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魔物たちの勇者撲滅記録  作者: 葛城獅朗
バラ園に残した愛
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対面

 夕食を摂った後、透も含めた住人全員で今夜の計画を確認した。といっても、計画というほど大層なことはない。私たちはいつも通り、お菓子を持って縁に導いてもらい、裏道から女王のもとへ向かう。そこで女王に魔力補給と事の真相の説明をしてもらうのだ。話ができる魔物で本当に良かった。そうでなければ乱闘の末に吐かせることになっていたかもしれない。正直、透がバラ園で襲われたときにはその可能性も充分あり得ると思っていたし、最悪の場合は倒してしまうことも考えられた。もし会話が出来なければ、妖精と一緒に透も死ぬということも分からずじまいで、依頼人を間接的に殺してしまうことになったかもしれない。それを知った今となっては、対話による解決がどれだけ事態を好転させているか身に染みて感じていた。

 とはいえ、勇者が張っている状況で、今回は透も連れて行くとなると警戒は強化しなければならない。私は透の警護のみに集中するよう仰せつかったので、彼のすぐ後ろをべったり張り付くことになった。素早く動けるように、私が担いでいくお菓子の量も少なくしてもらう。そして悲しいことに、今日は私たちのお茶とお菓子はなしだ。そこまでリラックスできる場ではないことは、重々分かっているのだが。

 いつも行く道やバラ園に着いてからのことなどを透にもしっかり説明し、純子に笑顔で見送られた私たちは、無駄に大きい門を出て鬱蒼とした木々の間を抜けていく。すでに子供は寝る時間で、闇も見通す私の瞳は金色に光っているだろう。透は初めて踏み入れた暗闇にキョロキョロして、明らかに緊張しているのが分かった。言いつけ通りすぐ後ろに控えている私には、彼の早くなる心拍音と発汗の匂いを感じられたが知らないふりをする。

「高橋くん、前見える?」

 一応視界の心配だけすると、振り返った透が私と目を合わせてぎょっとする。しまった、目が光って不気味だったか。ちょっと前、透をバラ園の外に出そうと門ごと体当たりをした時も光っていたのだが、その時の透は軽くパニックになっていて目のことまで認識できていなかったのだろう。ちゃんと見たのはあの夜の初対面時以来かもしれない。透は衝撃からかそのまま転びそうになったので、とっさに腕を掴んで支えた。

「大丈夫?」

「ああ、うん、ありがとう」

 透は動揺したのを隠すように視線を彷徨わせて礼を言う。

「前はうっすら見えてるよ。あれは雪那さん? 光を持ってくれてるでしょ」

「そうそう。雪那も真っ暗だと見えないからね」

 雪那は縁の後ろを歩いていたが、その手には彼が良く使う杖が握らており、先端がキラキラ光っている。わずかな光源だがないよりマシだ。

「見失わないようにね。道は縁だけ知ってるから」

 透は私の言葉に頷き、再び前を見て歩き出す。そうすると間もなく、もはやお馴染みとなったぐにゃっとする感覚があり、裏道へ入ったことが分かった。透は一瞬、歩みを遅くしたが止まることはない。そのまま私は透の様子と周囲に気を配りながら黙々と歩を進めた。




 再びぐにゃりとした感覚があった後、バラ園の奥、女王の住処の入り口に辿り着く。

「こんな所あったか……?」

 透がぽつりとつぶやいたが、おそらくここは人間が入れない異空間だ。見たことがなくても仕方ないだろう。透は若干眉をひそめながらも、前の2人と1匹がずんずん進んで行くのでそれに従って歩いて行く。そうして開けた空間に出た瞬間、透は今度こそ固まった。

 そこにいたのは私たちを待っていた数十匹の妖精。色とりどりの髪と、花や葉っぱで作った鮮やかな服、そして金の鱗粉をまとって空中を飛んでいる。

「まぁ、今日も来てくれたのね!」

「お菓子もたくさん、とっても嬉しいわ」

「それに、そこの可愛い坊や」

「やっと来てくれたのね、可愛い透」

 透は近づく妖精たちを見つめて、口をあんぐり開けながら後ずさる。すぐ後ろにいた私はどんどん後ろに下がる透に衝突しそうになったので、体をずらして妖精たちに注意した。

「高橋くんビックリしてるから、いきなり近づいちゃダメだよ」

 私にそう言われても、妖精たちは楽しそうにクスクス笑う。

「あら、ごめんなさい。まだベイビーだものね」

「怖がらせちゃったわね、よしよし」

 頭を撫でるふりをする妖精を、透はのけぞって避けた。そんな反応も面白いのか、妖精たちは無邪気に笑いながらくるくると舞ってみせる。私は妖精たちを透から引きはがすために、手持ちのお菓子を差し出した。

「はい、これ皆で食べてね」

「わあ、ありがとう!」

 一言礼を言うと、妖精たちは素早くお菓子を掻っ攫って皆で箱を開封する。歓声を上げてさっそく分け合い始めたので、透の周りには一匹もいなくなった。透はあからさまにほっとした様子を見せる。私はそれを確認してから、前に進むことを促した。

「ほら、待ってるよ」

 私にそう言われて前を見た透は初めて東屋の存在に気づき、中に座る女王を見る。青く光る美しい女性。だが明らかに人外のものと分かる姿に、透の喉から息をのむ音が聞こえた。

「透………」

 女王はなんとも切なく、愛しい視線を向けて、透の名を呼んだ。

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