WELCOME 第三話
「いい体格してるね~。何かスポーツでもやってるの?」
アンリさんは、岳史の真横に座った。
空いてる場所はたくさんあるのに、そこ?
筋肉を確かめているのか、岳史の体をペタペタ触っている。
とっても楽しそうだ。
手フェチに加え、筋肉フェチでもあるのだろうか?
「モモ…」
なんなんだよ、このひと。
岳史の声と表情が、僕にそう問いかけている。
ごめん、岳史。
僕にも、よくわかんない。
「アンリさん、岳史は柔道をやってるんです」
教えてあげると、アンリさんのきれいな顔がこちらを向いた。
「ああ、前にそんなこと言ってたね。
へえ、彼のことだったんだ。確かに強そうでカッコイイね、君」
「ど、どうも」
肩をポンと叩かれた岳史は、引き攣った顔でお礼を言った。
アンリさんの視線は、今度は僕の手元に向けられていた。
「…………」
なんだか落ち着かなくて、モジモジしてしまう。
「ノゾミ、指輪してないの?」
目ざといアンリさんの指摘に、飲みかけていた紅茶を吹き出しそうになった。
今、その質問はマズイんですけど……。
岳史が怪訝な顔をしている。
男の子でも指輪をしている子はいるけれど、僕はそういうタイプではない。
「学校はアクセサリー禁止なので…
あ、あのね、岳史。アンリさんはジュエリーデザイナーなんだよ?」
僕は誤魔化すようにして、岳史に話を振った。
「へえ、なんかピッタリ…」
「何かあったら、相談に乗るよ?」
「はあ…」
にこやかなアンリさんに、岳史が曖昧な返事をする。
普通の男子高校生(柔道部員)である岳史に、宝石購入の予定がある筈もない。
それにしても、アンリさん、何の用事で来たんだろ?
指輪代の集金とか?(まさかね)
岳史の前だと下手なこと聞けないし。
おばあちゃん、まだかなあ……。
ヤキモキしながらドアの方を伺っていたら、思いが通じたのかノックの音がした。
ドアを開けて入って来たメイドさんが、おじぎをする。
「望様、香月様がおみえになってます。こちらにお通ししてよろしいですか?」
「え」
香月さん?
面倒くさいひとが増えちゃった。
「…はい。お通ししてください」
気は進まないけど、断る勇気はないよ。
香月さんは、すぐに応接間に現れた。
「やあ、望君。お邪魔するよ。
なんだ、来客ってアンリのことか。あれ?もうひとりいるね。
同じ制服ってことは、望君のお友達かな?」
僕が紹介する前に、岳史が立ち上がって礼をする。
「初めまして、関岳史です」
「ああ、そんなにかしこまらないで。
僕は香月龍二といいます。望君のクラスメート?随分大人っぽいね」
香月さんはそう言いながら僕の隣に腰を下ろした。
「モモ、俺に紹介したいって…」
このひと?と、岳史に目で問われ、僕は小さく首を振った。
「へえ、『モモ』って呼ばれてるんだ。ああ、旧姓は確か『桃屋』だったね。
かわいいな。僕も『モモちゃん』て呼んでいい?」
香月さん、『桃屋』ではなく、『桃田』です。
思わず訂正しようとしてハッとする。
「……旧姓?」
岳史の目が、まん丸になっていた。
「モモ、き、旧姓って……おまえ、まさか?」
信じられない、という顔で、僕を凝視する岳史。
アンリさんが、僕と岳史を見比べ、面白そうな顔をした。
隣の香月さんからの視線も感じる。
「いや、あのね?えーと……」
三人の強い視線に押され、頭が真っ白になってしまった。
必死に言葉を探していると、
応接間のドアが、ノックもなしに開かれた。




