じて落ち込む人間がいるだろう?」


「たまにいますよね」


「つまりそういつ奴のことさ。人生という全体像の中の些細な出来事を断片的にしかとらえられねぇ。つまりガキってことさ。もっと視野を広げれば幸せなんていくらでもあっただろ」


つまりこの人は何が言いたいのだろう。話を聞いただけでキレた私を攻めてるのだろうか?


でも、そういえば奴もそんなことを…


「それに似たようなことを吸血鬼も言ってました。」


「奴がか?」


「はい。でも内容は全く逆のことで、一つの不幸も許さない感じでした。」


「それこそガキの代表ってわけだな。」


「そうかもしれませんね…私もかなり子供だったかも」


「お前さんくらいの年齢であれだけきっぱり物事言えりゃ立派なもんさ」


「へ?」


意外な回答に変な声がでてしまう。


「俺がお前さんぐらいだった時は悲惨なものだったぜ!戦争地域で親も殺されてよ。やっと読み書きできるようになって言いてぇこともいっぱいあったが、殴る蹴るの暴力の嵐さ。まぁ銃の扱いには長けてたがな」


マクガルドは鼻で笑う。


「私やっぱり子供だったみたいです…カーナーさんにもいろいろなことがあっただろうに」


「あの人には想像できない様な人生があるからな。だがこれだけは言える、全体像をみてもろくな人間じゃねぇ。でもよぉあの人は俺みたいな奴に希望を与えんだ。」


「希望…」


如神根はその言葉を繰り返す。


「良く考えてみろよ。旦那はいつだってアニューシャを捨てられるんだぜ!あんな能力あれば世界の頂点に立てる。でもそうして無いだろ。それがあの人の人間性ってやつじゃねぇの?」


「はやく謝らないとですね」


「きっとあの人は許してくれるだろうよ。ところでよ、もっかい聞くがなんであんなこと言ったんだ?何かあるんだろ。まぁ言いたくなきゃそれでいいんだが」


「妹に似てたんです。アニューシャが」


「見た目がかい?」


如神根は首を横にふる


「純粋だった頃の妹にそっくりなんです。お姉ちゃんお姉ちゃんって」


「今妹さんは?」


「あ、ちゃんと生きてますよ!」


「じゃあその純粋だったころってのは?」


「ちょっと前に妹と公園で遊んでたら同性愛者に誘拐されちゃって、まぁすぐ近くのトイレで見つかったから良かったんですけど、それからすっかりぐれちゃって。」


「こりゃまたすげぇ話だな」


「それまでは私にべったりだったんですけど、今では他の女の子とばかり遊ぶんです!お姉ちゃんとは絶対寝ないって言うし…」


「おいおいそれって事件関係なく歳のせいじゃないか?」


しかしそんなマクガルドの言葉はこのシスコン野郎の耳には届かず


「でもやっぱり最近はそんなところがかわいいって言うか~あ!でも私同性愛者ではないですよ!」


「そんなに妹大好きでもかい?」


「そんな妹の事件があってからちょっと嫌悪感を抱くようになっちゃて…あの事件で変わったのは妹じゃなくて私の方だったのかな?」


「そうかもな」


二人はお互いの顔を横目で見ながらくすっと笑った。


「明日は学校休みなんだろ?」


「はい!休日ですし私は部活にも入っていないので」


「じゃあ今日の自己紹介の続きやらねぇとな」


「そうですね。お二人の能力気になります!特に莉鈴ちゃん。なんであんなに自信あるんだろう?」


「あの子は器を入れ替える能力だ…oh my god!つい口が滑っちまったぜ」


「そこまで言われたら気になるじゃないですか!でも何で知ってるんです」


「俺は全員の話は軽く聞かされてんだわ」


莉鈴の時と同じだ。


「で、器を入れ替えるというと?」


「まぁ人格を入れ替えるってことだな。能力までは知らねぇが」


「なるほど。だからあんな小屋でも戦おうとしてたんだ…咲夜君が戦闘態勢になっら人格を入れ替えてそれで終わり」


「まぁそういうことなんじゃねぇの?今日ももう遅いしそろそろ家に帰った方がいいんじゃねぇか?」


「マクガルドさんの能力は教えてくれないんですか?」


「もう口を滑らせるわけにはいかねぇ!明日のお楽しみだ」


そう言うとマクガルドは立上がり歩きだす。


「あの!どちらに帰るんですか」


「ホテルをとってあんだわ。お?ナニか??俺は女もいけるくちだぜ」


「行きません!」


きっぱりと断る。


マクガルドは苦笑しながらも小さく手を振り去って行く。


如神根も小さく振り返す。


おもしろい方だな。


元気のでた如神根も家へ向かって歩きだした。


「明日しっかり謝らなくちゃ!あと私も力になれるように頑張らないと!!」



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