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転校

 人生なんて平凡で、このまま何事もなく続くのだと思っていた五月までの十八年間。そんなことはない。たった二ヶ月のあいだにあたしの人生は百八十度変わってしまった。

 

 家族三人から天涯孤独。ど貧乏から大金持ちへと。おっと、おじい様のことを忘れてた。

 さようなら、飯島朱莉。お父さんの姓。こんにちは、新しいあたしの名前、東雲朱莉。お母さんの姓。

 おまけについてきた婚約者、秦野郁哉さん。今から一か月前が初対面でした。初対面の小娘からいきなり嫌ですとか言われた気の毒な人。ごめんなさい。でも、なぜ、婚約者なのか納得できなかったあたしにおじい様が説明してくれた。

 お父さんとお母さんの駆け落ちの理由。

 お父さんは郁哉さんの父親の腹違いの弟。お母さんは郁哉さんの父親と婚約していた。おじい様が決めた結婚。でも、お母さんはお父さんの方を好きになった。お父さん以外の人と結婚したくなくて、お母さんとお父さんは駆け落ちしたのだ。

 で、あたしが、次のターゲットなんですか。そうなんですね。ちょっと、初めての祖父との再会に感動したあたしが馬鹿だった、みたいな冷ややかな顔をしたら、おじい様はあわてた顔をして、こう言った。

「違うんだよ、朱莉さん。郁哉君は本当にいい男でね、性格も顔もいい男などそうそういないものだ。年も朱莉さんにちょうどいい。もしもお互いが気に入ればこれほどいいことはないと思ってだな……」

 あ、あたしは御近所のダックスフンド同士のお見合い結婚並みの動機で、目の前の初対面の男と結婚せにゃならんのか!

 という思いが顔に出たようで、郁哉さんが困ったようにとりなした。

「まぁまぁ、海造おじさまもいきなり女の子にそんなこと言ったら、きらわれてしまいますよ。お付き合いのことは若い者同士で決めますから、ね」

 ね。

 郁哉さんはにっこりとほほ笑んであたしを見た。

 はぁ……。で、改めて断ったわけ。損したとか何とか思わない。だいたい、国の名前がつく料理を平気で食べちゃってる人たちが、三匹二百九十八円のサンマに悩むあたしと気が合うとは到底思えない。

 でもなんだかんだいって、あたしはおじい様と一緒におじい様の家に住むことになったのだった。それは必然的に引っ越すことを意味していて、今まで通っていた学校を転校することになった。

 ここまでが七月から八月までのあたしの生活。この一カ月であたしはおじい様に対していろんな改革をした。

 まず、一流ホテルのシェフが作る料理をやめさせてあたしが料理するようになったこと。最初は嫌がってたおじい様もなんだかんだいって、あたしの料理が気に入ったみたい。酒の肴にいいとか何とか言ってる。あと、大昔に母親がつくってくれた味に似てるって。要するにひいおばあさまのことかな。体の調子もいいとか言い出して、なんか、ジムに行き出した。

 ここからが九月からのあたしの新生活。

 おじい様が手続きした学校は、いわゆる財閥の御子息が行く学校。知ってたら拒否ってたけど一番近いんだよって騙された。車で一番、なんだよね。嘘つき。

「ごきげんよう」

「おはようございます」

 えへ。すごい違和感。ごきげんよう、だって。学校の名前がばれたら嫌がられるだろうからって、当日になって学校は変わるって言われたから、マジで驚いた。なので、いま前の学校の制服のままです。すごい目立ってるけど、みなさん、「ごきげんよう」って顔色一つ変わらずにおっしゃってるんですよ。怖い。

 だいたい「ごきげんよう」なんて言葉、お昼のバラエティ番組の話をするときくらいしか使わないんだよな。

 しかも天然に金髪の人はいても、バリバリになるまで髪を染め上げた金髪の人はいないわけで。

 と、その中にものすごくきらきらと朝日を乱射してる人がいた。まぶしいとよろめいたら、ゴスッと誰かにぶつかってしまった。

「あ、ご、ごめん」

「気をつけろ」

 ぶしつけで懐かしいけど失礼な言葉! 見ると、ふわふわの金髪に天使のような顔。ダークブルーの瞳が剣もあらわに歪められて、あたしを睨んで、汚らわしいものがぶつかったよ、とでも言いたげに胸をはたいた。

 きぃい、なにその態度! 天使みたいな顔だからってやっていいことと悪いことがあんのよ! にらみ返したら、さらにやぶにらみに睨まれた。

 怖い! お金持ちの御曹司にも下町育ちがいるんだ。ガンつけられた!

 ふっと、天使は顔をそむけ、さっさと校舎に入ってしまった。

 怖かった。天使が睨むとさらに怖いね。


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