どっちつかずの恋
今選べない。今誰か一人だなんて、無理。あたしはとっさに三人の手を取った。
「今は無理です! ごめんなさい」
今は選ばないつもりの答えだった。
そのはずだったんだけど、三人は立ち上がってにやりと笑った。
「じゃあ、いまは三人と」
「ぼくたち全員と付き合ってくださいね」
「全員と付き合えばお前にもわかるようになるだろ?」
え?
気づいたら三人に抱きしめられてた。ちょ!
三人の体の温かさが直接あたしの胸に響いてくる。胸がどきどきして、頭がくらくらする!
音楽が鳴り始めた。あたしは三人のあいだをくるくる回されながら、ダンスを踊る羽目になった。
天使の胸に抱きしめられて、あたしは顔も上げられない。
「やっぱり思った通り、柔らかいな、お前……」
「なななな」
また、くるりとターンして、郁哉さんがあたしを抱きしめる。背中を郁哉さんの手がなぜる。
「すべすべですね、近くで見ると、本当に肌がきれいですね」
「はうはう」
郁哉さんの腕から滑って、見た目よりも逞しい八尋君に抱きとめられる。
「朱莉さん、とってもいい薫りです」
あたしの耳元に八尋君がそっと口づける。
「あうあうあうあう」
言葉にならないドキドキがあたしの口から飛び出してきそう。一気に熱が上がって、このまま干上がってしまいそう!
こんなつもりじゃなかったって、叫びたい。このまま三人に求愛されたらあたしは誰かなんて選べない。好きって言われるたびに恋をしてそのたびに三人とも好きになりそう。
「別にいいんじゃないか?」
「一番朱莉さんを虜にした男が」
「そうですね、朱莉さんの伴侶になれるということで」
あー……、三人があたし抜きで勝手に結託してる!
「そんな! 都合よくいくもんですか!」
あまりにも一人よがりで、いい加減、頭にきた。だって、三人を振り回すことになるんじゃない。あたしが望んだことじゃなくても、あたしにとってだけ都合がいいんじゃない。
「それじゃ、三人が」
「朱莉さんが好きなんです。朱莉さんじゃないとだめだと思ったから……」
郁哉さんがあたしに寄り添って、いきなり唇にキスした。
「そうだ、初めて会った時に心を奪われた。あれからお前のことばかり考えてる」
天使……。矢島君があたしの首筋に唇を寄せた。
頭の中が溶けそう。なんだか腰が変。砕けそう。
「あなたはほかの女性とちがう。僕だけがそのことを知ってるんです」
八尋君があたしの耳元でそう囁いて口づける。
あたしはへなへなとへたり込んでしまった。ふにゃあ。もうだめ。立てない。三人のフェロモンに当てられた感じ。
「大丈夫?」
「あそこのソファに」
軽々とあたしを抱え上げる矢島君。ものすごく近くに天使みたいな綺麗な顔が……。そんでもってあたしを心配そうにのぞき込んでる。
こんな調子で選ぶまでずっと三人に愛の告白されるなんて。耐えられない。あたしは平凡に、平穏な、そんな恋がお似合いのはずなのに……。
梅雨明けに届いた招待状から、こんなにもあたしの人生は変わった。これからも変わり続けるかもしれない予感を残しつつ……。




