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魔物たちの勇者撲滅記録  作者: 葛城獅朗
バラ園に残した愛
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命の代わりに

 胸に穴をあけられ、大量の血を流し、もはや人間の手で助けられないほど命をこぼしてしまった透。体から出ていった生をすくいあげて、もとに戻すことはできない。救急車に乗せられた透は、小さな体へ懸命に酸素を取り込んで生きようとしていたが、それも長くは続かないだろう。清志にも女王にも、そして透の名を叫ぶ清志の息子と奥さんにも、それは明らかな事実だった。

 誰もが絶望する中、それでもなんとか助けられないかと、清志は女王に助けを乞う。女王はそれを叶えるために行動するだけの愛情を彼に持っていた。そしてもちろん、清志の宝物にも。今、透の命を救えるのは女王だけだということも理解している。だからすぐにその提案を口にした。

「妖精の命で補いましょう」

 清志はその言葉を聞き、蒼白な顔を驚きに変えた。物騒な響きに「どういうことだ」と問う。女王は身を削るような痛みを心の内に感じながらも、清志の瞳から目をそらさず言い切った。

「あの子たちを何人か、透の体に入れて助けるわ。あの子たちの命で、透の命を繋げるの」

 清志はあまり感情を外に出すほうではないが、その時ばかりは動揺を隠せなかった。清志になついていた妖精たち。清志も一緒に長い時を過ごしてきたあの子たちを可愛がっていた。そして何より、女王にとって妖精は我が子も同然だと、清志は知っている。信じられない提案に、清志は目を見開いた。

「あの子たちを殺して、透を助けるということか」

「………そういうことになるわ」

 肯定する辛さに、女王の声が震える。自分がいかに残酷なことを言っているか、自分の言葉で改めて認識させられた。

「でも確実に、透は助けてみせる」

「そんなことを………私に選べ、というのか」

「あなたに任せるわ、清志。どちらをとっても、私たちはあなたの味方よ」

 息を吸うのも苦しそうな清志に、女王は変わらぬ信頼を約束する。しかし、子を差し出す親として、そして妖精を束ねる魔物として、タダでそれを行うわけにはいかない。「ただし」と言葉を続けた。

「透の命を助けるのなら、代わりに透には次代の契約者になってもらうわ」

「………は?」

 突然、話の流れが変わったことに、ただでさえいっぱいいっぱいだった清志の頭は意味を理解しきれなかったようだ。女王を見つめて、その口が紡ぐ話を微動だにせず聞く。

「あなたが亡くなった後は、透がこの庭の主として花を綺麗に保つこと、そして私たちをここに住まわせてくれること。長い人生を、一生契約者として過ごしてもらうわ。それが、可愛い子どもたちの命を差し出す条件」

 女王は清志を見つめながら、過酷な道を歩ませようとしている自分に悲しくなる。

「どのみち、私たちがいなくなったら透は生きられない。妖精のエネルギーがなくなれば、一度繋げた命もすぐに尽きてしまうわ。透が生きるためにも、ここは必要なの。契約者になってくれるなら、透の命は保障するわ」

 透は生きながらえても、清志の死後は自由に生きられなくなるだろう。契約をしながら普通の人間として暮らしてきた清志とは違って、この庭に一生拘束されることになるかもしれない。妖精を宿して生きる人間がどうなるかなんて、前例がなかった。それでも命だけは助けてみせると、女王は決意を込めて清志を見つめる。

 女王の説明をじっくり理解した清志は、小さくため息をつきながら静かに頭を抱えた。俯いた表情はうかがえず、ゆっくりとした呼吸だけが聞こえる。

「あの子たちの命を、透の命の代わりに。命を繋いだ代わりに、透の一生をこの庭に。選んで、清志。もしあなたや透がこの先の生に絶望しても、私たちが支えるわ」

 長い沈黙が落ち、どこかで鳴く小鳥の声が、何一つ変わらない外界の様子を知らせる。それがかえって清志の周囲にだけ渦巻く死の絶望を感じさせた。どちらをとっても、清志の慈しんできた存在はいなくなる。それでも清志の心は決まっていた。

「頼む」

 かすれた声で発せられた言葉に、女王は涙が浮かびそうになり、硬く目をつむった。

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