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魔物たちの勇者撲滅記録  作者: 葛城獅朗
バラ園に残した愛
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休憩

 ただでさえダルい水曜日。そして連日のティーパーティー(夜中開催)。私は体力に自信があるが、それはあくまで運動能力という意味の体力であって、睡眠不足に対抗できる体力ではない。個人的にそれはまた違うベクトルだと思っている。つまり、こう夜更かしが続いては身が持たず、日中に爆睡するのは仕方がないことなのだ。

 だが、今日はさすがにやりすぎたかなぁと反省した。なんせ登校してから帰りのホームルームまで、起きていたのはお昼ご飯のみという徹底ぶり。完全に昼夜が逆転している。私が授業中に居眠りをしているのはいつものことだが、さすがに今日は担任の先生に「高木、大丈夫か?」と声をかけられて、心配と少しの説教をされてしまった。なんでも、今日うちのクラスの授業を担当した全教員から「高木が寝ていた」と報告を受けたらしい。成績に響く、何か眠れていない事情があるのか、などなど言われた。

 確かに、普段私が働きに出ていたのは3日に1回のペース。従って居眠りのペースも3日に1回だった。それが透の件があってからほぼ毎日、何かしら稼働している。しかもティーパーティーはもう1週間続いているから、疲労がたまって当然だ。担任からお小言をちょうだいした帰り、私はやっとスッキリし始めた頭で分析する。昼間働いている雪那はどうしているんだろう。睡眠時間は私と同じはずなのにケロッとしていたな。蓮太郎はどのみち夜しか働いていないし、縁はそもそも夜行性だし、たぶん純子は睡眠を必要としていない。雪那が一番私と同じ状態のはずなのに、どうしてこんな差が出ているんだろう。帰ったら聞いてみようかな。

 そうして放課後の教室に帰ってきた私を迎えたのは、清香と優美だけではなかった。

「あ、おかえりぃ、さくらぁ~」

 いつものぽやぽやした笑顔の優美と、軽く片手を上げた清香。それを囲むように男子生徒が数人立っていた。見覚えがある顔、確か透の友達たちだ。名前はおぼろげだけれど、妙に絡んできた真琴だけは覚えている。

「なんか、この人たち桜のこと待ってたよぉ」

 優美が説明してくれるが、待たれる心当たりが全くない。透がずっと学校に来ていないのは私の家にいるせいだが、それは透の友達が知る所ではないはずだ。バレる要素もないはずだし。多少ドキドキしながら近づいていく。

「え、なに?」

 透の友達たちは一緒に遊んだ時が嘘のように真剣な顔だ。いよいよどこかでバレたのではないかと冷や汗が伝う。あれだけお喋りだった真琴も口が重そうに話し始めた。

「透のことで何か知らないかと思って」

「高橋くん?」

 私はわざとらしくすっとぼけて首を傾げる。だが真琴は不審に思わなかったようで「うん」と話を続けた。

「あいつもうずっと学校休んでてさ。なんかよく分かんない病気らしいんだけど。本人に連絡も入れたら、たいしたことないって言ってたからお見舞いにも行ったんだ。でも透のお母さんに、うつしちゃ悪いって言われて会えなくてさ。そんなに悪いのかって思って電話してみたら、なんか隠してるっぽいなって思ったんだ。病院行ったのか、どんな症状なんだ、いつ来れるんだって聞いたら、しどろもどろになったっていうか……」

 確かにそのあたりの詳細までは詰めていなかった。実際に病気なわけではないから、咄嗟に答えられなくても仕方ないだろう。

 だが、一方で家族に手を打っておいてのは良かったと胸をなで下ろした。長期戦になると感じた私たちは透の家族からボロが出ないよう、そしてこれ以上勇者に力をかさないよう、人間退治をするときの要領で彼の両親を脅した。蓮太郎と、珍しく純子が闇夜に紛れて屋敷の外に消えていったのを覚えている。どうやったのかは知らないが、縁曰く、2人は人間の深層心理に働きかけて、一種の催眠術の様に彼らの口に戸を立てることができるらしい。自らが術にかかっているとも分からないまま、私たちに都合の悪いことは喋らないようにしてきたのだそうだ。だから透の両親は今、透の不在は承知しているが他人には病気で会えないと話す。そしてそれを不自然とは感じない。知らない間にコントロールされていると思うとなんとも恐ろしいが、人間退治の中では穏やかな手段といえるだろう。

 わずかにほっとしている私の様子には気付かず、真琴は私に「何か知らない?」と尋ねてきた。

「高木さん、透と最近仲良かったし、何か知ってたら教えてほしいんだ」

 本当に友人を心配しているのだろう、真剣な表情で私を見つめ、何か収穫がないかと期待している。しかし、私の答えは決まっていた。

「ううん、何も知らない」

 首を横に振って、あらかじめ用意されていた答えを述べる。しかし、私のそのあっさりした回答が気に食わなかったのだろうか、真琴は眉間にしわを寄せてさらに質問してきた。

「透と連絡とったりしてないの?」

「してないよ。連絡先も知らないし」

「え………そうなの?」

 真琴はますます訝しむような表情になる。これ以上突っ込まないでほしいと思ったが、彼らの様子からこれで終わらないこともなんとなく想像できた。早いこと納得してもらえるよう、最適な答え方をしなくてはと、内心少し焦る。

「高木さんって透とどういう関係なの? 連絡先も知らないって、彼女でもなければ友達でもないってこと? 最近一緒にいたのって、何きっかけなわけ?」

 それっていま必要なこと? と思ったが、それを言えば興奮した真琴の火に油を注ぐことになると判断して口を閉ざす。結局口から出たのは何ともあいまいな回答だった。

「別に……ただの同級生として、少し話す機会があっただけだよ」

「本当に?」

 今度は真琴がイライラを隠さずに詰め寄ってくる。周りの友人たちもそれが伝染したのか怒ったような表情になっていた。マズイな、面倒なことになりそう。

「だとしても、ちょっと心配しても良くない? あいつは高木さんと会うために部活休んだりしてたみたいだけど。そうやって頻繁に会ってたのにさ、こんなに長く休んでなんとも思わないの」

 真琴が一歩、私に近づく。正直、小柄な人間の真琴が怒りながら近づいても、私は全く怖くない。その態度が余計に気に食わないのかもしれないが、私は距離を詰められても動かなかった。でも、それを平気だと思っていたのは私だけだったらしい。

「ちょっとぉ、なんなのアンタたちぃ!」

 ふわふわした髪を揺らして、さらに小柄な人間が割って入ってくる。優美は真琴を軽く押しのけて、私を庇うように前に踊り出た。

「勝手に怒って桜のこといじめないでよぉ!」

 高い叫び声が私の耳に痛い。だが、予想外の庇う言葉は私の焦りを溶かしていった。

「そうですよ。桜は何も知らないって言ってるじゃないですか」

 前に出ることはしなかったが、清香も怒気をはらんだ低い声で抗議する。眼鏡がピカリと光って怖い。

「だいたい高橋くんとどういう関係かなんて、いま関係ないし。勝手に訪ねて来て勝手にイライラぶつけないでもらえます?」

 清香は私が言いたかったことまで代弁してくれた。以心伝心した、と1人で感動していると「どっか行って! もう来ないで!」と優美が子どもの様に叫んで男子たちをぐいぐい押していく。というより叩いて追い払っている。透の友人たちはそれにびっくりしながらも、純粋に叩かれるのが痛いのか優美に押されるまま教室を出て行った。

「さくらぁ、あんなの気にしないでね!」

 教室の扉まで透の友人を追い払った優美が、こちらに戻りながら私を励ました。まだその表情はぷんぷん怒っている。清香も近づいて来てうんうんと頷いていた。

「なんかよく分かんないことで怒ってたね。友達が心配なのはわかるけど」

「それで桜に怒るのは違うよぉ!」

 2人とも機嫌が悪そうな顔をしていて、申し訳ないなぁと思う。本当は透のことを誰よりも知っているから余計に。でも怒ってくれて、しかも庇ってくれて純粋に嬉しいと思ってしまう私もいた。

「桜ぁ、なにニヤニヤしてるのよぉ。怒らなきゃ!」

「んっふっふ、いい友達を持ったなぁと思って」

 自分のために怒ってくれる友人は貴重だ。それに関しては私も、透も恵まれているのだろう。透の友人に関しては方向性が少し違ったが。私は素直な感想を述べて2人の肩を抱いた。

「そのうちあのお店のパフェおごるよ」

「あのお店って、あのお店ぇ? やったぁ、今日行こうよぉ」

「今日はダメ」

「私もバイト」

「桜ぁ、最近付き合い悪いよぉ。清香は友情のために休んじゃえ!」

「迷惑かかるからダメだよ」

 さっきまでの怒りはどこに行ったのか、優美は途端にご機嫌になって、清香はバイトにスイッチを切り替えたのかクールになる。いつもの楽しい雰囲気に癒された。

 悪いけれど、私は自分の家族と友人が一番大事。透や透の友達が困っていても、自分の大事なものと天秤にかけたら冷たく切り捨ててしまうだろう。それが透けて見えて怒られたのかもな。自分の友人と行動していた人間が、その友人がどうなってもいいと思っていたと知ったら、怒って当然だ。

 それにしても、人間の依頼人というのは透が初めてだが、こうして身の回りに影響が出てくるのはよろしくないと思う。やっぱり早く解決して、私への疑いがかけられないようにしなければ。

 でも今日は少し休憩しようかな。3人でおしゃべりしてから帰ろう。疲れがたまっているのは今日の爆睡で証明済みだ。これから友人たちと楽しい時間を過ごして、精神的な疲れを取り除こう。

 私は純子に、帰りが少し遅くなること、お菓子作りが手伝えないことを連絡した。

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