表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

一人ぼっちの週末

 夕飯をいつものように家族で食べていたら、おじい様があたしに言った。

「来週明けに朱莉さんが喜ぶお客様を連れてくるよ」

「?」

「楽しみにまっとれよ~」

 

 そう言えば、おじい様もいつになく楽しそうだ。あたしが喜ぶ来客なんてどこにもいないのに……。まさか、また新たなる婚約者なんて言わないでしょうね? そうなったらどうしよう……。今でさえ、手に余ってるのに、これ以上増えられると困る。

 あたしはますます憂鬱になった。

 明日はとうとう週末。約束の日なのだ。行きたくない……。いや、いかなければいいんだ。無責任だってなじられていい。誰が好きだなんてわからないのに、誰かを選ぶことのほうがよくない気がする。

 あたしは自分の部屋に引っ込んでも悶々と明日のことで悩んでいた。

 郁哉さんは年上の魅力や、ふと見せる甘えん坊なところが惹かれた。

 天使……、もとい、矢島君は何と言うか男らしいところがなんか気になる。意外に気が合いそうな気がする。

 八尋君はかわいい半面、小悪魔的なSっぽいところがあってドキドキさせられる。

 三者三様。もともとあたし自身恋愛にそんなに興味なかったし、両親を亡くしてまだ一年もたってない。どっちかっていうと喪に服したい気分ではある。恋愛に浮かれたら何となく後ろめたい。お父さん、お母さんのことを忘れてしまうようで、怖い。

 明日はすっぽかそう。

 あたしはそう心に決めた。


 朝の食事はいつも通りオーソドックスに卵焼き、サケの切り身、味噌汁。あとは気分によってお惣菜。

 

 ここにきてから毎朝食事を作るのも慣れてきた。賄いもいっしょだから結構大量に作ることになる。この屋敷にいたらみんな家族だ。ホテルのシェフには悪いけど、あたしのそんな豪勢な料理は無縁だ。

 あたしが料理を作るようになって、まず、おじい様が痩せた。ついでにお手伝いさんもやせた。今は一緒にご飯を作ってる。お母さんみたいに料理を教えてくれたりする。あたしが知らない料理があると知ったときはすごく張り切ってる。

 やっと今の生活に慣れた。お父さんとお母さんのいない新しい生活。今はここまでの幸せでいい。

 恋愛はもっとずっと先でいい。お父さんお母さんのことを忘れられたら……。ううん、忘れられないだろうけど……。今じゃない、いつか。

 いつの間にか時計は九時を過ぎた。窓の外は曇り空だ。雨が今にも降ってきそう。

 いかないって決めたんだから、気にしたらだめだ。

 そう心に決めて、いつもは後回しの勉強に手をつける。気づくと十時半過ぎ。窓の外は土砂降りだ。

 お昼作らなきゃ……。何せ賄い含めて十人分ある。買い物は任せてるから後は材料見て決めるだけ。

 でもなんだか、外が気になる。時計も何度も見てしまう。

 あたしは頭を振ってあの三人のことを思考から追い出そうとした。

 一本釣りのマグロを必死で三枚に下ろしてる時も、まぐろのかまで大根を煮てる時も、まぐろの鯉濃風を赤だしで作ってるときも、何度も時計を見た。

 十二時が過ぎて、テーブルに食事を並べても、あんまり食欲がわかない。

 窓の外の天気はさらに荒れている。何度稲光を見たことか。

 だけど、いかないって決めた……。意地でもいかない……。いかないんだから!

 それなのにあたしは、傘を三本持って、雨の中飛び出していったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ