だれを選ぶの?
あたしが連れてこられたのはセレブさんのよく通う赤金通り。そこの一軒のブティックに入った。
綺麗な女性がイブニングドレスを何着も持ってくる。
「お嬢様、胸が豊かで綺麗ですから、イブニングが大変よくお似合いですよ」
バラ色の腰にドレープが効いたドレスを着せられた。三人が私のその姿を見た。
「ぶっ」
天使がまた鼻を押さえてうずくまった。イメージ崩れるなぁ……。天使ってむっつりスケベなの?
「わぁ、なんかこう見えそうで見えないところがすごい、きれいです!」
なにが見えそうなの~~~! すごい気になるじゃん、八尋君!
「とてもよく似合う。白い肌にバラ色。匂い立つようです」
うは、郁哉さんにそんなこと言われるとゾクッとくる。
それから美容室に連れていかれて髪をセット。なんだか、あたしじゃないみたい……。お姫様みたいにきれいに飾りつけられたあたしが鏡の中にいる……。
「お待ちしておりました」
外に出ると、井上さんがリムジンの前に立ってた。おじい様も乗ってる。
「朱莉さん、きれいじゃあ!」
なんかしらんけど、おじい様は涙腺が壊れたみたい。おいおい泣きだした。
井上さんの運転するリムジンに乗り込み、あたしは港に連れてこられた。
「クルージング・ディナー……」
「そう、僕の店の主催です。パーティがあるので、皆さんもお招きして、そこで朱莉さんとダンスを踊った人が朱莉さんとお付き合いすることにしたんです」
「またかってな……。あ、あたしは……」
「まぁまぁ、朱莉さん、固く考えずに普通に楽しみなされ」
おじい様はニコニコと笑った。そんなこと言いましても……。
船内にはもう人がたくさんいた。みんな正装している。気がつくとみんなはいなくなってた。あたしは物珍しさから線内の様子を一人で見て回ってた。
オレンジ色の優しい灯火が船内を照らしている。丸テーブルの上には立食用のオードブルが並べられている。和洋中華全種類あるみたい。一つつまんでみたらおいしかった。
八尋君はこんなにおいしい料理を作る店をもっと大きくしたい野心があるんだな……。
「朱莉さん」
おじい様に声をかけられて、あたしは振り向いた。
おじい様が一人の女性を連れている。すっきりとした体のラインがすごくきれい。紫色の渋いイブニングを優雅に着こなしている。
あたしはその女性の顔を見て、声も出ないくらい驚いた。
「お、お母さん……!」
「朱莉……!」
あたしたちは駆け寄って、お互いの体を抱きしめあった。ぎゅーと抱きしめていて思った。
「おかあさん、痩せた……」
「うん。ごめんね、半年もごめんね」
「ううん、おかあさん、おかあさん!」
お化粧が落ちるのも気にしないであたしは大泣きした。
お母さんが生きてた。
「お父さんは……?」
聞かなくてもわかってる……。でも、聞かずにはいられなかった。
お母さんは優しげな笑みを浮かべて答えた。
「お父さんは今リハビリ中よ……。ひどい事故で同じ病院に収容されていたけれど、お父さんは昏睡状態で、お母さんは事故が原因で記憶がなくなってたのよ……。やっと思い出して……」
「お父さん、生きてるのね……」
お父さんは事故で大変らしい……。でも、二人とも生きてたんだ……。
「さ、朱莉、皆さんが来たわよ」
振り向くと、タキシードを着た三人が立っていた。
三人ともかっこいい……。天使は白タキシードは異常に似合う。八尋君は渋いダークグレーのタキシード。オーソドックスな黒は郁哉さん。
三人がいきなりひざまずいてあたしに手を差し伸べた。
「朱莉さん、私と踊ってください」
えええ? いきなりそんな……。三人の手を選ぶことができないまま、あたしは固まった。




