家の鍵をなくした。それで?
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家の鍵をなくした。
これでは家に帰れない。
残念なことに管理会社から渡されていた合鍵は家の中だ。
どうしたものか。
生憎とネットカフェもここからは遠く寝泊りも簡単にはできそうにない。
さらには今夜は冷え込む。
さっき汗をかいたせいで体は冷たいし、早く疲れた体をお風呂で癒したいものなのだが。
「……どうしたの?」
マンションである家の前で立ち往生する俺に話しかけてきたのは女子高生だった。
どこの学校かわからないが制服を着た年相応の見た目の女の子だ。
「家の鍵なくしちゃったみたいなんだ……あはは」
この子とは顔見知りだ。
半年くらい前に俺の隣の部屋に越してきて、一人暮らしをしているらしい。
妙に砕けた性格で、年上である俺に対して敬語も使わないがそれが気にならないのが本当に不思議だ。
「もしかしてこれかな?」
そういって彼女がポケットから取り出したのは見覚えがありまくる鍵だった。
紛れもなく俺の鍵だった。
「おお! どっかに落ちてたの?」
「まぁ……そんなとこだね」
ありがたい、ありがたい。
なにかお礼しないとな。
「あ、そうだ。この前友達からもらった良いとこのお菓子があるんだ。よかったらそれを感謝の気持ちとして……」
「―――――あなたが殺したの?」
え?
と、俺は聞き返した。
「わたしの友達」
「ああ………」
俺はここで理解した。
この子は知っている。
俺が人殺しだと、知っている。
そうか、彼女はこの子の………。
「なんでわかったのかな?」
俺はこれで五回目だったし、何かをしくじった憶えもないんだけどなぁ。
「あなたの後ろ」
「うしろ?」
「死んだその友達がいるから」
ッ!?
俺は咄嗟に確かめようと後ろを向いた。
こんなことを何度もしているし、いつかは呪われる気がどこかでしていたから。
でも、後ろには何もなかった。
ただの住んでいるマンションしかなかった。
「いるわけないじゃん。そんなの」
また彼女のほうを向こうとするけど叶わなかった。
ビリリッ!!
強烈な音とともに全身が痺れととも痛みが走る。
これは……スタンガン………?
「がはっ!?」
倒れる。
立ってられるものじゃなかった。
「気絶しそうね。準備の甲斐があったあった」
意識が遠のく。
なんて強力なもんかましてくれたんだ。
目が閉じるその前に俺が聞いた最後の言葉はこうだった。
多分、こうだった。
「地獄に堕ちろ」
あーあ。
家の鍵くらいちゃんと持っておけばよかった。
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