いい加減なエンマ様
「おぉ……すげぇ」
僕は思わず歓声を上げた。目の前にはひげ面で怖そうな、おじさんが立っている。胸に丁寧にひらがなで『えんま』と書かれている。
本当に裁かれるんだなぁ——。僕はドキドキした。
「お前は、佐藤一郎かぁ……」
閻魔はそう言って僕の顔をジロリと見た。
怖い——。僕は思わず目を伏せた。
「平凡な名前だなぁ。マジ爆笑」
閻魔はそう言って笑った。僕は拍子抜けした。
「そ、そうですよね。アハハ」
僕は苦笑いするしかない。閻魔様ってこんな人かよっ、と突っ込みたくなる。
「お前の行動の中から、良いことと悪いことは全部調査済みだから」
閻魔が言った。はい、と答えた。
「良いことと悪いことが半々だ。じゃあ……地獄行きね! はい、次の人!」
「ちょ、ちょっと! 閻魔さん!」
「ん? 何か用?」
「何か用? じゃないですよ。どんだけ大雑把なんですか!」
僕は問いつめた。
「何キレてるの? サトちゃん」
「さ、サトちゃん?」
僕は聞き返した。
「こういう決め方普通だから。……てか、何を想像してたの?」
「いや、もっとちゃんと、真面目に天国か地獄かを考えて……」
「あぁ、その考え方素人」
「どこがですかっ」
すると閻魔は解説を始めた。
「人は皆、悪事はしてるの。もうそんなのわかりきってることじゃん」
「まぁ……」
僕は頷いた。「そうでしょうけど」
「だから、天国とか地獄とか全部嘘だよ。本当は二つともないの」
「えぇー」
これは驚いた。下界ではあると信じていたのに……。天国も地獄もないのか。
「じゃあ、僕はどこに?」
「そのまま、普通にこの世界を楽しんでよ」
閻魔はそう言って、手を振ってきた。と、その時だった。
「あ、ごめんサトちゃん」
「なんですか?」
僕は聞き返した。
「君の名前間違えた」
「え?」
「さとういちろう、の『ろう』って、この『郎』かぁ」
閻魔は紙に『郎』と書いた。
「そうですけど」
僕は頷いた。
「本当はここに来るのは、君じゃなくて、こっちの『朗』だったよ」
閻魔は同じ紙に『朗』と書いた。
「どういうことですか?」
僕は聞いてみた。答えを聞くのが怖い。
「君は本来死ななくてよかったんだよ。私が部下に間違えて殺させちゃった」
閻魔は「てへっ」と舌を出した。
「いい加減すぎだよ!」
僕は怒った。
結局僕が、佐藤一朗さんのために、あの世で過ごしたのは言うまでもない。
本物の閻魔様は……?