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魔物たちの勇者撲滅記録  作者: 葛城獅朗
バラ園に残した愛
31/63

配慮

 夜風が気持ちいい。先ほどの重くなった空気を吹き飛ばしてくれるみたいだ。洋館を囲む木々の上で辺りを見回しながら、私は冷たくなった春の夜風を心地よく感じていた。

(でもちょっと寒いかな、上着持ってくればよかった)

 私がそう思って二の腕をさすったタイミングで、背後でわずかな物音がする。私の肩にパーカーをかけた青白い手を見て、その犯人を知った。

「どうしたの、蓮太郎」

 夜の支配者みたいに真っ黒な出で立ちで、赤く目を光らせた蓮太郎が隣に立っている。

「……純子に言われて」

 言葉少なにそう説明されても、普通は首を傾げるところだ。だが、私たちは10年以上ひとつ屋根の下で暮らしてきた実績がある。おそらく純子が気を利かせて、パーカーを持っていけ、ついでに見回りを手伝えとでも言ったのだろう、と理解する。昨日洗濯に出して、家事の一切を担う純子から今日返却される予定だったパーカーは、爽やかな新緑の香りがした。

「ふふ、女の子だからね。冷えは大敵だし、夜は危ないからね」

 蓮太郎が自発的にそのあたりの配慮をするはずがない。ここ最近使われているネタを引っ張り出して含みのある言い方をすれば、むっすりしてだんまりを決められた。

 でも、私は蓮太郎に仲間意識のようなものを持っているから、そんな態度を取られても気にならない。頭を使うのは幼くて可愛い見た目の大人たちで、背ばかり大きくなった私たちはどちらかというと肉体労働派。危機を察して瞬時に飛び出していくほうが得意だし、2人とも健啖家で、体を動かした分のエネルギーを余剰ではないかというほど補う。加えて、夜でも辺りをはっきり映す目は今も怪しく光っている。種族こそ違うが共通点だらけだと思っていた。

 そうして仲間の男をじっと見ていると、突然ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。力が強すぎて頭がぐわんぐわん揺れた。

「えー、何よ」

「……大丈夫だ」

「いや、何が」

「……全部」

 さっき10年以上の付き合いがあるとか、仲間だとか思っていた吸血鬼の言葉が分からない。私は何か不安を口にしていただろうか。いやしていない。だが何か励ましの言葉を贈られる要因があっただろうかと考えて、もしかして先ほど暗い話をしたから気にしてくれてるのかな、と思い至る。蓮太郎にも配慮の概念があったようだ。

「それは、ありがとう」

 一応お礼を言うと、蓮太郎は満足したのか私の頭から手を離し、反対側を見てくると言い残して飛んでいった。木を伝って去っていく後姿を見送り、ずっと一緒にいる人でも知らないことってあるんだなぁとしみじみ思う。先ほどは気を遣えないなんて思っていたけど、清香を駅に送っていったり、私から透を引きはがしたり、実はよく分からない方向の配慮は持ち合わせているのかもしれない。そう思うとなんだか可笑しくなって、小さく笑ってしまった。蓮太郎の思惑とは違ったかもしれないけど、ちょっと心が軽くなったよ。

 私はもう一度「ありがとう」と呟いて、辺りを見回るために大きく飛んだ。

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