MEZAME 5&6
MEZAME5
「…あの、もう一回言ってもらえる」
驚きのあまり、桜川咲夜は訊き返す。
「えーっと…性全如神根です」
咲夜の目の前にいる少女―如神根は答える。
すると咲夜は安堵のような表情を浮かべて、
「そうか…君が手帳の持ち主だったのか」
「えっ⁉︎てことはもしかしてあなたが…」
私の手帳を届けてくれた人、と言う前にその言葉は遮られてしまう。
「とにかくここは早く逃げた方がいい。じゃないと―」
「僕が来ちゃうからね」
後ろに気配を感じた。とてつもなく、険悪な気配。
さっきの吸血鬼だ。しかも不敵な笑みを浮かべている。
「ちっ。もう追いついてきたのかよ…!」
「あはは。目的を達成するまでは死ねないからね」
「目的だと」
「もちろん如神根くんと咲夜くん、君たち2人のことさ」
さっきとはまるで雰囲気が違う。あの道具では太刀打ちできない気がする。けれど、ここで諦めたら奴の思う壺だ。咲夜は目を閉じ、そして冷淡な声で吸血鬼に告げる。
「…おい吸血鬼。お前は教育実習生だから俺が穂盛江夢に来た理由なんて知らないだろ?だが知らないままでいい。なぜなら―」
言いながら咲夜はどこから取り出したのか日本刀を右手に持つ。それは禍々しい色をしていた。その刀を吸血鬼に向けて放つ。
「ここでお前を倒すからだっ‼︎」
そのまま刀は吸血鬼を両断する…と思いきや片手で受け止められていた。
「なっ⁉︎」
「ふふ。そんなちっぽけな刀に呪装をかけたところで僕には通じないよ」
だが咲夜はニヤリと笑い、
「アホか。呪装かけたのは刀じゃなくて…俺・た・ち・だよ」
「!」
吸血鬼が何言いかけたところで周りに光が発生し、そのまま咲夜、そして如神根は消えてしまった。
「…逃げられたか。まあ次があるけどね」
吸血鬼は余裕の表情を浮かべて光があった方へと視線を向けた。
状況を飲み込めないまま如神根は咲夜に連れてこられたのは、地元・芸百合の中心部である芸百合タワーだ。
「あのっ!さっきのは一体…」
色々訊きたいことはあるが、まずはさっきの吸血鬼についてだ。咲夜は暗い表情で、
「あれは吸血鬼。この前、突然芸百合に現れて人々を襲ってるバケモノだ」
吸血鬼。まさか現実に存在していたなんて。如神根が困惑する中、咲夜は続ける。
「俺はその吸血鬼に対抗すべく穂盛江夢学園に入れられたんだ。そしてあの吸血鬼にはこれが効果的なんだ」
「これは…札、ですか」
咲夜が見せたものは、様々な印の書かれた札だ。
「そう。奴らにはニンニクや十字架が効かない種族もいる。そこで呪装…つまりこの札に呪詛を入れることで吸血鬼に対抗できるようになったんだ」
いまいち理解できないが、つまりは咲夜が吸血鬼に対応できる人間の1人ということだろう。
「さっきのアイツは俺たちに狙いをつけてきた。さらに力も他とは違う。君も1人でいるときは気をつけた方がいい。家までは俺が送るよ」
「へっ?あ、はい…」
言われるがまま如神根は咲夜と2人きりになってしまった。
家に着くと、咲夜も帰ろうとする。
「じゃあ、これで」
「あのっ、待ってください!」
如神根が引き止めた。
「えっと、手帳!ありがとうございましたっ!」
急に頭を下げる如神根に困惑したのか、
「えっ、いや別に俺は当然のことをしただけで…」
咲夜も慌てて話す。
「いえ!何かお礼をさせてください…!さっき助けてもらいましたし」
真剣な眼差しの如神根に対して咲夜はしばらく考える。
「…じゃあ、今から俺が言うことをやってくれないかな」
MEZAME6
強く輝く光に覆われた如神根は思わず目を瞑ってしまった。
ゆっくりと目を開くとそこは、ボロ小屋だった。隣には吸血鬼から自分を救ってくれた少年―咲夜が立っていた。
「いったい何がおこったんです!?」
「呪装をかけたのさ」
「呪装?」
「あぁ。俺の能力。物に呪力を宿すの。まぁ今回は人だったけど。使い方はいろいろだな」
現実とは思えないものを見てしまった。今日はずっとそんな感じだ。
「というかここはどこ?」
「おい!帰ったのか?」
聞こえたのは咲夜の声ではなくガラついた年寄りの声だった。
「戻ったぞ」
咲夜が返答する。如神根の質問はかき消されたらしい。
部屋の奥から声の主。年老いた男が出てきた。
「それで。やつはどうだった?」
「逃げ切るのがやっとって感じだった。弱点も分からなかったしな」
「そうか!それは良かった」
何が良かったのだろうか。というよりこの二人は何を話している?
「呪装を使った。流石に二人の移動は体にくるな。少し休ませてもらうぞ」
「ゆっくり休むといい!」
そういうと咲夜は奥の方へ行ってしまった。
如神根はできるだけ咲夜の近くにいたかった。というよりこの謎の老人といるのは気味が悪かった。
「よぉあんた!」
話しかけられた
「あんたは如神根だろ!はぁっ!!」
満足そうに笑っている
「どうして私の名前を?」
「それが俺の能力だからさ」
「能力?」
「咲夜の能力も見ただろ?あんな感じだ。俺の能力はこの芸百合で吐かれた言葉が全部耳に届くんだ」
何を言ってるんだこの老人は。今までの私だったらそう思っただろう。だが、吸血鬼や呪装を見た後では信じるしかない。
「ねぇ誰としゃべってるの?」
また新しい人間だ。今度は不思議なマークの付いた帽子やだぼだぼの服をきた少女だ。
「あ!お客さん!!さぁ入って入って~」
如神根は引っ張られて奥の方へ行く。
そこにはゴミ捨て場から集められた様な家具がたくさん置いてあった。
奥の方のソファには咲夜が横になっていた。
「あの~ここはいったいどこなんです?」
質問をぶつけてみる。
「ここはね~秘密基地だよ」
少女が嬉しそうに答える
「俺が詳しく話をしてやろう」
老人が答える。
「まずはその前に自己紹介だな。俺の名前はカーナー。もちろん偽名だ!有名な詐欺師をやってる。で、こっちのちっこいのがアニューシャだ!俺が拾った」
「アニューシャだよ!!」
カーナーはアニューシャの頭をくしゃっとする。
「それで俺たちはなこの町の怪物たちと戦っている」
「怪物??」
「そうだ。まぁ俺たちも怪物に会うのは初めてなんだがな。」
わけがわからない。でも、吸血鬼と戦う人たちだってことは分かった。
「奴を見つけたきっかけは、今日も俺はこの町の会話を盗み聞きしていた。そうしたらそこの咲夜って子が興味深いことを話しててな。夢で吸血鬼を見てそいつが現実にも表れたとか」
そういえばさっきもそんなこと言っていた気がする。
「それで学校が終わってからすぐ誘拐した。話を聞きたかったからな」
「誘拐!?」
「そう誘拐だ。それで戦闘要員になるんじゃないかと思ってアニューシャの能力で咲夜に能力を目覚めさせた」
「私の能力は能力を目覚めさせる能力だよ。おじさんのも私が目覚めさせたの」
「副作用でつじつまが合わないことを言ったり、おかしな言動をとったりする様になってしまったがな。じきに治るだろ。奴はメンタルに問題があったんだな」
「まぁあんたのおかげで吸血鬼の存在が証明できたんだ。感謝する」
カーナーは一人でどんどん話続ける。如神根は半分以上理解できなかった。
「とりあえず俺たちは咲夜を含めて5人で活動している。全員能力者だ。俺が集めた。」
そう言い終わるとカーナーは不敵な笑みを浮かべて
「君も加わって欲しい」
そう、言った。