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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

赤い結婚 透明な結婚

作者: マンムート
掲載日:2026/10/09

 


 お前は結婚した。今夜は初夜だ。



 ああ、そうだ。オレは結婚した。



 お前の目の前には婚約者がいる。



 そうだ。オレの目の前には婚約者がいる。



 どうする? 彼女をちゃんと妻として扱うのか? お前はあの女と別れたのだからな。



 ちがう。オレは別れていない。



 なぜ別れたと言った。



 両親がうるさいし、家を継ぐためには結婚しないとな。


 継ぎさえすれば、なんとでもなる。


 オレの真実の愛を、この屋敷に迎えいれる。



 では、お前の目の前でお前と結ばれるのを待っている婚約者はどうする?



 抱くさ。


 抱いてしまえば、傷モノになった相手は逆らえない。


 オレが真実の愛と関係し続けても、もう帰れない。


 白い結婚ならぬ、純潔を散らして初夜の臥所を赤く染める、赤い結婚というわけさ。



 なるほど。



 白い結婚さえしなければ、3年で離縁するのも無理だしな!


 まぁ、せいぜい、気が向いたら可愛がってやるさ。




 だが、それでお前と目の前の正妻となる女との間に、子供が生まれたらどうする?



 生まれないようにするさ。今夜も用意してある。


 こいつの子袋を、一生子供が出来ないようにしてしまうクスリだ。


 孕み袋を酸で焼いてやれば万事完了というわけさ。



 思い切ったことだな。どこにあるんだそれは?



 すでにこの部屋に隠してある。ベッドの下。裏側に貼り付けてある。



 なるほど考えたものだな。だが、その前はどこに隠していた。


 お前の部屋か?



 ああ、そうだ。オレの使っている机の一番下の引き出しが二重底になっている。そこにある。





 オレはいきなりの痛みに目を覚ました。


「ぐっ……」


 腹を蹴られたのだ。



 こちらを見下ろす両親がいた。


 冷え切った目をしていた。虫けらを見るような目だった。



「!」



 どういうことだ!?


 オレはあのどうでもいい女と結婚して初夜を――



 父が抑揚のない声で告げた。


「お前をこの家の後継ぎにするわけにはいかない」


「ど、どういうことだよ!?」


「結婚式までまだ一ヶ月はある。間に合って幸いだった」


 母が事務的な声で、


「最悪の事態だけは回避できましたわね。これで先方に多額の賠償を払わずに済みますわ」



「なにを言ってるんだ! ちゃんと説明しろ!」


 オレは起き上がろうとして、動けなかった。


 いや、寝てすらいなかった。


 硬い椅子に縛り付けられていた。



「お前の稚拙な計画は、全て聞いた。赤い結婚とはな」


「御令嬢を家に縛り付けておく上に、二度と子供を産めない体にするなんて……おぞましい」



「!」


 なぜか両親は、オレが初夜の場で計画していたことを全て知っていた。



「息子の初夜の場を、覗き見してたのかよ!」



 父は平板な声で告げた。


「初夜。はっ。お前の結婚はまだ一カ月先だ」


「え」


 母は冷たい声で


「お前はさっき飲んだワインで眠り、催眠術で初夜を見させられただけですのよ」


「は、はは! なにを言ってるんだ母上」


「では、結婚式の記憶はあるのかしら」



「当たり前じゃないか! 結婚式があったから初夜が」


「結婚した記憶はあるのかしら?」


「あ、あるにきまってる! オレは――」



 言葉が途切れた。何も思い出せない。



 部屋に執事が入って来た。


「旦那様」


 執事が父に見せたのは、オレが引き出しの二重底に隠しておいたクスリだった。



「お前は赤い結婚というおぞましい夢を見ただけだが、クスリは実在したようだな。術師はいい仕事をしてくれた」


「お高うございましたが、腕の良い方を雇った甲斐がありましたわね」


 執事は、


「人の臓腑を焼けただれさせる酸です」



 オレに逃げ道はなかった。



 父は淡々と告げて来た。


「お前は今晩死ぬ。寝ている間に心臓が止まった」


「なにを言ってるんだオレは――!」


「ジェラルドが我が伯爵家を継ぐ……多分な」



 母が


「あのご令嬢、ジェラルドとの婚約を承知してくださるといいのですけど……優秀ですもの」



 執事が、オレの首筋を背後から腕で押さえつけ、髪を掴んで顔をあげさせた。



 父が、何かの液体が入った小瓶をポケットから出した。


 ぽしゅん、という間の抜けな音と共に小瓶の蓋があいた。



「一瞬で死ぬ」


「慈悲のつもりかよ!」


「乱れた死体だと、何か勘繰られるかもしれませんもの」



 執事に鼻をつままれた。


 父は小瓶の口を、オレの口に近づけて来た。



 首筋を押さえる腕は強靭で、顔を振ることすら出来ない。



 息が出来ない。


 唇が開いてしまう。



「ああ」



 オレの口から洩れたのは絶望の吐息。


 さっきの初夜は、赤どころか、白ですらない、実在しない結婚。


 透明な結婚だったのだ。



 妙に甘い液体が小瓶から溢れ、喉を下って行った。



 その瞬間、思ったのは。


 弟も、オレと同じように試されるのだろうか。だった。




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
多額の賠償金のほうが息子の命より大事だったのか 廃嫡して幽閉する費用も惜しむんだから当然か
さて、コイツに愛された女は逃げられたかな〜? 子供が産めないように例のクスリで焼かれたりして。
面白かったです! 透明結婚とは斬新で意外性がありました。 ご両親がまとも?でよかったかな。 弟さんは誠実でありますように。
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