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MEZAME  作者: 夜風
5/9

MEZAME 9&10

MEZAME 9



翌日。


桜川咲夜は先に約束の場所に来ていた。


数分待っていると、向こうから性全如神根がやってきた。


「ごめんごめん、待ったよね?」


「いや、大して待ってないよ」


「じゃあ、早速…」


「ああ。小屋へ向かうか」


「ちょっとまてーい!」


不意に聞こえた声に驚く二人。だがこの場には咲夜と如神根しかいない。すると咲夜が口を開く。


「この声…もしかして、カーナーのじいさん!?」


なんと声の主はカーナーだったのだ。その事実に如神根も驚愕する。


「えええ!?でもここには私たちしか…」


「そんなのテレパシー使ってるからに決まっておる」


今、とんでもないことを暴露された気がした。


「…え」


「確かにあんた、周囲の声が聞こえるって能力あるけどさ…」


自分自身がテレパシーで会話できるなど思うまい。


「それよりお前さんら、小屋に行くつもりなのか?」


ごく当然のことを聞いてくるカーナー。


「ああ、そうだけど」


「そうだけどじゃないだろう。今日は平日だぞ」


「あ…」


そう。咲夜も如神根も高校生。本来なら学校に行くべき日だ。そしてカーナーは言う。


「ここは俺たちに任せてお前さんたちは学業に専念しろ」


「でも…」


如神根が躊躇う。


「安心しな。ここには様々な能力者たちが集うからな」


「それはつまり…俺たち以外の、メンバーってことか?」


「その通り。どれもかなりの凄腕だ」


凄腕。恐らく咲夜の何倍も能力を使いこなしているのだろう。


どんな能力を持っているのか気になって仕方がない咲夜であった。




終業後、何の部にも所属していない咲夜と如神根は一直線に小屋へと向かう。だがそこにはカーナー、そしてアニューシャの姿はなかった。


「あれ…?2人は…」


咲夜が訝しげな目を向けると代わりに1人の少女が立っていた。


雪のように白く、けれど少し青みがかった長髪に凛とした表情。周りのものをすべて惹きつけるような風貌はまさに大和撫子と呼ぶに相応しいものだった。


「誰…?」


彼女は咲夜と如神根に問うた。


「あ、えーと、俺は桜川咲夜。ここに用があってきたんだけど…」


「あっ、性全如神根ですっ。私もここに用があって…」


「…そう。あなたたちもなのね」


あなたたちも、と彼女は言った。如神根は確認の意を込めて逆に問うた。


「えっ、じゃあもしかしてアナタも能力を…」


「ええ。一応部隊に所属しているわ」


「で、何の能力なんだ?」


気になって咲夜が訊いてみる。すると彼女は軽蔑のような眼差しを送り、


「別にあなたたちに教える義理はないわ。訊けば何でもわかると思った?脳みそパラダイス状態ね」


「いやなんで俺めっちゃ罵倒されてるの…しかも脳みそパラダイス状態って何?」


「『てめえの頭はハッピーセットかよ』みたいな?」


「いや余計わからん…」


少女と如神根の2人にツッコんで疲れを覚える咲夜であった。


「それよりっ!アナタの名前を教えてくださいっ」


一番気になることを如神根が訊いた。


「…人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものよ」


「いやさっき俺たち名乗ってたよね。話聞いてた?」


「ふふっ、冗談よ」


彼女はクスリと笑う。普通なら一瞬で惚れてしまうような上品な笑顔だ。


「私は風江良莉鈴。聖モホズエラ学園の2年よ」


「モホズエラ…⁉︎」


聖モホズエラ学園といえば、芸百合にある共学の高校だ。規模もかなり大きく、いわゆる”セレブ”な生徒が多い。街の両端にある穂盛江夢と湯利江巣とは違って芸百合の中心部にあるのがモホズエラだ。


「私は以前、年配の人から声をかけられたの。しかもいきなり『チームに入れ』なんて言われて…」


自分のときと同じだ、と如神根は思う。


「私は二つ返事で了承したわ。けれどその後、怪しげな儀式に連れられて…」


儀式―おそらく能力を目覚めさせる行為のことだ。


どんな能力かは教えてくれなかったが、莉鈴はかなり使いこなしているだろう。雰囲気で大体察することができるのだ。


カーナー曰く、現時点での戦闘部隊構成は6人いる。カーナー、アニューシャ、咲夜、如神根。そして莉鈴も含めると…


「あと1人、いるのか」


「そうみたいね」


「俺より何倍も強い奴なんだろうな…俺ももっと強くならねえと」


「あら、なら私で試してみる?」


「……は」


唐突に宣言する莉鈴。



「咲夜くん、私と勝負しない?」


MEZAME 10



「あら、なら私で試してみる?」



それは莉鈴から咲夜へ向けられた誘いの言葉だった。


「何言ってんだお前。仲間同士で戦ってどうする!それにいつアイツが襲って来るかもわからないだろう!」


「それもそうね。でもあなた今日アイツに会ってるんでしょ?」


そう。咲夜はアイツ、つまり吸血鬼に会っているのだ。それはただ彼が学校に行っただけの話である。アイツは教育実習生なのだから、いて当然なのである。


「でもあなたはここに無事来れているわよね?奴は人前で正体をばらさないつもりね…でもあなた一人を殺すタイミングなんていくらでもあったはずよ。でもそうしなかったのは奴は日が昇っている時間は力を出せないからだと私は思うわ。」


「それなら納得はいくが…」


なんだか見透かされているようで言い返したい咲夜だったが、うまい言葉が出てこない。


「でも何で咲夜君の周りのこと知ってるんですか?」


如神根が咲夜の代わりに返答する


「そんなのあのカーナーって方から話を聞いたに決まってるじゃない」


如神根たちは他のメンバーのこと話されて無かったが莉鈴には話があったらしい。


「で、今吸血鬼が襲ってこないと思うし練習する時間は今しかないと思うのだけれどどうする咲夜君」



彼女のいうことはなんだか正しい気がする。だが…



「どうするもこうするも無いだろ!こんなボロ小屋で練習なんかしたら壊れるだろ!」



返事をしたのはまた咲夜ではなく、今度はカーナーだった



「お前ら俺が買い出しに行ってる間に何しようとしてるんだ!」


家主に怒られてしまった。


「その様子だと自己紹介は済んだようだな。まぁちゃんとした話はもう一人が来てからだ。」


「おいじーさん。もう一人って一体どんな奴なんだ?」


「このチームの中では最強だな。まぁ時期にわかる。おい!アニューシャ!早く道具をキッチンに運べ」


「わかったよ!おじさん!」


アニューシャがいつもののんきな笑顔を浮かべながらキッチンへと走っていく。



それから数分後。咲夜達はリビングであろう場所の椅子に腰かけもう一人の到着を待った。


みんな無言のまま重たい空気が流れる。たぶん仲良くなさそうにしている咲夜と莉鈴のせいだろう。


カーナーはいびきをかいて寝ていたが。


そんな空気に耐えられなくなった如神根は、嬉しそうにジェリービーンズを食べるアニューシャに話しかけた。


「それさっき買ってもらったの?」


「自分で買ったんだ!今月のおこずかいで」


いかにもケチそうなカーナーがおこずかいをあげているとは驚きだった。


「月のおこずかいってどれぐらいもらってるの?」


「200円だよ!」


少なッ!やはりカーナーはカーナーだったようだ。


「じゃあそのお菓子買ったらお金なくなっちゃうんじゃ…」


「そうだよ!でも久しぶりに買い物に行ったからいいんだ~」


その時如神根はアニューシャを可哀想だと思った。心から。


確かにこんなボロ小屋に住んでいる子が贅沢できるわけがない。


しかし、もう何年も着ているような半袖のTシャツを無理やり柄の違う袖を縫い付けて長袖にしている服ぐらいはどうにかすべきだ。


「その服だいぶ傷んでるね。お姉ちゃんのおさがりで良ければ服あげようか?」


「ほんとっ!ありがとう!でも、この服でいいんだ」


「どうして?血のシミまで付いてるよ?」


薄汚れたワッペンで隠されてはいるが、確実にそれは血のシミだった


「いいんだ。これはおじさんが私のために作ってくれた服なの!だからいくら汚れても大切にしたいんだ」


「そうなんだ…じゃあその帽子も?」


「そうだよ!これはおじさんと初めて会った時にもらったの!ここにハートにばってんの印があるでしょ?これ気に入ったから服にも真似してつけたんだ」


そういうとアニューシャは服に雑に縫い付けられたお手製のワッペンを指さした


「自分で付けたなんてすごいね!」


如神根がもうこの会話やめた!めっちゃ重い、てかカーナーとアニューシャの関係って…この前ちらっと拾ったって言ってたような…


そんな思考を働かせていた如神根だがある一人の男の声により遮られた。



「よう。久しぶりだなフィドルの旦那」



その場にいた全員が玄関んの方を向いた。寝ていたカーナーも目を覚まして


「お前も久しぶりだなマクガフィン。だが今の俺の名はカーナーだ」


「そうかい。じゃあ俺も今はマクガルドなんでな」


マクガルドと名乗った背が高く体格のよい中年男性に全員の視線が行く。服の上からでもわかる筋肉はさながらボディビルダーのようだ。右目には何か機械のようね物が付いていた。


「おっさん一体あんたは誰なんだ?」


咲夜が問いかける。


「俺は雇われの兵士だ。だったが正しいか。まぁ今は能力者だ!この前そこの幼女ちゃんと落ち合って能力に目覚めさせてもらった。昔このカーナーの旦那にお世話になってたんだぜ」


「カーナーのじいさんって一体何者なんだよ…」


三人が思った疑問が咲夜の口からこぼれる


「よく聞いてくれたなぼうず!このじーさんは今じゃこんなんだが昔は伝説とまで言われたんだぜ!十年くらい前までは伝説の詐欺師として世界中のそっちの筋のモンで知らねぇやつはいなかったくらいだ!」


「昔の話はやめろ!」


カーナーが言う


「いいじゃねぇか旦那!あんたの伝説は今でもいろんな名前で伝わってんだぜ!」


「俺は十年前に務所にぶち込まれてから足を洗ったんだ」


「そのせいで闇組織はパニックだったぜ!出所したらまたビックなことしてくれると思ってたのによぉ~聞けば幼女とホームレス生活してるって言うじゃねぇか!あの大金はどうしちまったんだい?」


「金なら全部使った。今は残った金でなんとかきりもりしておる!もう昔の話はヤメだッ!」


余程話されたくないのかカーナーはマクガルドをにらみつける。


「分かった分かった。そうキレんなって!だがこれから一緒にまた活動するんだ!その幼女のことはきちんと説明してくれ!あんたの隠し子か?」


「確かにこの際お互いのこと知っておいた方が良いわね」


今まで黙っていた莉鈴が入ってきた。


「そうだ、自己紹介もかねてだ!じゃあ順番に旦那と幼女ちゃんからで」


いつのまにかマクガルドがその場を仕切っていた


「おじさん隠すことないよ…」


アニューシャがカーナーに訴える


「あぁー゛わかったよ!話せばいいんだろ!」


そこからカーナーとアニューシャの出会いの話が始まった。



五年前の出来事だ。刑務所から釈放されたカーナーは一文無しだった。


なぜなら半分以上の財産と引き換えに死刑をま逃れ、刑期五年までに縮めたからである。


ふらふらと夜の街をさまよっているとゴミ捨て場から異様な笑い声を聞いた。


気になり確かめてみるとそこには幼い少女がゴミに紛れて遊んでいた。


その一瞬で少女を売ることまで考えたカーナーは声をかける


「そんなところで何してるんだ?」


「両親を探してるの」


明るく少女は答える。


「両親?お前の両親はゴミの中にいるのか?」


「それわがわからないんだ。どんな顔かも思い出せないの…そうだ!手伝ってくれたらおじさんに能力あげちゃうよ」


「能力だ?一体何の話をしているのやら。くだらん子供の遊びに付き合ってる時間はないんだ」


正直この子供は気味が悪い。その場から立ち去ろうとすると


「もう!信じてないんだね!」


「あぁ信じてないさ!」


少女はふてくされてカーナーに近づいてきた


途端にカーナーの視界はぼやけ、その場に倒れてしまった。抵抗する間もなく。



「おぉ…お前今何をした…」


すぐに目が覚める。


「おじさんに能力を目覚めさせたの」


「ばかけたこと言いおって!」


カーナーは手を振り上げる。子供だろうと容赦しない


しかしその瞬間聞こえるはずの無い遠くの声がハッキリ聞こえた。


『あのお年寄り子供を殴ろうとしてるわよ!警察呼んだ方が良いかしら』



「なんだ今のは…これが能力?」


「ね!すごいでしょ!だからさ私のこと手伝ってよ」


「すごいなっ!もう一回やってくれ!そうしたら手伝ってやる」


「ほんとに?分かった!」


再度カーナーは気を失う。


「今度は…」


「それは使ってみないとわからないよ」


辺りを見回し何ができるか試してみる。


その間も周りの小声はすべて耳に入ってた。



「余計なことしおって!」



通報したという声が聞こえイライラし吐き捨てる。


すると


『今なんか聞こえた!余計なことするなって…』


「これはどういうことだ?こっちの声までいったぞ!」


「たぶんテレパシーじゃないかな?」


「なるほどな!これはすごいぞ!もう二度と捕まることは無い!」


「おじさんそれで探してくれるんでしょ?」


「あぁそうだったな。とりあえずここをいったん離れよう。サツが来る」



カーナーと少女はその場からある程度離れ高架橋の下に小さな小屋を作った。


雨風をしのぐために、親を探すための拠点として。



それから数か月。


小屋はかろうじて家と呼べるサイズまで大きくなった。


少女は名前がわからないというのでアニューシャとカーナーが名付けた。


カーナーは自分に発言した能力を使いアニューシャの父親らしき人間が書いた一冊の日記を手に入れた。


そこには衝撃の真実が記されていた。



『娘が謎の能力に目覚めた。何かおかしなことを言いながらずっとどこかを眺めている。不気味だ』



『今朝謎の怪物に襲われた。娘を狙っていた感じだ。私と妻は必死に逃げた。そして奴をごまかすために一旦ゴミ捨て場に娘を隠したんだ。それが大きな間違いだった。奴がつけてきていないことを確認した私たちは娘を見つけるためにゴミ捨て場に戻った。しかしそこには娘の姿はなかった。それから数時間私たちは娘を探した。しかし見つかったには私たちだった。奴に見つかったのだ。相当怒っていた。妻は奴に殺された。私は命からがら助かったが、今は後悔しかしていない。だからこれを書き終えたら私も死ぬことにした。今行くよ…』



カーナーはすべてを知った。悩んだがアニューシャにすべてを打ち明けることにした。


少女は泣いた。泣いて泣いて夜を明かした。顔も思い出せない親だが悲しさでいっぱいだった。


そしてアニューシャはカーナーに


「私、敵がとりたいよ…その怪物を倒したい」


そう強く言い張ったのであった。



それからカーナーとアニューシャの怪物退治活動が始まったのであった。


そして数年後に咲夜を見つけることになる。




「これが俺たちのすべてだ。どうだ満足したか?」


カーナーが機嫌悪そうにうめく。


全員が重たい空気の中心の中で感情をうずめかせていた。



ただ一人如神根を除いて



「それってさ…アニューシャが可哀想だよ。だってカーナーさんがいなければアニューシャは親の元に帰れたかもしれないってことでしょ!?しかもこんなにボロボロの家で貧しい思いもすることは無かった!もっと幸せな人生を送れたはずなのに…」


如神根が叫ぶ。



「おい、落ち着けよ如神根!じーさんだって悪気があったわけじゃ…」


咲夜がなだめる。



「私今幸せだよっおじさんに助けてもらって良かったと思ってるよ!」


アニューシャが如神根に訴える。



「お前に何がわかる!」


カーナーがキレる。



「こんなんでやっていけるのかしら」


莉鈴があきれる。



「全くだ…」


マクガルドがこぼす。



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