MEZAME 3&4
3話 叶え!男だらけの夢――
桜並木の道に、少女が3人、いた。
中央の少女は堂々と聳そびえ立つ桜の木を眺めて歌いだす。
「だって〜可能性感じたんだ
そうだ〜ススメ〜」
数時間前のことである。
都市郊外にあるそこそこ繁栄した街・芸げい百合ゆりの一端にある穂ほ盛も江え夢む学園では相変わらず同性愛教育に余念がない。そして相変わらず桜さくら川がわ咲さく夜やは授業をサボる予定でいた。
始業まで30分ほどある。電車を降り、学校へ徒歩で向かおうとしていた。
―あと10分もあれば着くよな…
同性愛の授業には興味がないが、高校生である咲夜は授業を受けなければ卒業できない。とりあえず始業までには登校する必要がある。
すると、咲夜は足元にあるモノを見つける。
「これは……生徒手帳か…?」
表には”湯ゆ利り江え巣す学園”と書かれている。
湯利江巣といえば芸百合の、しかし穂盛江夢の反対側に位置する高校―確か女子校だったはずだ。
そして裏には…
「せい…ぜんじょ⁇」
”性全如神根”と書かれていた。持ち主の名前だろうか。何やら難しい字だ。
「とにかく持っていった方がいいよな…」
ここから湯利江巣までは電車でも片道20分。これを届けにいけば普通に遅刻するだろう。だが…
「今日の1限、ホモプかよ…」
要するに、咲夜が1度も参加していない同性愛教育の時間だ。だとすれば、咲夜にとっては1限目くらいサボっても問題はない。それに持ち主が困るだろうし。咲夜は駅へと引き返すことにした。
駅に向かうため、咲夜は商店街、というよりは通りを進む。この通りにはレストラン、家電量販店などが立ち並ぶ。目の前にあるゲームセンターも平日から高校生が通うほど人気―
「いやちょっと待て」
今日はただの平日。全ての学校で授業があるはずだ。サボりだろうか。まさか自分と同じサボりを今見つけるとは思っていなかった咲夜だが、あることに気付く。
―あれは……湯利江巣の制服か…?
ちょうどいい。咲夜もゲームセンターに入り湯利江巣の制服を着た少女2人の元へと歩く。
「あー、ちょっといいかな」
2つの太鼓が付属したゲーム機で遊び終わったタイミングで咲夜は2人に声をかける。
「!…なんですか?」
いきなり声をかけられたことに驚いたものの、冷静に答える。すると咲夜も
「君たち湯利江巣の子だよね。この子知ってる?」
生徒手帳の裏側、”性全如神根”という名前と顔写真を見せる。
「あ、処女っち…如じょ神し根ねちゃんならさっきまで一緒にいたんですけど…」
「いきなりどこか行っちゃって…」
2人は答える。咲夜はさらに訊く。
「一緒にいたのはどこまで?」
「あの駅です。湯利江巣駅に向かう途中で穂盛江夢の方に行ったんです」
「穂盛江夢…⁉︎逆方向じゃないか」
「なんか、男の人と一緒に…。たぶん穂盛江夢の先生だと思います」
「…そうか。まあいいや。要はコレを彼女に届けてくれないかな」
言って咲夜は、2人に生徒手帳を渡す。
「これは…。さっき走ってたから落としたんだね。わかりました、届けておきます」
「ああ、頼むよ…というか何で君たちこんなところに?」
ギクッ!と音がするほど2人は驚く。
「え、ええと、これは、その、たまたま学校に近いってだけで!」
「そうそう!で、でも早く学校に行かないとですね!さようならっ」
「ちょっ…」
咲夜が止める前に2人は走り去ってしまった。
何はともあれ湯利江巣に行かずとも手帳を届けられた。だがもう1限が始まる時刻だ。今日もサボるべく歩いて学校に向かうことにした。
「…さて、今日も嫌な予感しかしないな」
3話② ススメ→百合道
「はぁ〜サボる予定だったけど、これ届けないとなー」
残念そうに呟く少女は、近こん藤どう夢む否いな。すると夢否の隣にいる少女―中なか田だ梓あずさが呆れて、
「だから言ったでしょ、サボりはよくないって…」
「でも梓っちだってノリノリだったじゃん!」
「そうだけど…」
などと話している間に、湯利江巣学園へと到着した。なんと正門には…
「処女っち⁉︎」
生徒手帳の持ち主・性しょう全ぜん如神根が立っていた。
「あれ、2人とも!学校サボらなかったの?」
「いやいや、これ届けるついでにサボりやめようかなって…」
「あ!私の生徒手帳!どこかに落ちてた?」
「うん。あの制服は…確か穂盛江夢の人が拾ってたよ」
「そっかあ。ありがとね」
「ところで処女っち何してるの?」
ずっと立っている如神根に疑問を抱いたのか、夢否は尋ねる。
「あはは、遅刻した罰でずっと正門に立ってろって言われちゃって…」
「ええ⁉︎じゃあ私たちもっと重い罰になるじゃん!」
このやりとりにも呆れたのか、梓は話す。
「私も遅刻したし、とりあえずみんなで謝りに行こ?」
「うん、そうだね」
ここは湯利江巣学園の生徒会室。中にいるのは生徒会長、副会長、そして如神根たち3人の計5人だ。
3人は必死で謝る。
「ごめんなさい!許してください!」
「認められないわ」
「えぇ…そこをなんとか!」
「だから認められないわあ」
「お願いします!」
「逆に何故許してもらえると思ったのかしら」
「だって!…だって、可能性を感じたからです!少しでも許してもらえる可能性が!」
「だったら」
と、会長は如神根の言葉を遮り、
「なおさら認められないわね。反省して正門に1時間立ってからレポート4枚書いてきなさい」
正門に向かう3人。やはり許してもらえなかった。
「まあ知ってたけどね」
と、梓。
「会長厳しいよぉ」
これは夢否。
そして、如神根は―
「うぅ…どうすればいいのぉ〜」
すると如神根の脳内に電撃が走る。
どこから流れているのか、鮮やかな音色が聞こえてくる。
「だって〜可能性感じたんだ
そうだ〜ススメ〜♪」
「いや、なにお前急に歌いだしてんの気持ち悪いよ」
夢否が冷ややかな眼差しを向けた瞬間、1限終了の鐘が鳴った。
4話
穂盛江夢学園の前に一人の少女がいた。
彼女の名前は性全如神根。湯利江巣学園の生徒である。
何故同性愛教育に力を入れる男子校に少女がいるのであろうか。
それは…
「はぁ~来ちゃったけどあの人には会えないよね…」
そう、今朝駅であった男に会いに来たのである。
それと
「生徒手帳拾った人にお礼言いたいけどどんな人かわかんないし」
自分の生徒手帳を拾ってくれたと言うここの生徒にも会いに来たのだ。
しかし、どちらにも会うことはでき無い。
時間の無駄になってしまった。
そんなことは来る前からわかっていた如神根だが、どうしてもあきらめられなかったのだ。
「もう一度あの人に会ってみたい…」
少女のつぶやきは誰にも届かず吐き捨てられた。
諦めて駅へと向かう。町の外れに位置している駅だがそこそこにぎわっていた。
なにやら怪しいものを売ってる露店やブランド物を取り扱っている店など、大通りは様々な店で埋め尽くされていた。
しかし少し路地に入ると一変し人気の無い雰囲気だ。
「久しぶりにこっちの方きたな~せっかくだからいろいろ見て行こう!」
まずは目先のお店に入る。
目に入るのはとても高価な服ばかり。とても女子高生の学校帰りで買える値段では無い。
しかし気になったものからどんどん手に取り見る。
それだけで良いのだ。それだけで楽しかった。
「夢否ちゃんと梓ちゃんも連れてくればよかった」
こんな予定では無かったので、友達は誘わなかった。
そこから数時間いろんなお店を見て回った。
日は今にも沈みそうだ。穂盛江夢学園の生徒もちらほら帰り始めていた。
「私もそろそろ帰るか」
雑貨屋をでて駅へと向かおうとしたその時。
「あれ?君は今朝の」
後ろから声がかかった。
それは、知ったばかりだが安心感を覚える澄んだ声。
期待に胸を膨らませ如神根振り向く。
そこには彼がいたのだ。今朝会った人が。
望んでいた人に会えた。その時太陽が完全に姿を消した。
「奇遇だね。でもどうして湯利江巣の子がここに?」
どうしよう~あなたに会いに来ましたなんていえないよ~
あ、そうだ生徒手帳のこと言おう
「穂盛江夢学園の人に生徒手帳拾って学校に届けてもらったんです。駅で落としちゃってたみたで。それでお礼を言おうかと思ったんですけど、会ってもいないので見つけられなくて」
言い訳と共に愛想笑いを浮かべる。
「お礼なんて素晴らしいことをするね。感心だよ。でも相手がわからないのに探すなんて」
冷たい表情で男は微笑んでくる。
「で、ですよねー」
場を繕うためにとぼけてみせる。嘲笑されてしまった…
「でも、君の行動は素晴らしいよ。僕にできることはあるかい?」
「あ、いいんですか!?でも何を頼めばいいのか」
「そうだね~。生徒手帳を拾った一人の生徒を探すには…やはり聞いて回るしか」
なんて親切な方なんだろう。でも、正直会わなくてもいい人を探すのを手伝わせるのは
「大丈夫です。そんなことしたら大変でしょうし。」
「そうかい?せっかくここまで来たのに」
あぁ~ここで断っても感じ悪いのかな~
「では、偶然見つけたらよろしく言っておいてもらえますか?」
「わかったよ。」
彼は優しく微笑む。
「では、私からも些細なお願いをさせていただこうかな」
些細なお願い?何だろう?でも、この人の頼みならなんでも
「はいっ!どんなことでも」
「じゃあ内容を話す前に場所を移そうか」
「な、なんでですか?」
急な話に動揺する
「僕はこれでも同性愛教育をする学校の教育実習生なんでね。異性としゃべっていて変な噂でもたったら困るんだ」
確かにそうだ。周りにもたくさんの穂盛江夢学園生がいる。教育実習初日に変な噂がたったら今後たいへんだろう。
でも、やはりこの人も同性愛者。私になんて興味ないんだ…
少し落ち込む如神根だった。
「はい、いいですよ」
言われるがままに付いていった如神根はいつの間にか人気のない路地にいた。
少し怖かったが勇気をだして質問してみる
「あの、どこまで行くんですか?」
「あ、もうそろそろいいかな。人気も無いし。」
「それでお願いって?」
「お願いはここまでくることかな。」
「え?」
「あとは僕が勝手にするから。どうせ頼んでも断るだろうし」
何?何なの??如神根の頭はエラーを繰り返す。
「じゃあ苦しみたくなかったらじっとしててね」
そう言うと彼の今まで張り付いていた彼の笑顔がはがれた。
赤い瞳が如神根を見つめる。
男は異様な雰囲気を出していた。それは如神根には羽の様に見えた。
その時感じた。死の恐怖を。
「い、嫌だ…死にたくない」
怖い。こんなことになるなんて…
如神根は自分の行動を後悔した。しかしもう遅い。
「君は助かりたいだろうけどそれは無理なんだ。僕は完璧な幸せを求めている。完璧な幸せには同情や心配は不要だ。あってはならない。だから僕は君のことをかわいそうだなんて、微塵も思わないのだよ。だから君は助からない。僕の餌になるんだ」
彼はどんどん近づいてくる。
もうダメだ…そう悟った。その時…
「おい、やっぱりお前には何かあると思ってたんだよ」
そこには穂盛江夢学園の生徒が立っていた。
「やぁ君は、えっと…咲夜君だね」
「あぁそうだよ」
「見られたからには仕方ない。君にも僕の夕飯になってもらうよ」
「悪いがお前には死んでもらうぞ」
そういうと咲夜と名乗った生徒は鞄にしまってあったいろいろな物を放り投げだした。
それは一般的に吸血鬼が苦手とするニンニクや十字架などであった
「くわぁ!」
男がひるんだ。
その一瞬で彼は素早く如神根の腕をつかみ走り出した。
すぐに角を曲がり大道理の方に向かう。
「ほう…おもしろいじゃないか。君たちは近いうちにしっかり殺してあげるよ」
男は闇に溶けていった。
如神根は咲夜と大通りにでた。
「はぁ…はぁ…あの、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。あいつは怪しと思ってたんだ。つけてきて正解だった。」
「どうして吸血鬼だって思ったんですか?」
「あ?夢を見たんだ。今朝吸血鬼が出てくる夢を」
「夢ですか?」
「それがあいつとそっくりでまさかと思ってな。でも、いろいろなげたせいではっきりとした弱点がわからなかった。」
「そうですね。」
「あいつはまた戻って来るかもしれない。君はもうこっちの方には来るな。あと吸血鬼対策もしておいた方がいい」
「そうします。ありがとうございました。咲夜さん」
「なんで俺の名前…あぁさっきか。一応君の名前を聞いておこうか」
「性全如神根です。」
「しょうぜん…じょしねだって!?」
咲夜はその名前を思い出した。
to be continued