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それも、愛

作者: あいざわ
掲載日:2014/03/06

彼女は笑った。

そして泣いた。

嬉しそうに悲しそうに。白く細い手を真っ赤に染めて。

その場に崩れ落ちた華奢な身体を見下ろして男は緩やかに笑う。

香る硝煙の煙。ビルの間の細い路地には街を輝かせるネオンの光は差し込まない。

彼女の身体はまるで闇に溶けるように深く沈んだ。

決して愛されないことを彼女は知っていた。

男の経歴も素性もすべて仮初のもので。

囁く愛も優しさもすべて偽物。彼女を油断させるために、彼女に近づくために用意された偽物。

そんな男に彼女は恋をした。偽物だと知りながらその偽物に。


本物か偽物か。


それは彼女にとってどうでもよかった。偽物の男に恋をして、偽物の男の立ち振る舞いに心を惹かれて、偽物に愛されたいと願った。

もしも男が本物に戻ったところで彼女は愛さなかっただろう。

彼女は男が本物に戻ることを拒んだ。だからこそ偽物に、偽物のまま殺されることを望んだ。

たとえ男が本物に戻った瞬間、偽物は存在そのものが消えてしまうとわかっていても。

だから男に殺される瞬間も彼女は男を愛した。ただ一言「愛している」と。


偽物が消え、偽物の心が愛した彼女への愛が消える。けれど偽物が愛した人はただひとり。

それだけで彼女は満足だった。

命の途絶えた顔はひどく満たされていた。

幸せそうに夢心地で。


「俺も愛してるよ」


穏やかな声が硝煙とともに闇に消える。散々囁いた言葉は届ける相手を失っていた。

男は転がる死体に背を向ける。偽物の時間は終わった。

ネオンの光に目を細め、男は歩き出す。

男の顔から表情は消えていた。


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[一言] 詩じゃん
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