表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

声が届いた日。

作者: 柊玲雄

「っっ!・・・」


・・・とれない。

なんで真ん中の棚より三段も上にあるんだろう?

というか、どうして5段も棚を作るんだろ・・・。

小さい人のこと考えてる?ね、考えてないよね?

台もなんでこんなに低いの?え、なんで・・・。


__「命の声」と書かれた金色の文字が、日光に反射してキラリと光る。

あたりは薄暗い。けど、そこだけ、近場の窓から日光がもれていた。

そんな中、私、ひいらぎ風羽ふうは、低身長な体をぐっと伸ばして、5段目でキラリと光る「命の声」という本を、必死で取っている。


・・・未遂で終わってるんですけど。


何分かずっと手を伸ばして体を伸ばしていると、不意に後ろからスッ...と長い手が伸びてきて、私が取ろうとしていた本を余裕でとっていった。


一瞬頭が思考停止したが、はたと急に動き回りだす。

バッと後ろを向くと、そこには、日光に照らされて艶やかに光る茶色っ毛がとてもしっくりくる、とても優しい笑顔の男性が立っていた。


えっと・・・学ランってことは、男性じゃなくて、男子・・・かな?


「これであってるか?」


そういって差し出された本を、まじまじと見つめる。


「あ、ごめん、みすった?」


そういわれ、私はあわてて首を横に振る。

まじまじ見つめてたのは、取ってくれたことを不思議に思っただけで・・・。


「そっか、はい、どうぞ。ここの本棚、ほんっと高いよな。まぁ男は届くにしても、女じゃそらーとどかねーってんだ。な?」


な?・・・っと、いわれても。


一応首を縦に振ると、今度は本をとってくれた、茶色っ毛の人が首をかしげた。


「んー・・・。もしかして、声、出せない?」


そういわれ、びくっと肩をあげてしまった。


し、しまった・・・!!


「あ、やっぱりか」


ば・・・ばれた・・・。


...そう。私は、声が出せない。


__5年前。

私は、家族が殺される現場を、見てしまった。

母、父、兄・・・順序良く、殺されていく。

血で私の顔や服は赤色へと染まる。

どんどん、周りが真っ赤な世界へと、変わっていく。

私は、ぎりぎりのところで殺されなかった。警察がきてしまった。


そこから私は、ショックで、『失声症しっせいしょう』というもの、声帯の狂いを犯した。


恐る恐る、下げていた視線をその人へあげると、その人は何かを考えていた。


「ね、君、その制服ってことは カガリヤ高校だよな?」


そう急に言われ、ゆっくりうなずくと、その人は「おっし、ビンゴ!!」と指を鳴らした。


「俺もカガリヤなんだ!ほら、この学ラン見たことあるだろ?」


・・・そういえば見たことある。というか、毎日のように見てる。


別に見たくもないけども・・・。


一応首を立てに振ると、その人は嬉しそうに笑った。


「だよな!あ、そうだ、話せないんなら、書けばいいよな?筆談でどうだ?」


そういわれ、私は驚いた。


筆談、か・・・。思いもつかなかった。

とにかく、必死に自分のジェスチャーで伝えていたし・・・。


「そこにメモとペンあるよな。よし、いこうぜ」


男子生徒は、私の手をつかんで、読書場へ小走りした。

そこの青い椅子に腰掛けると、男子生徒は早々とメモとペンを私の目の前に置いた。


「俺の名前は塚平つかひらかなで。高2」


高2、ってことは、先輩か。

あ、え、私今先輩と話してるのか!?

お、おあー・・・緊張するなぁ・・・。超今更だけど・・・。


私は紙に中ぐらいの字で、


ひいらぎ風羽ふうです。高1なので、先輩ですね』


「風羽、か。なんか、ふわふわした名前だな」


そういって、『あなたのほうがふわふわしてます』と言いたいほどの、かわいらしい笑みを浮かべる塚平先輩。


「いやー、図書館入ってさ、適当に本漁ってたら、なんか絶対届かないのに頑張ってあの本取ろうとしてる風羽見つけて、思わず笑ったっての。ふわふわな髪がぴょんぴょんしてたぞ」


そういわれ、少し恥ずかしくなる。


『だって、台にのっても届きませんし・・・』

「ちっちゃいなー?何センチ?」

『えっと、152cm・・・あったかどうか・・・』

「なにそれ、ちっちぇ。可愛いな」


か、可愛い?!

そんなの初めて言われた・・・。


「部活とか入ってる?」

『ああ、いえ。声出せないし、コミュニケーションっていうものが取れないので、完全に帰宅部です。毎日図書館通いですよ』

「そうか。やっぱ大変だな」

『まぁ、慣れましたけどね。授業もなにもかも、個別ですし』


そう、少し皮肉気味に書いてみた。

伝わんないだろうけどね。


「授業まで個別!?うっわー・・・ぜんっぜんおもんねーじゃん」

『気を使うよりましですよ。正直、先生に気を使うのもいやですし』

「それはそうなのかもなぁ。あ、そーだいいこと思いついた!明日から俺と一緒にかえんね?意外と俺、帰りしだけは無駄に暇でさぁ。部活、ハンドボールなんだけど、ハンドボールのやつら全員変える方向俺の真逆だし。どう?」


どう?・・・って、言われてもなぁ・・・。

実は、あんまり人と帰るのは好きじゃない。

そりゃ、こういう筆談っていう会話はあるし、いつものジェスチャーもあるけど、なんかやっぱり妙に気を使ってしまう。ついでには気を使われてしまう。

だから、基本一人で帰りたい。そんで、帰りついでにここの図書館に寄るんだ。


「あぁ・・・やっぱ嫌か?」

『あんまり私にかかわらないほうがいいですよ?ろくなことありませんし。というか、どうして私にここまで優しくしてくれるんですか?よくわかりません』

「え、あぁ・・・なんでだろうな?なんか、すごい守ってやりたいって思っちまって」


首をかしげると、塚平先輩はクスッと小さく笑って、


「一瞬で惚れたのかもな、お前に」


と平然と言った。


ほ、ほ、惚れた・・・・!?え!?


「ははっ!声でない代わりに、表情豊かだな。いいことだ」


そういって、私の頬をむにゅっとつっつく。

ちょ、や、やめい!


「頬をぷにぷにだなー。てか、色__」

「あっれ?奏じゃん。なにしてんの?」


塚平先輩の声をさえぎって、不意に後ろから声がした。

バッと振り返ると、そこには赤色に近い茶色に髪を染め上げた、・・・そう、世に言う不良といわれそうな人が立っていた。

学ラン全開。耳にピアス、カラコンと思わしき赤色の目。


「図書館にて雑談中。見て分かるだろ」

「へぇ、雑談な。でも、隣の子、声でない子じゃん」


そういってニヤリと不適にその人は笑った。


__血の気が、引いた。


なんだろうか・・・。人が、そう不適に笑うと、あのときを思い出す。


思わず、塚平先輩の学ランの裾をつかんでいた。


「風羽?」


横に首を振ると、塚平先輩は察してくれて、


「來也、とりあえず今取り込み中だから、帰ってくれる?話なら夜にでも聞いてやるよ」

「取り込み中ねぇ・・・?」


そういって私をニヤニヤと見てくるその目が怖くて、思わず目線を落とした。


怖い、怖い、怖い・・・。


どうして、そんな風に笑うんだろうか。

もっとふわりと笑ってはくれないのだろうか。


怖い・・・。どうして、そんなに怖く笑うの・・・。


「風羽・・・、どうした?震えてんぞ・・・?!」


しらない間に震えていた私の体に気づいて、塚平先輩は私の肩をつかむ。


「落ちつけ。な?ほら、ゆっくり息吸って」


スーッ...と息を吸うけれど、全然すった感覚がなく、やはり震えがとまらない。

ふと、その不良の後ろ向こうを見ると、仲間と思わしき人がたくさん見えた。


な、んで・・・そんなたくさんいるの・・・。

皆、笑顔が怖いよ・・・っ。


「來也、とにかくお前は帰れ!速く!」

「はぁ?なんで~?奏が見えたから奏を誘いにきた__」

「いいから帰れ!!俺の言うことがきけねーのか!!」


図書館だということも踏まえて、小声ではあるけど、塚平先輩は迫力ある声で叫んだ。

不良・・・来也という人は、「ひっ」と声を上げると、「ご、ごめん!」といってあわあわと逃げていった。


「はぁ・・・。風羽、大丈夫か?」


いまだ震えのとまらない私に声をかける先輩。

私は、手が震えて字が書けなかった。


「大丈夫、あいつらもう行ったから。なにがどうなってんのか、俺には把握できねーけど、とりあえず落ち着こう、な?」


そういって、私をふわりと抱きしめる先輩。


__今日あったばかりの、声が出ないわけのわからない女子高生を抱きしめる、なんて。

塚平先輩には申し訳ない。

けれど・・・けど、あの光景は、私にとって、とてもじゃないけど震えざる得なかった。


奇妙に気持ち悪く笑うその表情。今すぐにでも誰かを陥れようとニタニタと笑う。


あの時・・・、両親兄弟が殺されたときの、・・・両親兄弟を殺した犯人の顔と同じような顔だ。


「今日はもう帰るか。家まで送ってく」


抱きしめるのをやめて、先輩は笑顔でそういった。

私はどう返事していいかわからず、とりあえず震えがとまった手にペンを握って


『いいんですか』


とだけ書いた。


「いいんですかもなにも、こんなに震える風羽を放っておけるほど、薄情なやからじゃねーよ、俺は」


そういって、ははっと笑った先輩。


「さ、行くか。道教えてくれよ」


先輩はすくっと立ち上がり、私に手を差し出した。

首をかしげると、「今立てる状況じゃなかったり」といわれて、立とうとしたら本当に腰が抜けていた。


「な?」


ニヒヒッと笑う先輩。

差し出された手に甘えて立ち上がると、本がコトッと音を立てて下に落ちた。


「あぁ、本借りねーとだ。ほいよ、借りといで」


そういわれ渡された本を受け取って、受付へ小走りで持っていく。


「命の本、返却日は一週間後になります」


司書さんに頭を下げて、先輩のもとに戻ると「いくか」と言って私の前を歩き出した。


夕日に照らされる塚平先輩は、とても綺麗だ。

茶色っ毛が夕日に照らされて、赤っぽくなっている。

それでもしっくりくるときたら、もはやなんだか不思議。


「ん?どした、俺の髪、なんか変?」


ぱっと後ろを振り向いた塚平先輩が首をかしげる。

私は横に首振って、筆談が出来ない分、にこりと笑いながら髪をさして、口パクで


『あかいろがきれいです』


と言ってみると、案外伝わったらしく、


「さんきゅ、俺の自慢の髪」


そういって、ニッと笑った。


******


ジリリリリリリと、目覚ましがうるさい。

まだ寝ていたい・・・起きたくないと自分の心は思うものの、頭は大真面目で、「早くおきろ」といらない指示を心に送ってくださる。正直いらない。


あー眠い・・・。


あくびをしながら一階に降りて、朝食の準備(と言いつつパンをトースターで焼くだけ)を済ませて、焼いている間に制服に着替える。

カガ高の制服は、珍しくピンク色のリボンのセーラー服。

水色のラインが手首あたりの裾に入っていて、スカート色も少し暗めの水色。


チーンと軽やかにトースターが音を鳴らし、私はパンを取り出す。

バターを塗って、チーズとハムをのせて食べるというのが私の朝ごはん。飲み物はオレンジジュース。牛乳が嫌いだから身長が伸びなかったという説はあるけど、そ、そんなことない、はず!


10分ほどで食べ終わって、かばんを準備して、いざ学校へ。


学校までは徒歩で15分。近場の高校を選んだのは、自転車通学や電車通学を避けるため。


いってきますと、誰もいない家に心の中で言って、家を出る。

カギを閉めて玄関先に目を向けると、そこには見知った顔があった。


「よ、おはよ」


__そこには、塚平先輩が、にこやかに塀に寄りかかっていた。


・・・え、なんで?!


「なんで?って顔だな。まぁそう思うわな」


そういいながら、歩き出す。私はその隣に小走りでつくと、先輩が少し恥ずかしそうに笑った。


「なんかやっぱ、風羽のこと放っとけなくてさ。危なっかしいっての?まぁ、守ってやりたいって思ってな」


先輩は自分の髪をくしゃくしゃとしながら言った・


こ、こんなこと言われたの、初めてだ。

身内にさえ、そんなことを言われたことはなかった。


…あたりまえ、だよね。


私はかばんの中からメモとペンを取り出して、不安定な状態だけどペンを走らせた。

バッと先輩に差し出すと、塚平先輩は嬉しそうに笑ってくれた。


『うれしいです、ありがとうございます!』

「そ、その笑顔がいい」


そういって私の頬をまたぷにぷにする先輩。


ちょ、ぷにぷにやめい!


「肌白いよなぁ。体育とってねーのか?」


聞かれて私は首を横に振る。

体育だけは出ている。レポートではどうしても点数を稼ぐことが出来ないから。


「へぇ、得意なスポーツとかあるのか?」


私は聞かれて迷う。


んー・・・得意、といえるほどのものではないけど、一応陸上はリレー意外なら得意ではある。

つまりは、声を出さない種目。


『陸上きょうぎは、まだとくいですよ。声がいらないきょうぎ全ぱんですかね』


書きながら苦笑いすると、塚平先輩は「いいなぁ」となぜかうらやましがった。

不思議に思って首をかしげると、


「いやぁ、俺、足はあんま早くねーからいいなぁって思って。ハンドボールっつったらあれだからな、跳躍力と腕筋ぐらいだしな、いるの」


そういえばハンドボールはこう、ゴールのときにブワッと飛んでボールをぶっ飛ばしてる。

あれはほんとすごいと思う。なんであんなに飛べるのかさえ疑問でならない。


『ハンドボールもすごいですよ!なんであんなに跳べるんですか?』


真面目にきいたはずなのに、先輩は「プハッ」と笑いをもらした。


「あははっ!そこに疑問もっちゃうか。そこは聞かれても困るんだけど、しいていやぁ、とにかく跳躍力っつーもんを鍛える練習してるからだな」


その後「元々跳躍力が高い奴らはホントうらやましいってもんだ」と少し寂しそうに呟いた。


『でも、元々できちゃうより、努力してできるようになる方が格好いいですよ』


目をしっかりみて伝えてみると、塚平先輩は、


「風羽、いいこと言うな!!」


そういって頭をわしゃわしゃされる。


「俺、もっと頑張ろうって思ったわ!あ、そうだ。帰り、よかったらハンドボール覗きにきてくんね?風羽がきたらおれ超やる気でるし!」


グッと腕に力を込める塚平先輩。

私は笑って、親指と人差し指をくっつけて「ok」とつくってみせた。


そんな話をしているころには、正門についていて、生徒の声が賑わう。


「んじゃ、俺の校舎こっちだし行くな。またな!」


頷いて見送って、私も自分の校舎へと向かう。

1年校舎と2年校舎は全く真反対の方にあり、3年校舎はその1.2年校舎にはさまれるように立っている。


私は、自分のクラスである2-Aには向かわず、別室…3階の一番奥の部屋である、【特別授業室】という部屋へ向かう。

2階までは生徒のざわざわが耳をたくさん通るけど、3階に上がったとたん、その音は消える。

私の足音しかきこえない、静寂である。


ガラッと扉を開けると、いつもの先生….が、いると思った。


けど、違った。


「よぉ、柊ちゃーん」


そこには、塚平先輩に昨日追い返された・・・あの、不良が立っていた。


なんで・・・?なんでいるのっ?!


「なんでいるですかぁって顔だなぁ。あぁおもしろい。面白いったらありゃしねー!!」


そういって狂ったように笑うその人の目が、少し血走ってることに気づく。

ニッと見せた歯は….溶けていた。


も、しかして・・・この人….。


「お前の家族って、ころされたらしいなぁ?あ、しってるか。それ殺したの、俺の身内なんだぜ?聞いたときは驚いたけどよぉ、なんだかんだ言って、しかたねぇなぁとかおもっちゃってよぉ」


なにが、言いたいの・・・?

この人の身内が、あの犯人・・・?


意味が分からない。

犯罪者と血の繋がる子がここにいるってこと?


「まぁそんなことはどうでもいいとして。いやぁ、柊ちゃん、可愛い顔してるよなぁ~」


そういって、にやにやしながら私に近寄ってくる。

私は一歩一歩後ろに下がって、どんっとドアにぶつかる。


逃げないと・・・!逃げないと、だめなのに・・・。


足がすくんで、動けない。


「いやぁ俺も最近ヤってなかったから、欲求不満なのよぉ。ほらぁ、やさしくしてやるからヤろうぜ」


私は精一杯首を横に振る。


いやだいやだと、心で唱え続ける。


その人の手が私の髪をぐっと引っ張る。

痛さに顔がゆがんで、髪が引っ張られた衝動で床に倒れる。


「お、なんだいきなり俺に服従?いい子だわぁ」


違う・・・!違う違う違う・・・!!


怖いよ・・・どうしてこんなことになってるの?

わからない・・・なんで、なんで・・・!!


__助けて….


目を瞑って、そう心の中で叫んだときだった。


ガタンッと後ろから思いっきり音がした。

振り向けない私は、不良の顔を見上げて驚いた。


その人は、目を見開いてがくがくと震えていたのだ。


「お、おおおおおま・・・なんであ、、あうううう!!!」


髪を引っ張る手を離し、部屋の隅へといそいそと逃げていく。


その直後、私は後ろからふわりと抱きしめられた。


「ごめん、遅れた」


そう耳でささやかれた。

声の正体は、塚平先輩。茶色っ毛が私の頬をかすめる。


「また震えてる。大丈夫、俺がいるよ」


そういわれて、私は衝動的に塚平先輩の学ランをギュッとつかんでいた。


「もう大丈夫だから。ちょっとまっててな」


塚平先輩は私からスッ…と、音も立てず離れて、私に学ランをかぶせた。

ふわりとかぶせられたそれからは、塚平先輩の甘い香りがする。

・・・と、思った直後、後ろから『ゴキッバキッ』と物凄い音が聞こえたのは気のせいだろうか・・・。


「來也。俺に殺されるか、そこから飛び降りるか、警察に行くか・・・どれがいい」


塚平先輩の声は、いつもの優しい声音ではなく、底冷えした冷たく重いトーンだった。


「お、おおおおれは、し、しししにたくない!だだだだ・・・・」

「あ?なにいってるか分かんねーよ。3択だ、選べ」

「お、おおおおれはなにも・・・!」

「はぁ?!てめぇ、シンナー吸ってるからこんなことになってんだろ?!前のお前は人を悲しませるようなことしなかったよなぁ?!覚えてもねーのかよ、なっさけねぇ」


塚平先輩ははき捨てるように言う。


「お、お、鬼だ!鬼が見える!いやだ、いやだぁぁぁああああ!!」

「狂って見えてるだけだろ阿呆!自首しろ、俺から言うのはごめんだ」


不良の腕を掴んで、塚平先輩は不良のケータイをポケットから出す。

110と番号を押して、発信ボタンを押そうとしたそのとき。


「ふっ・・・警察に行くのもまっぴらごめんだ!」

「なっ?!うぐっっ….」


不良は塚平先輩を突き飛ばして、廊下に飛び出していく。


私は倒れる先輩にかけよって、うめく先輩を起こそうとした。


…え?

なん、で、赤色の、液体?

赤?・・・血?


私は自分の手にねっちょりとついた血に、頭がくらむ。


先輩がおなかを抑えていたのは、さされた箇所だった。

私はどうしたらいいかわからず、ただそこにハンカチを当てて抑える。


どうしよう!どうしよう!また・・・また人が目の前で死んでしまう・・・。

どうにかしなきゃ・・・救急車?けど、そんなの遅くて待っていられない。

じゃぁ止血方法は?止血方法、とにかく抑えるしかないよね。

いや待って。ここ、近くに病院あるよね?あったよね!!


私は覚悟を決める。


震える足を踏ん張る。震える手をぐっと我慢して、私の鞄の中にあったタオルを、刺された箇所において、教室にあった紐でぎゅっと縛る。


「いっ・・・・て・・・」


先輩のうめき声に、紐を緩めそうだったけれど、そうはいかない。


うめく先輩を起き上がらせて、私は背中に担ぐ。


「ふ….う…い、い・・・ほうって・・・」


私は懸命に首を横に振る。


放っておけるわけない!誰が、死に掛けの人を放っておけるの!!


私は精一杯、口パクで伝えた。


『いきて』


ただそれだけを願って、私は廊下に飛び出す。


ほかの生徒に見つかるとどうなるか分かったものじゃない。

私は、教室と真反対に位置する非常階段へと走る。

足が長い先輩は、廊下に足が擦ってしまうけど、それはあとで謝ろう。


非常階段にたどりつき、ひたすら階段を下る。


先輩ごめん。足先痛いかもだけど、ちょっと我慢してね。


そう心の中で呟いて、私は今使える本気で非常階段を下る。


学校から病院まで、400mぐらいだ。

大丈夫、私の体力なら、大丈夫。

ダテに毎日、本をとるためにとんじゃぁいない。

きっとこういうことに使えるから、司書さんたちはあそこにおいてくれたんだ。きっとそうだ。


そんなことを考えながら、門番の人の「どこへ!?」という言葉をスルーして病院へと走る。


走って、走って、走って。

歩かない、歩いたって助からない。


10分ほどかかってついた病院の、救急入り口へ飛び込む。


受付の方は驚いていて、「ど、どうしました?」と少しあたふたしていた。


声が出ない私は、塚平先輩をタオルで止血した部分を指差して、口パクで


『たすけて』


と紡ぐ。受付の人は、察してくれたらしく、「急いで医療チームに連絡いたします。応急処置はあちらでおこないますので、もう少し頑張ってください」と早口に言って、電話をかけはじめた。

私は塚平先輩を応急処置される部屋であろうところまで走る。

応急処置室をあけると、ぎょっと看護士や看護婦がこちらを凝視する。

すると後ろからバッと入ってきたさきほどの受付の人は、


「今すぐ応急処置をお願いします」


それだけ早口に伝えた。

看護士たちは考えるすきなく、「はい」と答えて、私が担ぐ塚平先輩を抱き上げて、ベットに乗せた。


「血の出血量が危ない。止血準備!」


指示をする人が叫ぶと、皆一斉に動き出す。


「後は私たちにまかせてください。あなたはこちらへ」


受付の人に促されて、救急棟のロビーのソファに腰掛ける。

と、同時、足の震えと手の震えが止まらなかった。

とにかく震えて、さっきまでなんだったんだーって感じで、私の体は震えだす。


血だらけの自分の服と手に、頭が眩む。


「すみません、お二人のお名前とご住所を教えていただけますか?」


そう不意に声をかけられ、顔をあげると、さっきの受付のお姉さんが優しい微笑みをしていた。

私はコクリと頷いて、自分のかばんからメモを出す。

自分の名前と、住所を書いてから、塚平先輩の名前をかいて首をかしげてしまった。


あ・・・だめだ、住所知らない。


「お相手の住所は分からなくても大丈夫ですよ。本人の目が覚め次第、お電話いたします」


そういってもらえて、私はホッとする。


「血がついたままじゃ、落ち着かないでしょうし、スタッフ用のシャワールームをお使いになりませんか?お洋服は、こちらで洗濯乾燥しますから」


にっこりと私にそういってくれた。

私は首をかしげて、メモにペンを走らせた。


『どうして、そこまでしてくれるんですか?』


・・・これ、塚平先輩の時も、聞いた気がするなぁ。

私は言葉のレパートリーが少ないみたい。


「だって、あなたが震えているんですもの。あなたが平然としていたなら、きっと私は、放ったらかしにしていたかもしれないわ」


そういってから、「それと」と付け足した。


「あなたが本当に必死に、あの方を助けてってお願いしてきたから。なんだか、私まで今感情的になっているのかもしれないわね」


と苦笑いした。


『やさしいですね』


それだけ書いて、私はペンを置いた。


「やさしいだなんて、私にはまだまだ早い言葉です。まだまだ全然、薄情者の域にいるような奴ですもの」


受付の人は、少しだけ寂しそうに笑った。


「さ、シャワー室へ案内いたします。あがってきた頃には、えーっと、塚平様もちゃんとした医師からの治療を受けているところでしょう」


そういわれて、私はコクリとひとつ頷く。


受付の人に手を貸してもらって立ち上がり、シャワー室へと促された。


******


血のついた手と、しらない間に血がついていた髪を洗い流す。

運んでるときについちゃったのかなぁとか思っていたら、扉の向こうから声がした。


「お洋服、制服でしたけど一応洗っておきました。あがられる頃には、かわいてますよ」


そう受付の方が声をかけてくれる。

私は、くもって、水滴で字が書けるようになってる扉に


『ありがとうございます』


そう綴って、また血落としに専念した。


******


すっきりした自分の体と服に、さっきの震えはましになっていた。

まだ、少し震えはあるのだけれど・・・。


「塚平様はもうすぐ処置が終わります。もう少しなので、少々お待ちください」


そういって、治療室から出てきた女の人が言う。

私はコクリと頷いて、一礼すると、その女の人は少し驚いた表情をしてから、ふっとなぜか優しげな表情になった。


「…命を助けてくださって、ありがとうございます」


女の人は優しい表情のままそういい、また治療室に戻っていった。


******


外の車の音も、廊下の音もまったく聞こえない。

とにかく静寂の中、ただ聞こえるのは、ピッ…ピッ…という、機械音。


塚平先輩は無事、治療を終えて、今個室の部屋のベットの上で眠っている。

酸素マスクはつけているものの、安からなその寝顔に安心していた。


本当に、無事でよかった。

助かってよかった。

…人が、死んでしまわなくてよかった。


思わず、塚平先輩の手に、自分の手を重ねてしまう。


塚平先輩・・・助けてくれて、本当にありがとうございます。

私、先輩に抱きしめられたとき、本当に落ち着いたんです。

温かさ心地よくて、震えていた体も少しましになってました。


塚平先輩….私__。


「ん・・・風、羽・・・?」


くぐもった声で名前を呼ばれて、ゆっくり顔を上げると、塚平先輩が目を覚ましていた。


私は急いでメモとペンをだして、メモにペンを走らせる。


『つかひら先輩!よかった・・・め、さめて・・・』

「あ、あぁ・・・て、か・・・ここは・・・」

『びょういんです。ちりょうも終わりました』

「治療・・・?あぁ・・・おれ、さされたんだっけ・・・。ってて・・・」


目を細めて、改めて傷口の痛さを痛感する先輩。


『全治2週間だそうですよ』

「2週間かぁ・・・」


少し苦しそうに言う先輩。


『やっぱり・・・部活とかが・・・』

「いんや、別に大丈夫だ。また追いつけばいい話」


そういって、マスク越しに少し笑った。


『あ、目覚めたらナースコールしてくださいって、お医者さんが』

「そうか、ごめん、届かないから、押してくれ」


苦笑いしながら先輩は言う。

私は少し笑って、ナースコールを押した。


2分ほどしたら、「コンコンッ」とノック音が部屋からして、お医者さんが入ってきた。


「目覚めましたか。よかったですね」


と、優しく微笑む。


私はメモにペンを走らせて、


『本当にありがとうございました』

「いえいえ。でも、あなたのあの止血がなければ、大量出血で亡くなられていたかもですよ」

『・・・え?!』

「本当です。あなたにはとても感謝しています。こちらこそ、ありがとう」


そういって、お医者さんは私の手を取って、もう一度微笑んだ。


私から離れると、今度は塚平先輩のもとへ行って、機械と塚平先輩を交互にみる。


「あなたは免疫力というか、生気力がとても強い。目覚めもはやければ、回復もはやい」


と、目を細めた。

塚平先輩は、少し自嘲気味に


「あざっす」


と一言だけ答えた。


「入院手続きそのほかもろもろ、その辺は親御さんに任せてよろしいですね?」

「はい、すいません」

「電話番号を教えてもらえますかね」


そういって、お医者さんは酸素マスクを外して、胸などにつけてあったものを全部取り払った。


「これで少しは楽になりましたかね。点滴等はまだ取れないですけど」

「そうですか・・・。まぁ、別にいいですけどね。あ、電話番号は__」


私は、お医者さんと塚平先輩の会話を聞きながら、いつの間にか自分のまぶたが重くなっていることに気づいて、直後には自分の意識という意識が、飛んでいた。


******


「ええ、そうねぇ。まぁとにかく無事でよかったけれどねぇ」

「まぁな。てかまぁ、助かったのはあいつのおかげだけど」

「ふふ、女の子に助けられるなんて、みっともないわね」

「いやいやいや。これは仕方ないっしょ」

「そーんなこと言っちゃって。ほれほれー」

「いって!てんめ、そこさわんな!いってぇよ!」


…誰だろう?


塚平先輩は分かる。・・・けど、もう一人の声は見知らぬ人。


ゆっくり目を開けると、そこには塚平先輩と….すごい美人な人が座っていた。


「あら、起きたわ」

「風羽。おはよ」


・・・え?


まてまてまて。

今どういう状況?


「状況把握ができなくてぐるぐるしてるみたいだけど・・・いいのかしら?」

「いやそれ母さんがいるからだろ」

「あ、私のせいなのね」


か・・・母さん?!?!

て、ことは・・・この美人さん、塚平先輩のお母さん?!


「驚きを隠しきれないって、まさにこういうことだな」

「そうね。可愛い反応してくれるじゃない」


いやいや、可愛い反応とかいやいやいや・・・。


「風羽、安心しな。俺の母親は平凡すぎてむしろ泣けるぐらいだ」


泣けるぐらい平凡!?いやまず、容姿が平凡じゃないですけど!


「あら、失礼ね。私、自分の容姿にはまだ自信があるのに」

「その歳でなにいってんだよ」


いや、ごもっともです。


「自分の母親がこんなに綺麗なことに感謝なさい?」

「いやだ」


そんな会話がおかしくて、私は思わず笑ってしまった。


「やーっと笑った。な?可愛いだろ、笑ってる顔」

「笑ってなくても可愛いと思ったけれど」

「あー・・・はいはい。うん、認める」


・・・え?

どういうことですか・・・。


首を傾げてみると、塚平先輩が頭を掻きながら、「まぁ気にすんな」と言った。


すこし、耳が赤いのは気のせいだろうか?


「やだこの子、照れちゃって。思春期?」

「とっくの昔からそうですけど」

「そうねぇ、3歳ごろからかしら?」

「はやくね?!」


なんか・・・、この二人の会話を聞いてると和むなぁ。

なんて思いながら聞いてると、ふと気になることを見つけてしまった。


・・・塚平先輩のお母さんは、私が話せないことをしっているのだろうか?


『塚平先輩のお母さん。・・・私が失声症だってこと、ご存知ですか』


そうペンを走らせて、見せてみると、塚平先輩のお母さんは、


「ええ、しってるわ。奏から聞いてね」

『そうでしたか』

「風羽さん。失声症はね、いつかどこかのタイミングで治るものと言われているわ。心配しなくても、いつか治るわよ」


この狂いは・・・いつか、治るの・・・?


私が声帯へと犯した罪は、治るんだ。


そう思うと、なぜか心が安堵した。


「よし、っと。私はそろそろ帰るわね。ちょくちょくお見舞いに来るけど、基本面倒だし来ないとおもうわ。それじゃ」

「うっわ薄情な親だなおい・・・。まぁ見舞いさんきゅ」


最後の最後まで楽しい会話をして、塚平先輩のお母さんは去っていった。


「さってと・・・。母さんやっとかえったわ・・・」


そういって先輩はコテン….とベットに横になった。


んー・・・。私ももう帰ったほうがいいよね?


『先輩、私もそろそろ帰ったほうがいいですかね』


メモを見せると、先輩は首をかしげた。


「ん?ここに泊まっていきゃいいんじゃねーの?風羽、家は誰もいないだろ」


そういわれ、私は思考を停止させる。


・・・・え?


『え?!』

「あー・・・やっぱうん、さすがに無理だよなぁ」

『え、えっと、その、べつにむりとかいやとかそんなんじゃなくて!!』


本当に無理とかいやとか言いたいんじゃなくて、こう、色々迷って必死に弁解すると、先輩はクククッと喉を鳴らして笑った。


「からかって悪いな。でも、風羽がいいなら、俺の隣にいてほしいとか思ったりしてな」


今度は、すごく真剣に言われて、私は目を奪われた。


・・・よく考えてみれば、断る理由なんてものは、なにひとつ見つからない。


しかも、ここの病室は泊まりもいい部屋になっている。


首を縦に、コクリとすると、先輩は満面の笑みで、


「ありがと」


と言ってくれた。


それがどうしても嬉しくて、私も笑う。


ふと、時計に目を移すと、もう21時を回っていた。


「そろそろ消灯時間だし・・・寝るか」


コクリと頷いて、どこで寝ようかと考えていると、塚平先輩はトントンと自分の隣を指した。


「おいで」


そう一言だけ言って、布団をあける。

私は驚きに行動が固まるけど、先輩に引っ張られて、結局先輩の胸の中にいた。


手にはメモとペンを持っていたから、急いでメモに


『きずぐちとかにあたったら・・・』

「大丈夫。俺上向いて寝るから」


そ、そういう問題なんですか・・・。


「心配すんな」


先輩は、私の頭をぽんぽんと優しくたたく。


「おやすみ、風羽」


優しい優しい先輩の声は、つかれきった私の脳内に響き渡り、すぐ眠りに落ちた。


******


….外が明るい。


もう、朝かぁ・・・。


朝日の目覚ましに目を開けると、目の前には、先輩の綺麗な顔があっ、


え!?


う、うそ、なんで先輩、あ、そ、そうだ!私昨日先輩の隣で寝たんだ!


私は驚きを隠しながら、できるだけ先輩を起こさないようにゆっくり起きる。

内心の焦りは半端じゃない。

むしろここまで静かに動けることに自分自身驚きである。


えっと・・・とりあえず、髪、整えないと。

ここまでボサボサだと先輩に見られるのが恥ずかしい。


髪を梳いて、あまりにもボサボサだったので肩のあたりでひとつにまとめる。


少ししわになっている制服をぱんっぱんっと伸ばしてから、ぐっと背伸びをする。


窓のカーテンを開けると、朝日がパッと入り込んできて眩しい。

窓から目を移して時計を見ると、そろそろ学校へ行く時間だった。


あ・・・どうしよう?

朝ごはんは、途中で買って食べながら歩いたらいいけど、教科書とか入れ替えてないしなぁ・・・。

それに、先輩に黙ってここを出て行くのもなんだか悪い。


「ん・・・あれ・・・風羽、はえぇな・・・」


私の物音に起きたらしい塚平先輩は、目をこすりながら言う。

私はメモにペンを走らせて、


『もう学校行く時間ですから、早くないです』


そう書いて笑って見せると、「おぉ・・・もう、んな時間か・・・」と言って、窓の外を見つめる。

きっと、部活のこととか考えているんだろうな。


…塚平先輩は、私と違って学校が大好きだもん・・・ね。


「なんで風羽がそんな悲しそうな顔すんだよ」


そういって、ニヒヒと笑う先輩。

私は自分の表情に驚きつつも、またペンを走らせる。


『せんぱいは、学校が好きだから、いいなぁっておもって』

「えぇ?んまぁ・・・すきっちゃすきだけど、部活とダチだけだぜ?勉強はノーセンキュー」


先輩はハンドボールの真似をしながら言う。


『いいなぁ』


それだけ書いて、私はふと窓の外に目を移した。

窓から見えるのは、小さい小さい、うちの生徒。

友達同士で登校してくる姿を見ると、どうも胸が苦しくなる。

小学生の頃は・・・皆と話しながら、登校も下校も移動教室もしてたのにな。


・・・あぁ、そういえば、私ってどんな声をしてたんだろう?


…覚えて、ないなぁ。


「どうした?」


声を掛けられて、自分が上の空だったことに気づく。

私は急いで笑顔を作って、口パクで「なんでもないです」と伝えてみた。


・・・けど、塚平先輩の目には笑顔に映らなかったみたいで。


「なんでもないのに、そんな苦し紛れに笑うんじゃねーよ」


そういってバーンと撃つマネをした。


『先輩はするどいですね』


ペンを走らせそう書くと、先輩はニッと笑って、


「俺エスパーになれるのかもな!」


なんて言った。


「そろそろ行かねーと遅刻するんじゃねーの?」


塚平先輩に言われ、ぱっと時計に目をやると、もう先生が来る時間の5分前だった。

私は慌てて荷物をまとめる。


鞄を持って、口パクで


『いってきます』


と言った直後だった。


ピーピーピーピーッッ!!

ピーピーピーピーッッ!!


「あ?なんだなんだ?」


警報装置のような音が病院中を鳴り響かせた。


え?な、なんの音?


私は少し怖くなり、先輩の近くへと寄る。

先輩は私の手を掴んで、私を少し引き寄せた。


そして、病院全体に「緊急連絡、緊急連絡」と放送が流れ始めた。


「ただいま救急入り口にて、お客様がいらっしゃられています。皆さん、病室のカギを閉めて病室での待機をよろしくお願いします。繰り返します__」


お客、様・・・?

違う、これはそうじゃない。

これは・・・。


「不審者、ってことだよな」


塚平先輩は即座に気づいて、小声で私に言う。

私もコクリと頷く。


「わりぃけど、カギ閉めるの頼んでいいか」


そう頼まれ、私は急いで鍵を閉める。

先輩の元へ戻ると、先輩は点滴を外していた。


・・・って、え?!


『せんぱい!だめですよ!!!』

「大丈夫、もう大分痛み無くなった。麻酔効いてるだけかもしんねーけど・・・。でも、こんな状況でこんなもんつけてられっか」


ベットサイドに座って、耳を澄ます先輩。

私も息を潜めて外の様子を伺う。


・・・ここは3階。救急入り口ってことは1階。


まだここにはこない・・・はず。


「まだこっちにまでは上がって来てないな」


真剣なまなざしで、ドアを見つめる。


・・・どうして、私がいるといつもこうなるんだろうか?

もしかして私は疫病神なのかもしれない。

声をのろわれ、最終は運命まで呪われたりして。


・・・シャレに、ならないね….


「そんな怯えた目すんな。大丈夫、風羽は俺が守る」


塚平先輩、鋭すぎ・・・。

どうして私の心読めちゃうんだろ?

やっぱりエスパーとかなんだよ、きっと。


…そんなことを思っていたときだった。


パーンッッ!!


私は反射的に耳を押さえる。


「銃・・・?!」


銃声だ。1階で犯人が発砲したんだ。

耳を劈くような音が、2,3度聞こえた。


パーンッッ!

パーンッッ!


「どんだけ打ってんだよ・・・!!1階の人たち無事なのか!?」


先輩は小声だった声を荒立てた。


『おちついてください!』

「あ、あぁ・・・焦っても意味ないな・・・スーッ….ハァァァ….」


先輩は大きく深呼吸して、今度は外を見据えた、

外には、遅刻気味の生徒たちがとろとろと歩いている風景。

誰も今起こってることに気づいてはいないみたいだ。


ほんとに、何がおきてるの・・・?


「手をあげろ!!動くんじゃねーぞ!!おい、そこのドクター!」


知らない間に、犯人の声が近くなっていた。

ま、まさか・・・この階にいる、・・・ってこと?!


『うそ・・・』


口パクで驚きを隠せずにいると、


「あぁ・・・ほんとみたいだな。すぐそこだ…」


そう先輩が口を開いた直後、また銃声が鳴り響いた。


「一部屋だけカギ開けろ。人質だ」


犯人はおそらく、ドクターに言っている。


「わ、わか、わかりました・・・。こ、ここ、ここの部屋でいいですか?」


そうドクターは震え声で言う。

ここの部屋って、どこの部屋・・・?

いや待って。・・・ドクターの声、間近に聞こえる、よね?


トンットンッ


「患者さん・・・申し訳ありません。お部屋を、開けていただけますか・・・」


ノック音とその声が届いた病室は、・・・私たちの病室だった。


うそ・・・。


「ちっ…。なんで開けなきゃなんねーの?」

「お願いします!開けてください、ひぃっっ!?」

「早くしろや!!!」


また銃声。


「風羽、ごめん。・・・けど、絶対守るから。俺が死んででも」


そういってドアへとたった塚平先輩の裾を引っ張る。

「ん?」と振り向く先輩に、急いでペンを走らせた。


『しんでもなんていわないで』


「ごめん。じゃぁ言い直す。…風羽は俺が守る。誰も死なせない」


塚平先輩は、ふわっと笑う。

うん。その笑顔がいい。少し辛いけど、その笑顔がいいよ、先輩。


先輩は、恐る恐る病室のドアを開けた。


と、同時、バンッと病室のドアが開いた。


「てめぇら今から人質だ!大人しくしろ!!」


銃を持った男が、叫んだ。

塚平先輩はすぐ私のところに戻ってきて、私の手を握った。


「大人しくしてんだろ。縛るならさっさと縛れよ」

「ちっ、くそ生意気な奴んところにきちまった、なぁっ!!」


男は、銃で塚平先輩の首の後ろを殴った。


「うぐあっ・・・ふ・・・う….」


先輩はバタッとその場に倒れる。


う、そ・・・?!

先輩!ねぇ先輩!!


私は塚平先輩は必死に揺らす。


「女、お前もだ」


そういわれた瞬間、私の意識も、なくなっていた。


******


「ぅ…う…ふう….ふう・・・!風羽っ!」


…耳元で声がして、閉じていた目をゆっくり開く。

声主は、塚平先輩だった。

小さな声だけど、私の耳元で名前を呼んでくれていたらしい。


「女、目を覚ましたか」


犯人は私をみてニヤリとする。


・・・そうだ、私と塚平先輩、殴られて意識失ったんだ。


「2時間たってもドクターからはなんの報告もなしか。ふんっ、おもしろくねーなぁ。・・・そうだ。女、脱げ」


・・・え?


私は犯人に目を見開く。


ぬ、げ・・・?この人、なにいってるの?


「てめ!!風羽に変なことさせんじゃねぇ!!!」

「野郎は黙ってろ、耳障りだ。あぁ・・・まぁ、お前こいつの彼氏か。そりゃぁ、彼女の裸、ほかの男に見られたくねぇなぁ・・・。けどま、お前もこいつの裸みてーだろ?いい感じに興奮するだろ?」


そういいながら犯人は私に迫ってくる。

ベットに座らされて、手足を縛られている私は身動きできず、ただその迫る瞬間を見ているだけ。


いやだ・・・いやだいやだ・・・!!


「おお?拒否らないってこたぁ、あれか?やってほしいわけか」

「ちげぇ!!風羽はっ・・・くっそ・・・!!」


・・・きっと先輩は、「声が出ない」といおうとした。

けれど、私のために黙ってくれたようで、言えないもどかしさに苛立ちを隠せずいる。


「リボンをとってぇ」


犯人は私のリボンに手をかける。

首を横に振って拒否するも、そんなのには気づいてもらえない。


こないで!やめて・・・!やめて・・・いやだ・・・。


恐怖となにも言えないもどかしさに涙があふれる。

お願い・・・やめて・・・。


「ボタンを外してぇ・・・」

「やめろ!!お願いだ!!やめてくれっっ….!!」


塚平先輩の必死の叫びを犯人は無視して、私のボタンをどんどん外していく。


「1つー。2つー・・・白い肌が瑞々しいなぁ・・・」


いやだ・・・気持ち悪い・・・!!


そう思った瞬間、真横からブチッと何かが切れる音がした。

犯人と私は驚いて音のしたほうを見ると、塚平先輩が__立っていた。


「な・・・!?」

「俺のに触ってんじゃねぇぞ!!くそがああああ!!」


音の正体はロープがちぎれた音。


「ぐおあっ!?うぐっ…くっそ餓鬼・・・!!」


塚平先輩が足で溝打ちをくらわす。

ピンポイントであたったらしい犯人は、もだえながらも銃を手にして、塚平先輩に向ける。


「しょうもねぇことしてんじゃねぇよ!」

「なっ!?いっ・・・ぐおっ!うぐあぁぁ・・・」


犯人は手を蹴られ銃をふっとばし、もう一度溝打ちをくらって倒れこむ。

私はその光景を呆然と眺めていた。


「くそ・・・がきぃ・・・・」

「てめぇみたいなんよりクソ餓鬼のほうがよっぽどましだボケ」

「ふっ・・・だがなぁ、まだまだあめぇんだよ!!!」


犯人は体を起こし、シャッと刃物を…私に突きつける。

ギラリと光るそれに、私は息ができなくなる。


・・・うそ・・・。

ナイ、フ・・・?


「てめ・・?!なにしやがる!!」

「おっと動くなァ?動いたら一発だ」

「っ・・・!」


塚平先輩は悔しそうにその場にたたずむ。

私はそんな先輩をみて、心が痛む。


・・・私のせいだ。

私の運のせいで、こんなことになったんだ。


・・・ごめんなさい、先輩。

ごめんなさい….


犯人は一度私から離れて、先輩の元へ歩いた。


ガコンッドコッガコッ


「うっ・・・うぅっ・・・・!!ゲホッゲホッ!!」

「おらぁ・・・苦しいかァ?苦しいだろォ、なァ?」

「て、め・・・・ぜってぇ・・・ゆるさ、ねぇ・・・」

「あぁ?こんな状況になってまでんな反抗的なこと言うのかァ?アァ?!」


ガコンッ


「ウグァアッ・・・!」


塚平先輩は何度もおなかに蹴りを入れられる。


やめて・・・お願い、もうやめて・・・。


大事な人、もう傷つけたくないよ・・・もうやだ・・・お願い、お願い・・・。

やだよ・・・もう誰も傷つけたくない・・・お願い、お願いします・・・。


「おらァ!!」

「うぐあっっ・・・」


床にうずくまる塚平先輩。

私はなにもできず、ただただその光景を見てるだけ。


…どうして私はなにもできないの?

どうして助けられないの?


助けたい・・・先輩を助けたい。


けど、なにもできない。

誰かっ・・・誰か助けてください・・・。


誰か・・・・。


誰かっっっっっ…..!!!!!


「た…す…け…て…」


「・・・ふ、う・・・?」

「あぁ?」


「だれか….たすけて…」


__塚平先輩の目が、カッと開いた。


・・・先輩、届いた?

私の・・・私の、声・・・。


「てめぇなんかに・・・負けてたまっかよ!!」

「あぁ?!うおっあぐあ?!」


カツンッとナイフが床に落ちる音が鳴り響く。

__塚平先輩が一気に蹴り落としたのだ。


おなかを押さえながら立ち上がり、口角から出た血をぐっと袖でぬぐった。


「へへ・・・よくここまでやってくれたもんだな・・・けど、もうお前の好きにさせねぇかん、なっ!!」

「うぐあ!?な、くそ餓鬼!!」


ナイフに手を伸ばしていた犯人は手を蹴り飛ばされ、ナイフも同時に蹴り飛ばされていた。

衝撃でしりもちをついた犯人を、塚平先輩は見下ろす。


「まぁよくもここまで俺の大事な人傷つけて、ついでには怪我人の俺を殴るだの蹴るだのしてくれたもんだ」

「ふ、ふはは!!餓鬼にして何が悪い?お前ら人質だぜ?しかたね、ひぃい!?」


塚平先輩はさっき蹴り飛ばしたナイフを犯人に突きつけた。


「あ?人質だから仕方ない?なに言ってんのお前馬鹿なの死ぬの」


犯人の頭をガッと掴んでから、先輩なナイフを床にたたきつけて、思いっきり踏んづけた。

ナイフはバリッと音を立てて割れて、ナイフとしての役割をなくす。


「さ、これで武器はなくなった。残念」


ニヤリと塚平先輩が怪しく笑う。


「俺のターンだ、クズ」


塚平先輩の目が、一瞬にして変わる。

昨日までの、優しい目ではない。


そ、その・・・人一人殺してそうな目、っていうのかな・・・。


「お、お前のターンとか、な、何いってんの・・・?はっ、お前だから人質だって言ってんだろ?」

「人質だからなんだよ?お前今自分の状況下わかってる?」


・・・この人、アホなのかな・・・。


今自分には何にも武器はないし、頭掴まれて動けない状況なんだから、塚平先輩に勝てるわけないじゃない・・・。


塚平先輩は自分が縛られていたロープを取り出して、ニコッと綺麗に笑う。


「さ、クズ。処刑だ」


ロープをぐるぐる犯人の体に巻きつけてから、足を縛りつけて横向けに倒した。


「な、なにをするんだ!!」

「うるせぇ黙れクズ」


先輩は病室にあったタオルで犯人を目隠しした。


え、えっと・・・先輩?これ何プレイ?


「お、おおおいくそ餓鬼!!なんだこれ!!外せ!!こんなことやってただ済むと__」

「ただで済むよ?なんてったって俺ら被害者だし。わかる?これ、正当防衛」


そういって勝ち誇ったように笑った。


「風羽!ごめん、ロープ今外すな」


私のロープを外して、病室にあったタオルケットを私にかぶせた。


「ごめんな、怖い思いさせて・・・ホントにごめん」


先輩は私をぎゅっ…と抱きしめる。

その温かさに、私はホッとすると同時に、自分の体の力が抜けるのを感じた。


「疲れたな」

「せ…ん…ぱ…い….」

「おやすみ」


そこから私の意識はなくなった。


******


「もうほんとこの子ったら・・・。あんたどういう体の構造してるの?」

「いやしゃーねーだろ?しらねぇ間に痛みもなかったんだからよ」

「しゃーねーって・・・もう・・・」


…塚平先輩のお母さんの声・・・と、塚平先輩の声だ・・・。


私はソーッと目を開けた。


「あら、風羽ちゃん起きたわよ。体調はどう?」

「風羽大丈夫か?」


・・・あぁ、私あの後、意識なくしちゃったんだ。

ここは新しい病室だな、きっと。


「だ…い…じょ…う…ぶ….」


出るようになった声で伝えてみると、塚平先輩と、塚平先輩のお母さんは嬉しそうに笑ってくれた。


「うん、よかった。・・・ホントによかった…」


塚平先輩は私の頬に手をやって、泣きそうな顔で笑う。


「せ…ん…ぱ…い…わ…ら...て...?」


まだ一文字言うのに時間がかかる。

そんな声も二人はゆっくり聞いてくれる。


「おう、俺笑うわ」


そういって塚平先輩はニッといつもの優しい笑顔で笑った。


「風羽ちゃん、よかったわね」


塚平先輩のお母さんもふわりと笑ってくれた。


「さて・・・お母さんは邪魔だから帰ろうかしら」

「おう、帰れ」


塚平先輩はドアに指をさして言う。


「あらやだ、自分の親にそんなこと言うなんて薄情な子供ね!」

「はぁ?!電話して、「用事済んだらいきますぅ」とか言ったのどこのどいつだよ」

「誰かしらそれ知らないわ」

「どっちが薄情者だこのやろう・・・」


相変わらずこんな会話なんだなぁ・・・。

なんかやっぱりほほえましい。


「まぁホントに帰るけれどね。それじゃぁ、風羽ちゃんお大事にしてね。奏、ちゃんと看病しなさいよ」

「へーへーわーってますよ、見舞いありがとよ」


ガタンッと病室のドアが閉まると、病室は風の音だけを響かせて静まり返る。


「…風羽」


先に口を開いたのは塚平先輩だった。

私は塚平先輩の方を向いて、首を傾げる。


「あの時、俺に声きかせてくれて、ありがとう。あれなかった俺絶対死んでた」


そういって、恥ずかしそうに笑った。


「きこ…え…た…な…らよか…た」

「うん、十分聞こえた。つか風羽の声かわいすぎだろ」


先輩は私を抱きしめる。


「ふふっ…」

「ん?なんだ?」

「せん…ぱい…が…あま…えて…る」

「そらー俺だってたまにはこんな時ある」


そういいながらギュッとよりいっそう強く抱きしめた。

んもう・・・先輩ったら。


「声はリハビリすればしっかり出せるようになるみたいだから、頑張ろうな」


コクリと頷く。

やっと、私は皆と同じように声が出せるのかと思うと、とても嬉しい。


__久しぶり、私の声。


久しぶり、私。


「さーってと、おれぁ学校と察に電話しねーと」

「ど…し…て?」

「ほら、來也の件。あいつのことはしっかり報告しねーと、次誰が被害にあうかわかったもんじゃねーってな」


塚平先輩は私から離れて、ケータイを鞄から取り出して、


「ん、それじゃちょっと行ってくる」


先輩はひらりと手を上げて病室を出て行く。


病室はまた静かになって、風の音だけが響く。


私はふと思い出す。

…そうだった、私、自分の声が出るようになったら、手紙を書こうって思ってたんだ。


__声がでなくなったあの日、絶望とはよそに、自分が自分の声を取り戻した日にはおかあさんとお父さんとおにいちゃんに手紙を書くと決めていた。


私は自分の鞄を見つけて、筆箱と便箋を取り出す。

いつ自分の声が戻ってもいいようにと、いつも持ち歩いていたのだ。


               家族の皆へ

お母さん、お父さん、お兄ちゃん。元気ですか?・・・私は、元気じゃないかも。

けど、元気です。そっちの世界は、楽しいですか?楽しかったらいいなぁ。

あのね、聞いてみんな。私、やっと声が出るようになったの。

まだ一文字言うのにも時間がかかっちゃうほど、ゆっくりしか言葉を言うことはできないけど、それでも私のこの喉から声が出てるの。

びっくりでしょう?私もびっくりした。とっても急だったもの。

でね、この声がでるようになったのは、塚平奏先輩のおかげなんだ。

塚平先輩がいたから、私の声は出るようになったんだよ?

とても、温かい人で優しくて・・・もう文字じゃ表せないの!

皆に塚平先輩会わしてあげたかったなぁ・・・。

あ、よかったらこっちの世界に下りてきて、一目みてね?

すごくカッコいい人なの!強いし!


お母さん、お父さん、お兄ちゃん。・・・そういえばもうすぐ命日だね。

お墓参り、たくさんお花もっていくよ。それですごく綺麗に掃除するから、楽しみにしててね?そのとき私の声聞かせてあげる!


風羽より 2013.5.25


うん、これでよーし。

家に帰ったらお仏壇にお供えしよう。


__きっと、届くよね。


「その横に、声が届いた日ってつけるのはどうだ?」

「ひぁ!?」


突然の声に体ごとびくっと浮いてしまった。

先輩はくすくす笑いながら、「ごめん、驚かした」と言う。


んもう・・・ほんとにびっくりしたんだからー!


「んで、俺の提案どうよ」


そういわれ、さっき言われたことを思い出す。

…声が届いた日、か。いいかもしれない。


私は日付の隣に、『声が届いた日。』と付け足す。


「うん、なんかいいな」


塚平先輩はニコッと笑った。


「….つ…か…ひ…ら…せん…ぱ…い…」

「ん?」


私はメモを取り出して、いそいそと書く。


『私と一緒に、家族のお墓参りにいってもらえませんか?』


「ん?ほう、いいよ、全然。けど、俺勘違いするけど大丈夫?」

「ぇ…?」


どこをどう勘違いするの?

そう目だけで問うと、先輩は私の耳元でささやいた。


「ご挨拶」


・・・ご、あいさつ・・・?


「ぇ?!」

「おう」

『そ、そそそ、そうなるんですか?!』

「いやだって俺、風羽に惚れちゃったしな」

『ほ、ほれ、ほれ・・・!?』

「風羽は?」

「ぇ…?」


・・・私は?

私は、塚平先輩が…。


・・・嫌いじゃない、普通じゃない。


じゃぁ、一つしかないよ、私。


「…す…き…」

「うん、俺も好き」


温かい風が、ふわりと病室のカーテンを揺らす。

その風に流されるように、私の耳元で。


__塚平先輩も、小声でそういったんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ