第一印象は最悪
気を取り直したあたしは職員室に行き、新しい制服に着替えるように、制服を渡されて保健室に連れて行かれた。
あいにく保健婦さんはいなくて、寝台をカーテンで仕切ってその中で着替えることにした。先生の心遣いは嬉しいですけど、この制服のまま授業を受けちゃいかんかったんでしょうか……。ブツブツ文句を言いながら潔く下着だけになったところに、
シャーッ!
カーテンが開きました。
「!」
驚きすぎて声が出なくなったあたしの目の前に、今朝の天使がいた。
天使はじろりとあたしを睨むと、そのままつかつか横を通って、寝台に横になった。
その間、あたしは固まったまま。
え。え? え!?
振り向いて改めてみた時にはもう天使は寝てた。すやすやと。寝てると本当に天使みたい。いや、そうじゃない。
ちょっとまて! このシチュエーションで、これ? なんか、別の意味であたしはひどく傷ついたのだった。
落ち込み気味のあたしは、その後教室でどんな風なことをしたかあまり覚えてない。昼休みに自分で作ったお弁当を食べながら、周りを囲む御子息に適当な返事を返していた。
ガラッ!
ものすごい引き戸の音がして、一瞬御子息たちが固まる。見ると、天使がそこにいた。なんで?
声に出たのか、一緒にご飯を食べていた女の子が教えてくれた。
「矢島匠様ですわ。ちょっと剛毅な方ですの」
いや、剛毅というより、乱暴者では?
「男らしい方ですわよね。時々どきっといたします」
いや、ビビってどきっとするならわかる。男らしいというより、失礼なやつなんじゃ……。
「そうそう、今日はあのメガネをなさっていないからお顔が見られてうれしいですけど」
いや、メガネというか、ってメガネかけてるんだ、普段。
「ええ、なんというか、とっても個性的なメガネですわ」
きのせいか、クラスメイトのお嬢様がたは困った顔をして一様にそう言った。
「東雲様はクラブはなにに入られるのですか?」
帰りがけに隣の席のお嬢様に聞かれた。どうも今からクラブ活動の時間らしい。どうせなら学校生活を満喫したいものだ。そう思って、前の学校でも入っていた料理部に入ることにした。
「まぁ、クラブキュイジーヌですの? お料理なさるんですか? 素晴らしいわ」
はい? キュイジーヌ? なにそれ?
「いや、えと、その、ご飯くらいなら」
「まぁ、ご謙遜を。こんど、御馳走してくださいな」
「あ、はぁ……」
つーことで、あたしはクラブきゅうりだか、なんだかに入ることにしたのです。
「マドモアゼル、ごきげんよう」
「え? まともにあせる? 焦ってます!」
「おー、おちついてください。焦らなくても大丈夫。わたくしが、素晴らしいレシピを指導させていただきます」
品のいいロマンスグレーの髪のあたまに筒状の帽子をかぶって、どっかのステーキハウスの料理人みたいな恰好をした外人のおっさんが、にこやかに教室の集う生徒たちに話しかけている。
なんか、引き潮のようにさーっといろんな部分がひいちゃったあたしなんですが、周りにを見ると意外に男の子もいるのに気づいた。
へぇ、料理に興味あるんだ。
「ムッシュ、席についてください」
感心した矢先、食う役なんだと気づいた。がっかり。と、そんななか、かわいい顔の男子があたしたちと一緒に並んで、レシピの紙を手に取った。
その子は一学年の校章をつけている。この学校は学年ごとに色の違う校章をつけるのだ。ちなみにあたしは青。二学年は白色。一学年は赤。黄色だったら信号機なのだな。
栗色のさらっとした髪。女の子のような顔つき。目がぱっちりとしていて、ほりも深い。かわいいなぁと思って見とれてると、あたしに気付いて、にっこりと笑い返してきた。
「はじめまして。ぼく、一年の瓜生八尋です。よろしくお願いします」
か、かわいい。ういういしい。
「あ、あたしは今日転校してきた三学年の東雲朱莉です。よろしくね」
「あ、お姉さまですね。うれしいな」
結局、あたしは醤油のない料理にてんてこ舞いだったわけなんだけど、隣で一緒に料理する八尋君のおかげでなんとか失敗せずに済んだわけだ。