絶対拒否
着ていく服がないせいで、止めた学校の制服を着込んで、あたしはおじい様との会見に挑んだ。
まっさらにプレスされた白いテーブルクロス、天井からきらびやかに垂れるシャンデリアのクリスタル細工、きらきらとダイヤモンドのように磨きこまれたグラス。そんでもってくたびれた紺色の制服姿のあたし。
目の前には和服姿のいかついひげを生やした老人――東雲海造さん。本人いわく、あたしのおじい様。
ここに来るのに何やらおっきな真っ黒い車に乗せてもらった。車を運転するのは、執事という職業の井上さん。あたしを迎えに来て玄関口でいろいろ話した人がそうだ。
一体何が展開するのか、まったく想像もできない。あたしはおじい様というとらの前にちょこんと置かれたちっぽけなウサギって感じ。
「腹が減ったな」
ぎゃあ、やっぱり丸のみですか?
「朱莉さんはフランス料理はお好みかな?」
料理に国の名前がつくものはたいてい食べたことないです。日本ものくらいで……緊張して口が動かない。
ウェイターがからころとカートを押してやってきた。何だろうと見ていると、カートの上の丸いドーム状のふたをぱかっと開いた。
うわ! 鶏みたいなのが丸ごと焼かれてる! どうしよう、お箸がない!
あたしが戸惑って切り分けられてお皿に乗せられた鶏肉を眺めていると、おじい様が心配そうに尋ねてきた。
「朱莉さん、どうした? 嫌いだったかね?」
「あ、あの、お、お箸を……」
あたしはものすごーく小さい声でつぶやいた。
「そうか! それはすまなかった。おい、箸を持ってこい」
いやぁ、大きい声で言わないで! ナイフとフォーク使えないのまるわかり!
とにかく箸のおかげであたしはおいしいご飯を食べることができた。箸サイコー!
「ところで、朱莉さん。あんたに会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?」
あたしはもぐもぐご飯を食べながらキョトンとした。
「うむ、井上。郁哉君を呼んでこい」
おじい様は偉そうだなぁ。命令されて井上さんが小走りに部屋を出ていくのをあたしは見送った。
「あの、郁哉……さん、て?」
「うむ。朱莉さんの婚約者だ」
へぇ、婚約者……て、はぁ!?
「まぁ、初めて会うのだから、恥ずかしいのもわかる。郁哉君は非常に優秀な男でな、顔もいい。女子に好かれる男だ」
はぁ!? まて! おじじ! 婚約者だと!?
「お待たせしました」
すんごいさわやかな声とともに部屋に入ってきたのは、めっちゃ太陽とか、高原とか、スポーツカーとか、そう言ったものが当たり前のように似合いそうな男の人だった!
とにかく目がでかい。二重で鼻筋は通ってて、なんか、ハーフみたいな顔してる。髪とかウェーブがかっててさらりと手入れされてるし、さわやかさと清潔感、あと、美しいとカッコイイが混ざった感じ。あたしの語彙少なすぎる!
「よろしく。朱莉さん」
しかも、婚約者!? 意味がわかんない! だめ! そういう意味わかんないのは拒否! しかも棚ボタ的に、ハイ、これあんたのだからって与えられるのもいやだ。
おじい様の美的感覚の良さは認めるけど、あたしは愛とか恋というものは勝ち取っていくものだと思ってるんだ。そう、駆け落ちして愛を成就したお父さんとお母さんみたいに。
「絶対いやです!」
あたしは思わずそう叫んでいた。