両親の訃報
1 両親の訃報
それは五月の連休のことだった。
あたしは結婚式を挙げたことのない両親にバイトでためたお金で旅行をプレゼントしたのだ。
それが――
遺品がヒノキの箱に入れられて警察に届いたという知らせを聞いた。骨は残らなかった。
東南アジア行きの小さな旅客機は海の藻屑になった。かろうじて見つかったのは、父と母の名札。おそらく旅行鞄に取りつけられた旅行会社が配布したもの。
あたしは、その黒焦げた名札を抱きしめて泣いた。
あたしは飯島朱莉。五月連休明けから天涯孤独です。
両親は駆け落ちしてあたしを生んだ。どちらの家族の話も聞いたことない。昔聞いたらすごく悲しい顔をしたから、それ以上聞けなかった。
今は落ち込んで元気ないけど、元来明るい方、かな?
気持ちは全部日記に書くタイプ。訃報を聞いてからはかけなかったけど。
学校はやめないといけないと思って、今日退学届を出しました。もう十八だから仕事はすぐに見つかると思うんだ。
働くのは嫌いじゃない。料理専門学校に行きたかったけど、無理っぽい。働きながらでも行けるところがあればいいな。
さっきまで高校の友達とマックでお別れパーティでした。今はバスの中。もう明日から学校行かなくていいんだな……。
家に帰ってくると、寂しさが強くなる。2Kの狭い古いアパート。父と母の衣装。父は英語ペラペラで、家庭教師や塾で働いてた。母はフラワーアレンジメントの資格があって、花屋に勤めてた。そんな母の代わりにわたしが家事をこなしてた。
家事大好き。今時珍しいけど。テレビに出てる松井さんを尊敬してる。家族の幸せのために何かするって大切なことって教えてくれたのは両親。だけど、もういない。
厭な夢見ました。テレビで旅客機が墜落したときの繰り返し。お父さん、お母さん、ごめんなさい。あたしがあなたたちを殺したんだ。赦されないことだね。厭な夢を見るのはあたしへの罰だ……。
もうあたしの言葉は届かない。一方通行なんだ。ごめんなさいごめんなさい。
もう一度、会いたいよ……。
そんな毎日の繰り返しの中、あたしがやっと立ち直ったのは二カ月過ぎた梅雨明けだった。