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魔物たちの勇者撲滅記録  作者: 葛城獅朗
バラ園に残した愛
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種を探しに

少し短いですが、切りがいいので上げてしまいます。

 雪那には後で「依頼人に肩入れするなよ」と怒られたが、私は翌日の放課後、バラの種探しをするために透の教室を訪れた。優美と清加に断って急いで教室を出てきたので、まだ透も教室内にいると思うのだが。そう思って扉からひょいと中をのぞき込む。ちょうどホームルームが終わったところのようで、生徒たちにはざわめきが広がり始めていた。透はどこだろうかとキョロキョロしていると、近くの女の子が気を利かせて誰に用事か聞いてくれる。窓側の一番後ろという好ポジションに座って友人と談笑している透にその女の子が叫んだ。

「たかはしー、呼んでるよー!」

 その声に何人かが振り返って居心地の悪い思いをしたが、おかげで透も私のことに気が付く。驚いた顔をした透は慌てて私のもとまで駆け寄ってきた。

「どうしたの、高木さん」

「うん、今日さ、一緒にバラの種探しに行かないかと思って」

「あ……そうか。いや、でも俺、部活が」

「あ、じゃあ終わるまで待ってるよ」

「うーん………。いや、部活は休むから、今から行こう。休むって伝えてくるから、校門で待っててもらってもいい?」

「オッケー、じゃあまた後で」

 短い会話で約束をし、私は一足先に校門へと向かうため身を翻す。教室内へと引っ込んだ透が「お前は高木さんとどういう関係だ――――――!」と問い詰められる絶叫が聞こえて驚いたが、振り返ってもここからでは状況が分からないので、クエスチョンマークを頭に浮かべながら歩を進めた。

 私は校門の端で壁にもたれて透を待つ。二十分ほどで彼はやって来たが、走ってきたのか息を切らしていた。

「そんな急がなくてもいいのに」

「友達が追ってきたんだ、高木さんに会わせろって。撒いたけど」

「私に? 会ってどうするの」

「ほら、高木さんのこと可愛いって言ってるやつがいるって言ったじゃん」

「ああ」

 じゃあ先ほどの教室の叫び声もその人だったのかなと私は思い至る。ついて来られたら面倒なので「早く行こうか」と声をかけた。

「ここからどれくらいで着く?」

 歩きながら聞くと、徒歩で四十分ほどかかるらしい。ショッピング街も私の家もその先にあるあまり治安のよくない地域も超えた、昔からのお屋敷が建ち並ぶ場所だ。

「お祖父さん、お金持ちなんだね」

「その恩恵は受けてないけどね。俺も一回しか会ったことないし」

「そうなの?」

「親父と仲悪いんだ。親父も良い人間だとは言えないけど、話を聞く限りさらに上をいく偏屈老人だったらしい」

 透はまた自嘲するような声音で言う。彼は家族の話になるといつもそうなのだろうか。血の繋がりだけで仲の良い家族になれるわけではないんだなと考えてしまう。私は洋館の住人たちとは血の繋がりどころか縁もゆかりもない状態から共同生活を送るようになったが、今ではそれなりに仲の良い家族だと思っている。だから確固とした繋がりを持っているのに崩れてしまうのは少しもったいない気がした。

「………それを自分の目で確かめればよかったのに」

「え?」

「ううん。ところでさ、たぶん高橋くんの友達だと思うけど、後ろ付いて来てるよ」

「えっ」

「あ、振り返っちゃダメ」

 透を制して私は耳を澄ますまでもなく聞こえる音を聞いた。三人の人間がギャーギャー言いながら五十メートルほど後ろを歩いている。どうやって撒こうかと辺りを見回し、右の路地に目を付けた。

「高橋くん、あの右の道に入って」

「え、でも方向違うけど」

「大丈夫、後ろを撒くだけだから。あと、何をしても声は出さないでね」

 最後の言葉を聞いてかすかに緊張を滲ませた透はそれでも首肯する。私たちは並んで右に曲がった。

 追跡者の視界から外れた途端、私は透の腰をホールドして上に飛び上がる。悲鳴を上げそうな透を抱えたまま民家の塀の上に登り、そのまま向こう側へするりと忍び込んだ。すぐにバタバタと複数人の足音がやってくる。

「あれ、いないぞ」

「ここ曲がったよな?」

「透め~、高木さん連れてどこ行ったんだよー!」

 透が私を連れてというよりは私が透を連れて身を隠したわけだが、やはり彼らは透の友達で間違いなかったようだ。しばらくその場ですったもんだしていたが、やがて足音が離れていく。

「諦めろよ、付き合ってんなら邪魔しちゃ悪いだろ」

「まだ付き合ってるって決まったわけじゃないだろ! よし、こうなったらスタンプ爆弾かましてやる」

「あはは、やめろってお前」

 直後に息をひそめる透のポケットからピコピコピコピコ連続の通知音が鳴り響いた。慌てて透が画面を開くと、変な顔のキャラが大量に送られてきている。私はいけないと思いつつ吹き出した。

「高木さん、静かに」

「ごめんごめん、でももう行ったみたいだから、出よっか」

 そう言って私はおもむろに透を抱え、また塀を飛び越える。再び不意打ちのアクロバティックな動きをされた透はなんだかぐったりしていたが、私は構わず曲がり角の向こうを確認した。

「うん、いない。高橋くん大丈夫だよ」

 振り返って透を手招きするが、透はためらったように動かない。どうしたのかと私が首を傾げると、やはりためらいがちに口を開く。

「あの、そうだとは思うんだけどさ、しっかり聞いてなかったから………。高木さんも、やっぱり人間じゃないの?」

 私はこの質問にどう答えるか迷った。目が光って人ひとりを抱えて飛べるなんてどう考えても人間ではないし、透もそれは分かっているようだ。ただ確認がしたいだけなのだろう。だが自ら正体を口にするのは気が引けた。

「………誰かに言う?」

 結局、私は暗に肯定するような言葉で濁したが、透は弾かれたように首を振った。

「まさか! お世話になってる人が困ることなんてしないよ」

「うん、そのほうがいいよ。誰かに言ったら、きっと消されちゃうから」

 怖がらせるかなと思ったが、良からぬ噂が広まるのは私も困るし、今の生活を失いたくはない。わざとにっこり笑って見せた。

「私たち、人間退治は得意だからさ」

 押し黙ってしまった透を置いて、私は先を歩いた。そして少し離れたところでひときわ明るく振り返ってみせる。

「早くー! 置いてっちゃうよー!」

 透がこちらに駆けだしたのを見て、私は再び前を向いた。

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