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魔物たちの勇者撲滅記録  作者: 葛城獅朗
バラ園に残した愛
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罪悪感

 契約者としての役目を果たさなければ死ぬ。そんな衝撃的なことを透に告げてバラ園へと導かなければならなくなった私たちだが、帰宅した時には既に透が寝ていたため、明日の昼間に説明することとなった。時間帯的に私は学校に行っているが、そのほうが透の絶望する顔を見なくて済むので良いかもしれない。「明日は仕事休みだから俺から言うよ」と大あくびをする雪那を見て、私は以前疑問に思ったことを聞いてみた。

「ねぇ雪那って、昼間どうやって眠気対策してるの。私、今日の授業まるまる寝ててさすがに怒られたんだけど」

「お前何しに学校行ってるんだよ」

 呆れた顔を向けられたので、私はむっと口をとがらせて反論する。

「だって夜中に起きてるんだもん。でも雪那も同じでしょ。どうやって昼間仕事してるの?」

 ううん、雪那は上を見上げて考えてくれたが、返ってきたのは参考にならない答えだった。

「立ち仕事してると、眠いって思っても実際に寝ることはないからな」

 そういえば雪那はカフェで基本立ちっぱなしだ。優美と清香と行った時も、何かしら動き回っていたっけ。

「なぁんだ、全然参考にならないね」

 思ったことをそのまま言ったので、気の短い雪那は怒るかと思ったが、意外にも真顔のままじっと私の顔を覗き込んできた。

「そう言われれば隈があるな。明日、学校休んだらどうだ」

「え、いいの?!」

 私は健康で頑丈なので怪我や病気をほとんどしたことがない。小学校に入ってから今までほとんど毎年皆勤賞を取っているから、学校を休むという発想がなかった。それに周りのクラスメイトは「学校に行けって親が厳しくて……」なんて会話をしていることも多い。だから、まさか眠いという理由だけで保護者からあっさり休む許可が下りるとは考えていなかった。

「一応、明日で決着がつくかもしれないからな。体調は万全にしておいたほうがいいだろ」

「え~でもなんか、罪悪感」

 元気なのに学校を休む、というのは浮足立つ感覚がある一方で、いけないことをしているような後ろめたさがある。悩む私に雪那は「判断は任せるけど」と前置いて、

「でも、学校に行っても一日中寝てるんだろ。ならベッドで寝たほうがいいんじゃないか」

 その言葉で目からうろこが落ちたような気がした私は心が決まった。さっそくキッチンにいる純子に、明日のお弁当はいらないと伝えに行く。純子は休むことを聞いても分かりましたと笑顔で言うだけで、特に非難はなかった。休むって案外簡単なんだなぁと新たな発見をした気分で、私は自室へと戻る。部屋に備え付けられた浴室で汗を流し、髪を乾かしてスキンケアをしたらすぐにベッドへもぐりこんだ。明日はアラームをかけないで、自然に任せて起きよう。そう決意すると、不謹慎だけど休日前みたいで楽しくなってくる。しかし、そうして明日のことを考えていると、ふいに透の顔が浮かんできた。そういえば、明日の昼間に説明するって言ってたな。家にいるのにその席に行かない………なんてことは出来ないよね? 「寝てました」で誤魔化せないかな。

 透の絶望した顔を見なくて済むから、とついさっき考えたのに、結局はその重苦しい空気に耐えなければならなくなったことに気付いて、楽しい気持ちがするするとしぼんでいった。




 結局いつもの時間に空腹で目覚めた私はパジャマと寝癖のまま朝食だけ食べて、お昼近くまで長い二度寝を決め込んだ。透の話のことはしんどく思っていたが、覚悟を決めて起きてリビングに向かう。自分の部屋にいる段階から甘い匂いが漂っており、今日もお菓子を作っているのが分かった。キッチンに入ると、やはり透と純子が作業をしている。真剣な表情で生地をこねる透は、この時間を楽しんでいるのだろう。瞳がイキイキとしていて、じんわりと浮かぶ汗さえもキラキラと美しく見える。これから死の宣告をされるとは想像もしていない様子だ。

 純子が起きてきた私に気付く。今度はちゃんと着替えて髪も整えてきた私を見てクスクス笑った。

「あら、おはようございます、寝坊助さん」

「おはよう、さすがにスッキリしたよ」

 にこやかに挨拶を交わしていると、手を止めた透も充実感のある笑顔を見せてくれる。

「おはよう、高木さん」

「おはよう。今日も作ってるの?」

 もうお菓子を食べても魔力は回復しないと言っていたから、てっきり今日は作らないのだと思っていた。しかし、私の言葉を聞いた透は首を傾げて「うん、いつも通りに」と答える。そういえば昨夜の説明をまだしていないから、そこのところの事情を透は知らないのか。それを悟った純子が説明に入る。

「せっかく回復した魔力が下がってしまうと悪いので、今日も一応作ってほしいって雪那さんに言われたんですよ」

「ああ、なるほど」

 透に何も言わずお菓子作りをさせた理由を知って納得する。透は今の会話の流れがつかめず、また首を傾げていたが、私たちが何でもないと言うと再びイキイキとお菓子作りを再開させた。

 意外にもはまったらしいお菓子作りは、今日で最後だろう。そして本人がそれを知らずに楽しんでいると思うと、少しの罪悪感が芽生える。私たちに何か非があるわけではないし、むしろ透に解決してほしいと頼まれた仕事を全うしているだけだけど、その結果が透を苦しめると分かっているから、こうして黙っているのは少し辛かった。

 もうすぐお昼だ。純子が昼食は何がいいかと準備に取り掛かる。きっとそれを食べ終わったら透に説明するのだろう。束の間の平穏が崩れるまで、もう少し。

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