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気がつけば

 雨の中、走りながら、あたしはなんてバカなんだって自分を罵ってた。放っておけばいいのに。まさかぬれ鼠になってるなんてことはないのに。三人ともいいとこのボンボンなんだから。

 それなのに、頭の中で数時間も立ちっぱなしで待ってる三人の姿が浮かんでくる。

 息が切れて足が痛くなった。横腹に差し込みが走る。もうすぐ、校門。この坂の向こう側に三人がいる。

 あたしは最期の力を振り絞って走った。

「あ、は……」

 三人はいなかった。

 そうだよね……。

 いるはずない。

 だって何時間放ってたと思ってんの?

 まともな神経をもった人間なら激怒してる。少なくともあたしは怒ってるよ。

 でもそのほうがいい。

 そう思ったらすごく胸が苦しくなった。まるで、おいてきぼりをくらった子供みたいにさびしくなった。

 お父さんとお母さんの遺品が届いた日みたいに、あたしだけが世界に取り残されたみたいな気分になった。

「うっ、ぅぐっ」

 あたしを置いてかないで……。あたしを一人にしないで……。

 涙が止まらない。なんで? 恋愛なんて当分いいって思ってるくせに。それなのに、きらわれたか持って思った途端にさびしいだなんて、調子がよすぎる。なんて自分勝手で、酷い奴なんだ。

 あたしは服がぬれるのもかまわずしゃがみこんで泣いた。

「……」

 雨の音に混じって人の気配がする。

「東雲……、朱莉さん……。朱莉先輩」

 ハッとして目を手の甲でごしごしこすると、何でもないかのように立ち上がった。

 振り向くと、傘を差した三人があたしの背後に立っている。

「どうしたんです」

「え、あ……、その」

「あ、傘……」

「俺たちにか?」

 なんて答えていいかわからず、うつむいた。路面がぬれてガラスのようだ。みんなの影がくっきりと映る。

「ご、ごめんなさい」

 あたしは、ずっと言わなかった言葉を口にした。

「ごめんなさい! あたし、すっぽかして……。それに、ずっと答えなくて……」

 勇気を振り絞った。罵られると思う。だってこれだけ振り回したんだもん。

「なに、いってんだ。迷って当然だ」

「そうですね。三人ともいい男だから迷うんですよ」

「そのほうが争いがいがあります!」

 ふはははは、と不敵な笑いが三人から巻き起こる。

 なんだか、ほほえましくなってきて、わたしは笑った。

「あは、朱莉さんは笑ってた方がいいです」

「うん、東雲はあほな顔してるほうがらしい」

「よかった、笑ってるほうが素敵ですよ」

 でも、今日一日は無駄に過ぎてしまった。

「ぼくの車の中で交友を深めてたんです」

「なかなか楽しいひと時でした」

「とりあえず今は停戦だ」

「そっか……」

 しかし、三人はにこにこ笑いながら意味ありげに朱莉を見つめる。

「で、朱莉さん、すっぽかしたお詫びに僕たちにつきあってください」

「へ?」

「うん、いい男を三人ほったらかした償いをしてもらう」

「ちょ」

「そうですよ、いやだとはいわせませんからね」

「ひえぇ」

 三人に引きずられて、あたしは拉致られた。一体どこに連れて行かれるのか、想像もつかない。

 だけど、確かにあたしはそんな状況を楽しんでいるのだった。


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