梅雨明けに届いた招待状
広告の中に混じったそれは、綺麗な透かし彫りのある紙に、金色の蝋で封された封筒だった。
表書きはあたし宛。
飯島朱莉様。
裏を見ると、東雲海造と書いてある。黒々とした墨、達筆だ。
誰だろうと思いながらあたしは部屋に入って、ハサミで封を切った。
それは一通の招待状だった。婚約式の出席の可否を問うている。婚約式? 誰と誰の婚約だろう。その重要な部分が書かれていない。いたずら? その可能性が大きい。だいたい、こんな立派な封筒で手紙をくれるような知り合いがいない。ましてやこんな名前の人は知り合いにはいない。
捨てちゃおうか。でも結構きれいな紙質だ。あたしはしばらくその手紙を眺めていたけど、式に出るつもりも返事を返す気も毛頭ないまま、テレビの上に何げなく置いた。
あれから何日もたった。
バイトから帰ってきて、お茶を入れて一息ついていたら、玄関の呼び鈴が鳴った。
誰だろう。新聞ならお断りだ。わたしはチェーンをかけたままドアを開いた。すると、ドアの向こうにロマンスグレーの品のいい初老の男性がたっていた。
誰だろう? まったく覚えのない人だ。
「飯島朱莉様ですか?」
その男性はあたしに確かにこう言った。誰? あたしは用心しいしい、疑いの目つきで男を見る。すぐに変なことしたらドアを閉めて警察に電話しようと身構えた。
「お約束の時間になっても来られないので、海造様がご心配なさいまして、様子をうかがいに参りました」
お約束の時間? 海造様? あたしはなんのことかわからなくてキョトンとした顔で男を見つめた。
「あの、お手紙受け取っていただけましたでしょうか?」
お手紙……。ああ! あれか!
「手紙って、あの、婚約式って書いた……」
「そうです、よかった、ちゃんととどいたのですね」
まさか冗談とかじゃなかったんだ。あたしはバタンとドアを閉めた。ドアの向こうで悲痛な声が聞こえる。
テレビの前に行き、その上にほったらかされていた封筒を手にする。中の手紙をもう一度取り出して、よく見てみると、今日の日付。時間は……、とっくの昔に過ぎている。
海造さんとやらは待ちぼうけを食らわされたんだ。どうしよう……。知らない人だが、ちょっと後ろめたく思う。
あたしは玄関に戻り、ドアを開けた。
「ああ、良かったです。お疑いになられるのも無理はありません。海造様から婚約式はよいからお食事だけでもと伝言がございます」
「食事……」
あたしは手紙に記載された場所を見る。有名なテレビでよく見る一流ホテルの名前。こんな場所でご飯? 無理。絶対無理だから。第一服がない!
「あの、あたし、遠慮します」
「ええ、そんな。海造様が悲しまれます。たった一人のお孫さまなのに。お会いできるのを楽しみにされているのです」
マゴ?
「孫って……、え!?」
青天の霹靂。孫ってどういうこと? お父さん、お母さん!